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起立性調節障害は、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。立ち上がったときに血圧が低下したり、心拍数が上がり過ぎたり、調節に時間がかかりすぎたりします。この疾患は自律神経疾患なので身体的要素以外に、精神的、環境的要素も関わって起こると考えられています。身体的要因の一つとして、自律神経系が不安定になることが挙げられます。小学校高学年~中学生に多くみられますが、この時期は第二次性徴期とも重なり、身体のさまざまな機能が大人へと変化していく時期です。この変化は自律神経系にも起こるため、循環器系の調節がうまくいかなくなることがあります。また、真面目で気を遣うタイプの子どもが起立性調節障害になりやすいといわれていますが、これはストレスをため込みやすいという精神的、環境的要素に関連すると考えられます。注意しなければいけないのは、あくまでも身体の病気であり、本人が頑張ればどうにかなるということではありません。
起立性調節障害の症状は、思春期には健常な子どもでも自覚することがしばしばあります。すべてを疾患として扱う必要はありませんが、生活に支障をきたしている場合は疾患として扱い、診察を受ける必要があります。起立性調節障害の典型的な症状は、「立ちくらみ」「疲れやすい」「長時間立っていられない」などです。また、朝起きられないことから、不登校になる割合も多いことが知られています。起立性調節障害小児の3分の2が不登校で、不登校小児の約半数が起立性調節障害を合併していたというデータもあります。
下記のチェックポイントに3つ以上該当し、他の疾患が否定的であれば起立性調節障害の可能性があります。
起立性調節障害の症状は他の多くの疾患でもみられます。そのため、血液検査、画像検査など、症状にあわせて必要な検査を行ない、他の疾患でないことを確認する必要があります。他の病気がみつかることもしばしばあり、時に、もやもや病やQT延長症候群などの命に関わる病気のこともあるので、しっかりと他の疾患を除外することが重要です。
他の疾患が否定され起立性調節障害の疑いが強い場合は、「新起立試験」を行ないます。通常、血圧は起立直後にいったん下がり、速やかに元の値に回復します。心拍数も起立後はいったん上昇しますが、その後回復します。起立性調節障害ではこれらの変化がうまくいきません。起立性調節障害かどうかを見極めるために、血圧回復にかかる時間や起立前後の血圧、脈拍などを測ります。上記のチェックポイントで3つ以上に当てはまり他の疾患が否定された小児のうち3分の2が新起立試験で異常を認めています。
起立性調節障害は現在までに以下の4つのタイプが確認されています。
(1)起立直後性低血圧
起立直後の血圧低下からの回復に時間がかかるタイプ。
(2)体位性頻脈症候群
血圧の回復に異常はないが、起立後心拍の回復がなく上昇したままのタイプ。
(3)神経調節性失神
起立中に急激な血圧低下によっていきなり失神するタイプ。
(4)遷延性起立性低血圧
起立を続けることにより徐々に血圧が低下して失神に至るタイプ。
起立性調節障害の中で(1)、(2)が多く、(3)、(4)は少ない傾向にあります。しかし、(1)や(2)に引き続き(3)の神経調節性失神をおこしたり、経過中にタイプが変わることもあります。
起立性調節障害は軽症であれば症状を緩和するための注意で症状をコントロールでき、内服治療は必要ありません。以下にあげる症状緩和のためのポイントを理解し、できることから取り組むようにしましょう。
起立性調節障害の子どもは、血液量が少ないので、循環している血液量を増やすために、水分と塩分をしっかりと摂りましょう。目安としては、食事以外に2Lの水分と、食事を通して10gの塩分です。1日3食、おいしいと感じる味がついている食事をすれば1日7g程度の塩分は摂れていますが、起きられずに朝食を抜かしてしまうとその分不足してしまうので、意識的に塩分を摂るようにしましょう。
自律神経系は、人間が活動をしやすいように、さまざまな身体の状態を調節しています。起床後もゴロゴロしていると、自律神経系がそのゴロゴロした姿勢にあうように身体を調節します。すると、さらに起立しづらくなるという悪循環を生むので、日中は身体を横にしないようにしましょう。立ち上がることはできなくても、座ったり、どうしても寝たい時は上半身をあげるようにするなどして頭の位置を心臓よりも高くし、高い位置に血液を送るための調節を自律神経が忘れないようにすることが大切です。
起立性調節障害の子どもは立ち上がるときの調節が苦手なので、急に立たずにゆっくり立ち上がり、うつむきながら起立して最後に頭を上げるようにします。長時間同じ姿勢で起立していると下半身に血液がたまり、頭の血液が不足がちになります。できるだけ避け、どうしても立っている必要があるときには、足を動かしたり、クロスさせたりしましょう。下半身にたまっていた血液を筋肉で押し戻すことができます。
起立性調節障害は自律神経系の病気で、自律神経系は心の影響を受けやすいので、ストレスは症状悪化の大きな要因になります。症状がひどく学校に行けないことを子どもたちは非常につらく感じています。その苦痛を理解し、頑張っていることを評価することがとても重要です。「午後からなら登校できる、行事や部活動なら行ける、遊びになら行ける」などは体調が万全でないときの起立性調節障害の子どもには良くあることです。心の負担なくこれらができるように、症状があっても充実した生活ができるように、周囲で協力して見守りましょう。
検査をしても異常がなく医学的に説明がつかない症状を不定愁訴といいます。起立性調節障害の症状は自覚症状がほとんどで、特徴的な症状が少なく、血液検査など一般的な検査では異常がみつからないため不定愁訴と同じように扱われることがよくあります。しかし、起立性調節障害は身体の病気です。不定愁訴が疑われる子どもに対しては、起立性調節障害かどうかしっかりと診断をすることが必要です。
解説:松島礼子
大阪府済生会吹田病院
小児科部長