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2017.06.29

大人が注意すべき感染症

かつては子どもの病気だった麻疹、風疹、百日咳などの感染症。現在は大人への感染が問題になっています。大人がかかる理由や、症状、予防方法などについて探っていきましょう。

子どもの感染症になぜ大人がかかるのか?

近年、麻疹風疹百日咳などの感染症が大人で問題になっています。感染症とワクチンの歴史から、その理由をひも解いてみましょう。

  • 1 ワクチンのない時代(1960年頃まで)
    麻疹や風疹、百日咳は感染力の強い病気で、全国で流行を繰り返していました。1000人に1人は死者が出ていた麻疹、赤ちゃん期に感染すると死亡する可能性のある百日咳は”命定め”の病気でした。流行は途切れなかったため、これらの病気にかかることなく大人になることはまずありえません。そして流行するたびにブースター効果※1によって免疫が強化され、二度と発症しない身体になっていました。
  • ※1ブースター効果:体内で一度作られた免疫機能が、再度抗原に接触することによってさらに免疫効果が高まること
  • 2 ワクチン接種が始まる(1970年頃)

    1970年前後から小児対象にワクチン接種が始まり、これらの病気にかかる人が一気に減少しました。しかし、流行が途切れるほどではなかったためブースター効果を得る機会があり、”ワクチンで得た免疫+ブースター効果で免疫強化”され、最低限のワクチン接種でも一生効果があるように見えていました。
  • 3 ワクチンが始まって数十年後(2000年~現在)

    2000年以降、多くの人がワクチン接種をしているため、流行が途切れ始めました。するとブースター効果で免疫強化される機会が少なくなり、小児期にワクチンで得た免疫だけで大人になる人が多くなります。こうしたワクチン接種だけでは免疫が大人までもたず、流行が起きれば大人でも発症する結果になってしまいました。
  • 現在の日本は3番目の段階にいます。ここを乗り切るには、①大人でもワクチン接種をすること②子どもの時期の接種回数を増やすこと③発症しても早く発見し流行を広げないこと、を徹底していく必要があります。

 

感染症の症状

病名 子どもの症状 大人の症状
麻疹
  • ・2日程度の風邪症状後、半日ほど熱が下がり、再び高熱になる(1週間程度)
  • ・目の充血
  • ・激しい咳鼻症状
  • ・全身性の発疹
  • ・ひどいぐったり感
  • ・奥歯付近の頬粘膜にできる白い付着物(Koplik斑)など
  • <ワクチン接種をしていない場合>
  • ・子どもと同様の症状
  • <ワクチン接種者で発症した場合(修飾麻疹※2)>
  • ・風邪症状の時期がなく、突然発疹+発熱時期に入る
  • ・発熱期間が短い
  • ・微熱+発疹のみ
  • ・Koplik斑がないなど
風疹
  • ・発熱(3日程度)
  • ・全身性の発疹
  • ・後耳介部(メガネのつるが当たる部分)や後頚部のリンパ節の腫れなど
  • ・子どもと同様の症状
  • ・発熱・発疹の期間が子どもより長い
  • ・関節痛が強く出るなど
百日咳
  • ・風邪症状(1~2週間)
  • ・出だすと止まらない咳(スタッカートという)、特有の息継ぎ(ヒューという笛音)、咳き込み嘔吐(2~6週間)など
  • ・子どもと同様の症状
  • (特有の息継ぎがないことも)
  • ・ワクチンをしてからの経過年数が短い子どもに比べて、咳症状が強く出るなど

※2修飾麻疹: 麻疹に対する免疫を持っているが不十分な人が麻疹ウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症すること

大人と子どもで症状は少しずつ異なります(表を参照)。麻疹は修飾麻疹の場合、見抜けないことも多く、感染拡大につながってしまいます。近年、10代後半~成人で麻疹患者が散見されています。ワクチン未接種、もしくは1回しかワクチンを接種していない人が海外旅行中に感染、日本に戻ってから発症し、周りの人々に感染が広がっていくケースが多いようです。

風疹は全部の症状がそろわないこともあるため、見抜けないことも多くあります。症状は全体的に軽く、入院になることはめったにありませんが、脳炎や血小板減少性紫斑病などの重い合併症を引き起こすこともまれにあります。大人で問題になるのは妊娠前半の妊婦が感染した場合で、胎児が先天性風疹症候群(CRS)になる可能性があります。CRSの3大症状は(1)先天性心疾患(2)白内障(3)難聴で、生まれた子どもは一生ハンデを背負うことになってしまいます。

