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2019.10.16
自分の意思に反してある考えが頭に浮かんで離れず(強迫観念)、その強迫観念で生まれた不安を振り払おうと何度も同じ行動を繰り返してしまうこと(強迫行為)で、日常生活に影響が出てしまう状態をいいます。例えば、手が不潔に思えて過剰に手を洗ってしまうことや、戸締りなどを何度も確認せずにはいられないといったことがあります。 以前は、不安を主症状とする精神疾患である不安障害の一種とされていましたが、不安や恐怖よりも嫌悪感や道徳心と結び付いている症状が多いことから、現在では不安障害から独立した思考や行動の病気に分類されています。
代表的な強迫観念と強迫行為の内容として、次のようなものがあります。
(1) 不潔恐怖と洗浄
汚れや細菌汚染の恐怖から過剰な手洗い、入浴、洗濯を繰り返す、ドアノブや手すりなどが不潔だと感じて触れないなど(2) 加害恐怖
実際にそうではないと分かっているのに誰かに危害を加えたかもしれないという考えにとらわれて、新聞やテレビに事件・事故(ひき逃げなど)として出ていないか確認したり、警察や周囲の人に直接確認したりするなど(3) 確認行為
戸締まり、ガス栓、電気器具のスイッチを過剰に確認する(何度も確認する、じっと見張る、指差し確認する、手で触って確認するなど)(4) 儀式行為
自分の決めた手順で物事を行なわないと恐ろしいことが起きるという不安から、どんなときも同じ方法で仕事や家事をする(5) 数字へのこだわり
不吉な数字・幸運な数字に縁起を担ぐというレベルを超えてこだわる(6) 物の配置、対称性などへのこだわり
物の配置に一定のこだわりがあり、必ずそうなっていないと不安になる
このうち、(1)、(2)、(3)が最も頻度の高い症状です。
原因や発症に関わる強迫性障害特有の要因は特定されていませんが、対人関係や仕事上のストレス、妊娠や出産などのライフイベントが発症のきっかけとなっている傾向があります。これらストレス状況と強迫性パーソナリティ(規則や手順、形式にこだわり、融通がきかない状態)の性格や心理的要因との相互作用により、発症に至るものと考えられています。
認知行動療法と薬物療法を組み合わせて行ないます。
認知行動療法では、曝露(ばくろ)反応妨害法が代表的です。これは、強迫観念による不安に立ち向かい、強迫行為をしないで我慢するという行動療法です。例えば、汚いと思うものを触って手を洗わないで我慢する、留守宅が心配でも鍵をかけて外出し、施錠を確認するために戻らないで我慢するなど、強迫症状を引き起こす刺激に自分をさらしていきます。こうした課題を続けていくことにより、これまでずっと強かった不安が次第に弱くなっていき、やがて強迫行為をしなくてもよくなっていくという流れです。
強迫性障害の人は、恐怖の対象となる刺激(トリガー)に遭遇することで強迫観念が呼び起こされ、それを打ち消そうと強迫行為を繰り返すようになります。ただ、強迫行為をしても強迫観念が消えるほどの効果は持ちません。一時的にほっとするような安心感を味わうために、強迫行為で打ち消そうと努めるものの、安心感は薄れていくので強迫行為を延々と何度も行なうようになります。曝露反応妨害法はこの負の連鎖を断ち切るために生まれた治療法であり、大きな効果を持つことが実証されています。強迫観念が主である人の場合、自然に思い浮かぶ嫌な考え(侵入思考)を打ち消すような考えを思い浮かべるなど、頭の中で強迫行為をしている状態だと考えることができます。治療としては、侵入思考に反応した考えを妨害し、不快な思考にさらすという思考行動を不安が弱くなってくるまで繰り返します。そして不安を抱えつつも他の行動をするように努めるというパターンを行ないます。
曝露反応妨害法を導入する際には、以下の内容を明確にして治療目標を決めていきます。
・症状がどのような場面や刺激により出現するのか
・どのような観念が生じて不安になるのか
・どのような行為や回避を伴い、ご家族など周囲の巻き込みはあるのか
・日常や社会生活への影響はどの程度か
治療の課題を設定するときには、通常、不安が生じる度合いの低いものから順次、段階的に取り組むことが多いです。しかし、自分自身が一番治したい症状に取り組んだり、生活や社会的機能に影響するものなどを優先させたりする場合もあります。徐々に自己制御へ移行することが重要です。また、“不安をあるがままに受け入れる”とする、森田療法もあります。これは、恐怖や不安などを排除するのではなく自然な事実として受け入れ、生活を充実させるように積極的に行動していくことで症状を軽減させる治療法で、曝露反応妨害法と同様の効果を持っています。
薬物療法によるサポートとして、特に抗うつ薬のSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)を用いて状態を安定させた上で、認知行動療法を行なうのが一般的です。うつ病の場合よりも高用量で長期間の服薬が必要となることが多いです。なかでもご家族を巻き込むタイプはより混乱が大きく、症状も悪化し、ご家族も疲労困憊してしまうため、入院しての治療が必要となることがあります。
参考文献
1 アメリカ精神医学会(2015)『DSM-5 精神障害の診断と統計マニュアル』 医学書院
2 岡島美代、原井宏明(2013)『やめたいのに、やめられない』 マキノ出版
3 上島国利監修 有園正俊(2017)『こころのクスリBOOKS よくわかる強迫症』 主婦の友社
早期発見・早期治療は非常に重要です。しかし、現実には強迫症状を発症して受診するまでに7~8年を要していることが多いです。その間に、強迫症状やストレスによって脳の可塑的変化(いったん変化したり、失われたりすると元に戻らないこと)が起こっていると考えられます。治療への反応性や長期的な病気の見通しを考える上では、この未治療期間を短縮する必要があり、強迫性障害で身動きがとれなくなる前の対策を要します。
再発を予防することは大事で、慢性化して症状が固定することを防ぐ必要があります。 そのためには自分自身の病気をよく理解し、対処していくことが大切で、それと同時に症状を和らげる薬剤を気長に継続することも不可欠でしょう。 過剰な治療を減らし、患者さんとご家族それぞれの自立を目指すことが重要です。
解説:関 紳一
埼玉県済生会鴻巣病院
院長
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