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2019.09.18
思考や行動、感情を一つの目的に沿って「統合」する能力が長期間にわたって低下し、幻覚や妄想などが起こる精神疾患です。人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能が障害を受け、「感覚・思考・行動が病気のために影響を受けている」ことを自分で振り返って考えることが難しくなる、という特徴があります。
発症頻度は全人口の0.8%で、100人に1人弱がかかるとてもポピュラーな病気といえます。発症は10歳代後半から30歳代に多く、中学生以下や40歳以降では少なくなります。
また、高血圧症などと同様の慢性の経過をたどる病気です。50~60%は寛解(症状が落ち着いて安定した状態)に達したり、軽度の障害を残すのみになったりなど良好な経過をたどりますが、10~20%には重度の障害が残ります。
陽性症状、陰性症状、認知機能障害の三つに分類されます。
(1) 陽性症状
実際にはないものをあるように感じる「幻覚」(誰もいないのに人の声が聞こえる幻聴が多くみられる)や、非現実的であり得ない事柄を信じ込む「妄想」(自分の悪口をいっている、見張られているなど被害的な内容が多い)といった、統合失調症を特徴づける代表的な症状です。
(2) 陰性症状
喜怒哀楽の感情が起こりにくい、意欲が減退する、思考力が低下するといった、周囲で正確に把握することが難しい症状です。単なる気分の高揚や落ち込みではなく、感情そのものの表現が乏しくなったり、他人と視線を合わせることが少なくなり表情の動きが乏しくなったりします。他人の気持ちに共感することが少なくなり、外界への関心を失っているように見えるので、怠けていると思われたり、単なる引きこもりと見なされたりすることもあります。陽性症状より遅れて明らかになってくることが多いのですが、陰性症状が主にみられ、陽性症状に乏しいタイプの人もいます。
(3) 認知機能障害
個人差や重症度にもよりますが、学習や問題解決能力が障害されるほか、ワーキング・メモリー(情報を短期的に頭の一部にとどめて活用する記憶システム)が障害され、対人コミュニケーションに影響するなど社会生活に少なからず困難を生じます。知能が低下するのではなく、経験から学習することが少なくなるため、同じ間違いを繰り返し、自己評価が低くなってしまうと考えられます。統合失調症の約8割で何らかの認知機能障害がみられるといわれています。
発症の始まりでは幻覚や妄想などの陽性症状が出現してくるとは限らず、症状の出現パターンは多彩です。焦りや不安感・感覚過敏・集中困難・気力の減退などがみられますが、うつ病や不安障害の症状と似ていることも多く、診断が難しい時期です。
一つの原因に起因するものではなく、いくつかの危険因子が重なって発症すると考えられています。病気になりやすい”もろさ”(脆弱性)があるところに、周囲のストレスフルな環境や重大なライフイベントなどさまざまなストレスがかかることが、発症の引き金となるという考え方があります。また、脳の神経伝達物質のバランスが崩れることで発症するという説もあります。
主に薬物療法と心理社会的療法(リハビリテーション)が行なわれます。新しい薬剤の登場により予後(治療後の経過)は少しずつ改善してきていますが、病気の解明だけでなく、完治させる治療薬の開発に至っていません。
軽症から重症までで重症度が異なるので、軽症の場合であれば完全寛解することもあります。しかし、統合失調症は「勝手に服薬を中断すると2年以内に80%以上が再発する」といわれている上に、再発を繰り返すほどダメージを受けやすいことが分かっています。もちろん薬は副作用の問題があるので、量や種類を調整することは欠かせませんが、薬物療法は治療の根幹を支えるものとなります。
治療法の組み合わせによる1年後の再発率を調べた研究によると、「薬物療法のみを行なった群」での再発率が約30%であったのに対して、「薬物療法とリハビリテーションを併用した群」および「薬物療法と家族心理教育を併用した群」の再発率はともに8%と著しく低下していました。したがって、薬物療法で症状をおさえるとともに、病気によって障害された社会生活機能の回復を図るリハビリテーションや、患者さん本人を支える家族のケア能力を高めることが、高い治療効果や再発予防に有効であるといえます。
認知機能障害に対するリハビリテーションも、今後その評価が定まるにつれてさまざまな対応が工夫されてくると思います。
そのほかに、社会技能や生活技能を回復するためのソーシャルスキル・トレーニング(SST)や作業療法が行なわれています。
病気を自覚することが重要
「いまの自分は病気である」と自覚できることを「病識がある」といいますが、統合失調症にはこの病識を持ちにくいという特徴があります。自ら治療に参加できるための疾病教育が重要で、再発予防の観点からも病識を獲得できるような援助が欠かせません。治療にあたっては、患者さん自身が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定にしたがって治療を受けられるように支援していきます。
精神疾患は、発症から受診に至るまでの時間(おおむね1~2年といわれています)が長いほど予後は悪いということが分かっています。また、病気が急性期から回復に向かう境の期間である「治療臨界期」(おおよそ3~5年間といわれています)の治療の成否により、長期経過後の障害の程度が予測できるという報告があります。この期間に良好な治療を行ない病気を改善させていくためにも発症から受診までの時間短縮は課題であり、早期発見が大事です。
一方、発症手前の状態を把握することの難しさがあります。発症前にはうつ状態や不安などほかの精神疾患と区別がつかない症状がみられます。幻覚や妄想などの陽性症状が出れば鑑別できますが、陽性症状のみ発症するケースはわずか6.5%に過ぎません。今後は、遺伝子レベルでの脆弱性などさまざまな要因を加味して評価していくことが大事だと思われます。
再発予防が重要です。再発には、家族から患者さんへの感情の表し方(EE:Expressed Emotion)が影響するということが分かっています。特に、高EEといわれる①批判的な感情表出、②敵意のある感情表出、③情緒的に巻き込まれている(過保護・過干渉など)感情表出が、家族により絶えず繰り返されていると、再発率が高くなります。再発予防という観点からも、家族への心理教育は大切です。病気からくる本人の行動特性を理解することができれば、家族の接し方や態度は変わります。
解説:關 紳一
鴻巣病院
院長
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