百日咳はワクチンを受けていない赤ちゃんがかかると、命に関わるほど重症になる病気です。あまりの咳こみで白目に出血する時や、無呼吸を起こすこともあります。大人ではマイコプラズマや咳ぜんそくと診断されることが多く、見抜くのが困難です。以下の特徴が当てはまる場合は、百日咳の可能性があるため病院を受診してください。


百日咳の特徴

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1週間以上続く咳に14のいずれかの症状を伴う

臨床※3的百日咳
(百日咳と確定するには培養や血清診断、百日咳の遺伝子診断による検査が必要です)
※3臨床:患者さんに接して診療、治療を行なうこと。
ここでは医師が視診、触診、聴診、打診などで得た情報から病名を判断すること

病気ごとの詳細についてはこちら→ 麻疹風疹百日咳

 

子どものワクチン接種回数の増加

現在、小児対象のワクチン接種回数は増え、麻疹・風疹は2006年に1回から2回になったことで、小児の患者さんはほとんど見られなくなっています。

小児対象のワクチン回数

麻疹・風疹: 1歳時と5~6歳時の2回(麻疹風疹混合ワクチン)

百日咳: 生後3カ月~7歳半までの間に4回(4種※4混合
<DPT-IPV>ワクチン)。日本での標準的な接種年齢は生後3カ月から6カ月頃までに3回接種+1歳半前後に4回目を接種

※4 4種:ジフテリア+百日咳+破傷風+ポリオ

それぞれ、小児対象ワクチン無料券が自治体から配られます。無料券が届いたら早く予防接種に行きましょう。百日咳の場合、海外では日本よりも接種回数が多く、5歳前後(4種混合ワクチン)と11歳以降(大人用3種※5混合ワクチン<Tdap>)でさらに追加接種します。日本でも小学校入学前と12歳前後(2種※6混合<DT>ワクチンの時期)に追加接種しよう、と検討が始まっています。

※5 3種:ジフテリア+百日咳+破傷風 
※6 2種:ジフテリア+破傷風

 

予防のポイント

ポイント1

大人のワクチン接種

これらの感染症は感染力が非常に強いため、ワクチン接種が最も確実な予防法です。
上述した小児対象のワクチン接種はもちろん、大人のワクチン接種も重要になります。
小学生~成人で麻疹・風疹のワクチンを未接種、もしくは1回しか接種していない場合は、麻疹風疹混合ワクチンを早めに接種しましょう。一生の間に最低2回はワクチン接種をしてください。最近は海外、特に東南アジアで麻疹の流行が見られます。海外旅行、海外勤務を控えている人は要注意です。また、医療関係や保育の職場では、ワクチン歴があっても血液検査で麻疹抗体価(麻疹への抗体の値)を測定することをお勧めします。抗体価が陽性であっても、それが低い値に留まっている場合、修飾麻疹の形で発症し周囲にうつす可能性があるので、ワクチンの再接種をしましょう。妊婦は接種できません。ワクチン接種後も女性では2カ月は避妊してください。風疹では20~40代の男性がかかり、妊婦に感染させてしまうことが問題になっています。ワクチンを接種して妊婦を守りましょう。
現在、百日咳は残念ながら日本での大人用ワクチンはまだ製造されていません。

参考:【ニュース】「渡航前外来」をご存知ですか? 海外旅行前後の健康管理に(2017/5/8)

ポイント2

兆候がある場合は病院へ

大人が感染した場合、かかっていることに気づかないことも多く、感染拡大につながってしまいます。上記の「感染症の症状」にあるような兆候が見られた場合は、速やかに医療機関を受診してください。 “海外旅行から帰ってきて2週以内に発熱+発疹が出た”、”友達が麻疹になり自分も同じ様な症状になっている”などの場合は、麻疹に感染している可能性が高いため、受診する前に予め医療機関へ電話をして指示にしたがってください。

ポイント3

周りへの感染を避ける

麻疹は患者さんと同じ空間に10分いるとうつってしまうほど強い感染力を持っています。風疹や百日咳も飛沫感染をするため、他者への感染を防ぐことが重要です。疑わしい場合はマスクをして感染を防いでください。麻疹は解熱後3日まで、風疹は発疹が出ている間は他者への感染力があるため隔離が必要です。百日咳は有効な抗生剤の内服を最低5日行なえば感染力はなくなります。

 

藤野 元子

解説:藤野 元子
済生会中央病院
小児科医長

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