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摂食障害

Eating Disorder

解説:関 紳一 (埼玉県済生会鴻巣病院 院長)

摂食障害はこんな病気

心理的要因に基づく食行動の障害で、主に「神経性やせ症」と「神経性過食症」に分けられます。その他に、過食はあるが痩せようとする手段(例えば下剤乱用や食べ吐きなど)を行なわない場合は「過食性障害」と分類されます。また、神経性やせ症には「神経性無食欲症」「神経性食欲不振症」「拒食症」という別称もありますが、けっして本人に食欲がないわけではなく、痩せることへの強い願望が本質にあるので、病気の特徴を正確に伝えるものではありません。

摂食障害の症状

神経性やせ症と神経性過食症で症状が異なります。

●神経性やせ症
極端に食事を制限し、客観的には非常に痩せているのに痩せていないと認識し、体型について歪んだ認知(ボディイメージの障害)があります。同時に肥満への強い恐怖(肥満恐怖)があって低体重なのに動き回り(過活動)、食事制限を徹底し、自己誘発性嘔吐や下剤の乱用などを行なう場合があります。利尿剤は市販されていないので乱用はまれですが、むくみを理由に医療機関から手に入れる場合もあります。その他に、盗み食いや万引きをしたり、太ももやおなかなど身体の一部分の変化に異常に執着するために外出困難となったりすることもあります。こだわりの強い考え方は、飢餓状態や低栄養の進行に伴ってさらにエスカレートします。なお、過食嘔吐を伴う場合は、「過食・排出型」とさらに細かく分類され、神経性過食症との差異は低体重であるかどうかという身体面の点だけで、心理面ではほぼ同一です。
神経性やせ症の転帰(病気が他の状態になること)は、軽度で一過性のものもあれば、重篤で長期的なものもあります。我が国における調査で、初診後4~10年経過した患者さんを調べたところ、47%が全快、10%が部分回復、36%が慢性化、そして7%が死亡でした。患者さんの治療への抵抗が強く、精神疾患の中でも最も死亡率の高い病気といえます。

●神経性過食症
自制不可能な過食エピソード(むちゃ食い)が繰り返されます。むちゃ食いはだらだら食いと異なり、①短時間に大量に食事を摂取する、②食事の摂取をコントロールできない―という2点が最大の特徴です。本人の自己評価は体重や体型によって大きな影響を受けるため、過食して体重が増えるのを恐れ(肥満恐怖と痩せ願望)、過食した後に自己誘発性嘔吐や過度な運動などの代償行動がみられます。このため、過食症では体重は標準内にあっても変動が激しくなります。代償行動のパターンにより、自己誘発性嘔吐や下剤乱用などを行なう排出型と、過度な運動や不食を行なう非排出型に分類されます。
主に女性に多く、思春期から青年期にかけて発症します。摂食制限型の神経性やせ症として発症し、経過中に過食症状が出現し神経性過食症になるタイプが多いといわれています。やせ症の既往のないタイプは発症年齢が若干遅いようです。
過食症は若年女性の2~3%にみられますが、その予後は死亡率が約0.3%で、5~10年の追跡期間では50%が回復、30%が再発、20%が治療継続中との報告があります。予後について報告自体は少ないのですが、神経性やせ症とは異なり身体的にそれほど重篤でないため、死亡率は一般的に低いと考えられます。

これらの摂食障害に共通しますが、過食に嘔吐など代償行為を伴うケースでは、制限型に比べて不安定な対人関係を持ち、気分変動が顕著だといえます。さらに、リストカットや大量服薬などの自傷行為・自殺企図、アルコールの大量摂取や薬物乱用などの自己破壊的行為、万引き、家庭内暴力、性的逸脱―などの衝動行為を伴うことが多いようです。

摂食障害の治療法

方針として、外来での治療が原則です。しかし、低体重(期待される正常体重の85%以下の状態)と排出行為により、さまざまな合併症を生じます。飢餓反応から甲状腺機能低下症となり、体温低下や徐脈(脈拍が遅くなる)、産毛や浮腫などの皮膚症状、慢性的な排出行為によるう歯(むし歯)、血清アミラーゼ増加による唾液腺・膵臓の炎症、「消化管の廃用性萎縮(安静状態が続くことで起こる機能低下)」ともいわれる巨大結腸症、低カリウムによる不整脈―などを発症する場合があります。致死的になることもあり、過食の場合には糖尿病の問題も発生します。

