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2023.09.26

気づいたら親が「セルフ・ネグレクト」に? 「孤立死」や「ごみ屋敷」に至る前に対策を

「セルフ・ネグレクト」という言葉を知っていますか? 病気やショックな出来事などが原因で、セルフケアができなくなり、住環境の悪化を招いてしまう状態のことです。「ごみ屋敷」や「孤立死」に至ることもあります。セルフ・ネグレクトにどう向き合えばよいか、習志野病院精神科の古関麻衣子先生に聞きました。

セルフ・ネグレクトってどういう状態?

● セルフ・ネグレクトとは?

「自己放任」ともいわれるセルフ・ネグレクト。自宅で暮らしている高齢者などが、食事や着替え、病気の治療など、本来であれば生活の中で行なうべき行為をしない、あるいはできないために、心身の安全や健康が脅かされる状態を指します。
2010年に内閣府が行なった調査では、高齢者のセルフ・ネグレクト件数はおよそ1万1000件とされています。

セルフ・ネグレクトの特徴として、次のようなものが挙げられます。
▪家の前や室内にごみが散乱した状態で暮らしている
▪極端に汚れている衣類を着用したり、失禁しても放置したりしている
▪窓や壁などに穴が開いていたり、傾いていたりする家に住み続けている
▪生活に必要な最低限の公的制度、介護、福祉サービスの利用を拒否する
▪治療が必要な病気やけががあっても、受診・治療を拒否する

家の中や外にごみが散乱しているのはセルフ・ネグレクトの特徴の一つ

ごみ屋敷を招く「ディオゲネス症候群」とは?

ディオゲネス症候群とは、物やごみをため込むことが特徴的な行動障害で、別名「ごみ屋敷症候群」とも呼ばれます。強迫性障害の一つと考えられています。ディオゲネス症候群は社会的孤立、一人暮らし、進行性認知症、日常生活機能の低下と関連していることが明らかになっています。体調が悪化して救急車で搬送されてきた後の退院支援で、自宅での暮らしぶりが判明するケースが多くあります。

セルフ・ネグレクトに陥る要因

● ライフイベントや不慮の出来事

配偶者や親しい家族の死、病気、リストラなどのショックな出来事により、生きる意欲が失われ、セルフ・ネグレクトに陥ることは少なくありません。研究では、配偶者の死が最もストレス度が高いと報告されており、特に妻を亡くした男性はそうでない男性に比べて寿命が短くなることが指摘されています。また、一人で生活を維持するための生活力不足のほか、「人の世話になりたくない」というプライドや「人の世話になるのは申し訳ない」という遠慮・気がねから支援を受け入れづらいということも考えられます。

認知症、精神疾患、依存症

認知症、統合失調症や妄想性障害、うつ病アルコール依存症、不安障害や恐怖症、強迫性障害パーソナリティ障害などから、セルフ・ネグレクトに陥ることがあります。
大事なものを捨ててしまうかもしれないという不安や恐怖から部屋に物をため込むケースや、人との接触を避けるために出入口付近に物を積むケース、さらには被害妄想のために家電・壁・天井などからの電波を遮断しようとアルミ箔などで窓や換気扇を覆うケースもあります。病状が悪化してもあまり自覚せず、命ににかかわるような重篤な状況になっても病院を受診せず、最悪の場合は孤立死に至ることもあります。

これらのほかにも
・高齢による心身機能の低下
・社会的孤立
・経済的問題
・他者からの虐待
などもセルフ・ネグレクトのリスク要因に挙げられます。

若年層でもセルフ・ネグレクトが増加?

若年層でもセルフ・ネグレクトが増えていると指摘されています。引きこもりやSNEP(スネップ=20~59歳の無業で、知人・友人との交流がなく、未婚の人)の増加が関連しているとみられ、景気低迷による経済的困窮や、発達障害の患者さんの増加も一因と考えられています。今は親がいることで生活を維持できている人も、親が亡くなった後、生活能力の乏しさからセルフ・ ネグレクトに陥ることが危惧されます。

若年層でもセルフ・ネグレクトの人が増えている

セルフ・ネグレクトへの対策は?

セルフ・ネグレクトは、本人が悩んでいなかったり、他人の支援を受けることに抵抗感を持っていたりすることが多くあります。本人が支援を拒否して介入できない場合、本人からのSOSがあるまで待つべきか判断するのは簡単ではありません。生命・身体に重大な危険が生じる恐れや、孤立死に至るリスクも抱えています。セルフ・ネグレクトに向き合うには、“支援を拒否した際の対応”を想定しておくことが重要です。
以下に、支援のポイントを整理しました。

セルフ・ネグレクトの支援のポイント

①価値観を尊重し、自己決定を支援する
本人が無力感や罪責感(自分を責める感情)にさいなまれることがないよう、まずはできていることを認め、誰かの支援があればうまくできることを探して支援します。
②生命のリスクを見極め、明確に伝える
生命のリスクが高いと医療・福祉従事者が判断しても、本人は危険を感じていないことがあります。脈拍、体温、血圧の値を示すなど、正しい知識や情報を提供した上で、本人の意思を確認します。
③価値観・ライフスタイルを尊重して具体的に選択肢を提示する
強制や価値観の押しつけに感じられないよう、複数の選択肢を提示して、自己決定してもらいます。その際、今後起こりうる問題まで予測できているか確認し、イメージしてもらった上で決定してもらいます。
④エンパワメント(持っている力を引き出すこと)し、その人らしい生活を支える
「生きていても仕方がない」「放っておいてほしい」といった発言がある場合、無理に否定することなく寄り添うことで、少しずつ心を開いてくれる場合も多くあります。高齢者であればデイサービスやサロンを利用することも有効です。
⑤つながりを絶たないよう、チームで対応する
担当者一人が抱え込むのではなく、チームで役割を分担して対応することが必要です。例えば、地域ケア会議、地域包括支援センター、民生委員、民間業者、地域住民らと支援のネットワークを構築していくことが大切です。

セルフ・ネグレクトの予防法

大切なのは、誰にでも起こりうるものとしてセルフ・ネグレクトを理解しておくことです。自分自身と周りの人の生活や生命を守るために、次のようなポイントに注意してみてください。

・体調やストレスの程度を意識する
・ストレスのかかるライフイベント(家族の死やリストラなど)に注意する
・社会的孤立を避ける

地域での見守りも大きな力を発揮します。高齢者虐待対応マニュアルでは、高齢者虐待防止ネットワークの機能の一つである 「早期発見・見守りネットワーク」について、「住民が中心となって虐待の防止、早期発見、見守り機能を担うもの」としています。
そして、生命にかかわる差し迫った危険があれば消防・警察に通報する、体調不良など健康面に悪影響が出ていれば行政の高齢福祉課や地域包括支援センターに相談するなど、情報提供の窓口を把握しておくことも大切です。

地域での見守りも予防には大切

前兆のポイントとセルフチェック

セルフ・ネグレクトに陥る前には、いくつかの前兆があります。家族や周囲の人に次のようなポイントがみられたら、様子に気を配ったり、病院の受診を検討してみてください。また、判断力や認知力の低下によるセルフ・ネグレクトは自覚しづらいため、セルフチェックにも活用できます。

✔️物を捨てられず、部屋や庭などが荒れ始める
✔️身だしなみに気を配ることができない
✔️病院で検診や受診をしない
✔️社会から孤立している


参考文献

セルフ・ネグレクトの予防と支援の手引き (東邦大学・岸恵美子教授)

解説:古関 麻衣子

解説:古関 麻衣子
千葉県済生会習志野病院
精神科

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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