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国立感染症研究所によると、11月21日現在の今年の患者数は全国で2,186人にのぼります。
これまでは東京、神奈川といった首都圏を中心とした関東地域が流行の中心でしたが、徐々に愛知、大阪、福岡といった大都市や滋賀、兵庫、熊本といった地方都市の近郊にも広がってきています。当院がある大阪でも、これまで80人以上が感染、発症しており、最近では毎週10人以上新たに増えてきています。
風疹は春~夏にかけて流行はやる感染症なので、この流行は2019年の夏まで続くことが予想されます。今のうちに対策をとることが、非常に大切です。
風疹は妊婦が罹患すると、先天性風疹症候群(CRS)を引き起こすことが知られています。CRSとは、風疹のウイルスに感染した母親のお腹にいる胎児もウイルスに感染することによって、出生児が難聴、先天性心疾患、白内障、精神運動発達遅滞などを発症することです。特に、妊娠20週頃までに感染した場合にCRSとなる可能性が高いことが知られています。母親が不顕性感染(ウイルスに感染しても明らかな症状がでない状態)で、風疹ウイルスに感染した自覚がなくても、CRSである可能性があります。風疹ワクチンは、病原性を著しく低下させた弱毒化ウイルスを培養して作られた「生ワクチン」と呼ばれる種類のもので、妊娠中は接種できません。妊娠を希望する女性は早めに風疹の抗体検査、及びワクチン接種を実施する必要があります。
風疹の症状の詳細はこちらも参照してください。
症状別病気解説「風疹」
特集「大人が注意すべき感染症」
現在注目されているのが、男性の風疹発症です。風疹患者全体を見ると、男性患者が約81.7%と大部分を占めます。風疹は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染を感染経路とするため、満員電車でくしゃみをする、咳をした手で自宅のドアノブを触るといったことでも、簡単に感染させてしまう可能性があります。風疹を発症する前から周囲への感染力があるので、気づかず妊娠中の妻にうつすこともあり得ます。同居人が感染すると、妊婦に十分な免疫がない限り感染を防ぐことは容易ではありません。前回風疹が流行した2012~2013年にCRSを持った子どもを出産した母親に話を聞くと、多くは罹患した夫から感染していました。女性だけでなく、男性もCRSを防ぐために行動する必要があります。
では、なぜ男性の風疹患者がここまで多いのでしょうか。それは、成人男性における風疹ワクチンの接種率が低いからです。日本では、年齢によってワクチンの接種状況が異なります。
注意すべき年代はいくつかあります。
- 1979年度生まれ(39歳)以上の男性
当時は女性のみ学校で集団接種しており、ワクチンを定期接種する機会が全くありませんでした。一方、1962年度生まれ(56歳)以上は男女ともにワクチンを接種していませんが、風疹に対する予防策がなかった幼少期に風疹にかかり、抗体を持っている可能性はあります。しかし、全員が免疫を保有しているわけではありません。- 1987年度(31歳)~1980年度生まれ(38歳)の男女
個別接種が推奨されていましたが、中学生が対象だったためか男女ともに接種率はかなり低くなっています。一度抗体検査をすることをお勧めします。- 1994年度(24歳)~1990年度(28歳)生まれの男女
1歳で1回目、18歳(高校3年生相当)で2回目の接種を推奨されている年代です。1歳での接種率は高かったのですが、高校3年生では東京、神奈川、大阪といった大都市を中心に低く、70%前後にとどまっています。1度の接種だと、現在は風疹に対する免疫が低下してしまっている可能性もあるので要注意です。1998年度(20歳)~1995年度(23歳)生まれの人は2回目の接種が中学1年生になり、大多数の地域で接種率は80%台となりましたが、決して高い接種率ではないため抗体価の確認は必要でしょう。
現在、風疹の流行の中心は20代~50代の男性で、女性は20代~30代の罹患者が多いです。ワクチンの接種状況と一致しています。20代~30代女性が多いもう一つの理由としては、フルタイムで働く人が多く、職場で男性と接触する機会が多いためなのかもしれません。女性では妊娠する年代で患者数が多いことは、困った事態と言えるでしょう。
ワクチンを1回しか接種しなかった場合、年齢を重ねるにつれ風疹への免疫が低下していきます。ワクチンを接種したことがあっても、妊娠を希望する年齢では風疹の抗体価が低下している可能性があります。年代に関わらず風疹の抗体を持っているか検査をしましょう。昨今の風疹の流行を受け、各自治体で無料の抗体検査も行なっているところが多いので、調べてみてください。抗体価が低かった場合はワクチンを接種しますが、女性の場合、2カ月は避妊する必要があるので注意してください。
以前に行なわれたCRSの子どもを持つ母親への調査によると、妊娠中に風疹にかかったものの自覚症状がなかった方が少なくありませんでした。気づかないうちに風疹をうつされても発症せず、子どもが生まれてから初めて感染していたことを知る場合があります。CRSを防ごうにも、女性が注意するだけではどうにもならない状況になっています。かつてCRSの子どもを出産した母親たちは、もう同じ経験を持つ人を増やしたくないと「風疹をなくそうの会(hand in hand)」(https://stopfuushin.jimdo.com/)を立ち上げ、以前から活動されています。会員のみなさんは、今のこの状況にとても悔しい思いをしています。これ以上悲しい思いをする人が増えないように、風疹の抗体検査やワクチン接種などの対策にご協力をお願いします。
解説:安井 良則
大阪府済生会中津病院
感染管理室室長