また、次のような場合は入院治療が必要となります。

・著明な体重減少が認められる
・外来治療を経て体重増加がない
・むちゃ食い、嘔吐、下剤乱用が持続している
・重篤な身体合併症(低カリウム血症、心臓異常所見、糖尿病の合併)がある
・精神疾患の合併が重症である(うつ病、強迫性障害、パーソナリティ障害など)
・治療環境として問題のある家族環境など不適切な状況である

薬物療法では、SSRIという抗うつ剤で抑うつ状態に伴う食べ吐きへのこだわりの軽減などを図ります。リストカットなどの自己破壊的行動があれば、リスペリドンやオランザピンなどの抗精神病薬を使用します。しかし、病的な肥満恐怖を鎮める可能性はある代わりに、患者さんに体重増加を強いることになります。いずれにしても、摂食障害に特異的な薬物療法は存在しないのが現状です。

経過中に心理教育や認知行動療法(物事の考え方に働きかけて気持ちを楽にする治療法)などを組み合わせながら粘り強く治療に取り組むのが肝要ですが、特に神経性やせ症の場合は、治療者から身体の危機的状態を医学的に説明してもらい、指示に従うことも大事です。精神面では、最初から食べるか食べないか考えてしまうと長期化しやすいので、肥満恐怖に配慮するかたちで低カロリーのものを食べるなど柔軟に対応することが必要です。救急時にはやむを得ない側面がありますが、死亡に至ったケースを振り返ると、治療者との関係づくりが最も大切なポイントだと思います。

参考文献
1 アメリカ精神医学会(2015)『DSM-5 精神障害の診断と統計マニュアル』 医学書院.
2 堀川直史(2013)『あらゆる診療科でよく出会う 精神疾患を見極め、対応する』 羊土社.

早期発見のポイント

摂食障害による死亡率は高く、罹病期間が長いほど予後がよくないので、早期発見が非常に大事です。リスク要因には、体重や体型の調整が必要な仕事・趣味にはまっていることや、痩せを過剰にもてはやす現代社会風潮、完璧主義などの精神的要因といったさまざまなものが挙げられます。その中でも特に注意すべきなのが、極端なダイエット行動をとっていること、自己評価の低さやネガティブなボディイメージにこだわっていること、痩身を理想とする認知が内在化されていること、肥満に対する恐怖感が非常に強いこと―などの項目です。これらの徴候がみられる場合はハイリスク群であると考えられます。ハイリスク群や思春期の患者さんに対しては、治療者の指導のもとで改善をめざすプログラムを実施します。

欧米の経験によると、集団の全員を対象にした摂食障害予防プログラムを取り入れると、本来摂食障害と無縁であるはずの人が発症する可能性があるとのことです。そのため、低体重、異常な身長曲線、初潮の遅延や月経異常、心理テストでの高得点―などがみられる摂食障害のハイリスク群を対象にした予防教育プログラムが行なわれるようになっています。

他にもハイリスク群として、アスリート(特にバレエ、新体操、体操、陸上競技など低体重が記録や成績に影響する競技の選手)が挙げられます。無理な減量を指示する指導者が後を絶たず、摂食障害、無月経、骨粗しょう症などの健康問題が生じやすいので注意しましょう。

予防の基礎知識

摂食障害(特に神経性やせ症)の場合は治療への抵抗が強く、重篤な状態になっても医療機関を受診しないことがたびたびあります。さらに近年の我が国における患者数増加の背景には、「スリムをもてはやす」現代社会の影響が伺えます。我が国では20代女性の平均体重が毎年小さくなり、標準体重を10%近く下回っています。総合的に考えると、昨今の摂食障害の増加にはこのような社会的影響が否定できません。欧米ではBMIが18以下のファッションモデルはショーに出ることを禁止される傾向にあり、摂食障害の有病率も抑えられてきていますが、我が国では何の規制もなく、患者数も増え続けているのが現状です。痩せることを美とするマスコミなどへの運動や対策が必要とされています。

また思春期の生徒や学生にとって、学校は摂食障害の早期発見の場として重要です。過食症は正常体重を示すことも多いので外見による発見は困難ですが、不登校などの問題から気づいたり、他の用件で相談に来た際に告白したりすることがあります。ただ、学校側が困っているのは発見方法ではなく、受診可能な専門施設が少なく、予約もすぐに取れないことだといわれています。

関 紳一

解説:関 紳一
埼玉県済生会鴻巣病院
院長

※当欄に執筆した医師の所属・役職は、異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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