済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2016.03.16
転落や交通事故などで頭部に外から強い力が加わり、頭の皮膚や頭蓋骨、脳に生じる損傷の総称を「頭部外傷」といいます。このうち、加わった外力によって脳の組織が破壊された状態が「外傷性脳損傷」です。頭部に受けた傷は、打撲を受けた部位に生じる直撃損傷(coup injury)と、衝撃との反対側に受けた反衝損傷(contra-coup injury)とに分けられます。なお、頭部を強打した場合、一時的な意識障害やめまい、耳鳴りなどが生じますが、短期間で回復して後遺症を残さない脳震盪(のうしんとう)の場合もあります。
頭部外傷は、下表にあるように「頭蓋骨骨折」「局所性脳損傷」「びまん性脳損傷」に大きく分類されます。頭蓋骨骨折は、さらに「円蓋部骨折」と「頭蓋底骨折」に分けられます。脳に損傷を受けていない頭蓋骨骨折の場合は治療の対象となりませんが、骨折に伴って起きた症状によっては、脳に大きなダメージを受けていることもあり、その重症度はさまざまです。局所性脳損傷は「脳挫傷」「急性硬膜外血腫」「急性硬膜下血腫」「脳内血腫」の4つの病態に分類され、受傷部位と頭蓋骨内部の圧力上昇の関係によって特有な神経症状が現れます。びまん性脳損傷は、頭部に強い外力が働いて頭蓋を回転させ脳に損傷を与えるもので、意識障害の有無やその持続時間によって「軽度脳震盪」「古典的脳震盪」「遷延性(せんえんせい)昏睡」に分けられます。さらに、遷延性昏睡は、その程度により「軽度びまん性軸索損傷」「中等度びまん性軸索損傷」「重度びまん性軸索損傷」に分かれます。軽度びまん性軸索損傷は、6~24時間の昏睡で知的障害が後遺症として残り、中等度びまん性軸索損傷は、24時間以上の昏睡状態で記憶障害、運動障害が生じます。重度びまん性軸索損傷は、脳幹部損傷を伴い数週間の意識障害が続くので、回復が困難となります。
頭部外傷の分類
頭蓋骨骨折 | 円蓋部骨折 |
頭蓋底骨折 | |
局所性脳損傷 | 脳挫傷 |
急性硬膜外血腫 | |
急性硬膜下血腫 | |
脳内血腫 | |
びまん性脳損傷 | 軽度脳震盪(のうしんとう) … 意識障害はないが一過性の神経症状がある |
古典的脳震盪(のうしんとう) … 受傷直後から意識消失するが6時間以内に回復する。意識回復後は一過性の神経症状がある | |
遷延性昏睡 … 受傷直後から意識消失が6時間以上も続く。脳幹症状があれば更に重症となる ・軽度びまん性軸索損傷 ・中等度びまん性軸索損傷 ・重度びまん性軸索損傷 |
外傷性脳損傷は脳に傷を受けたときに意識障害を生じるので、この評価を「Glasgow Coma Scale(GCS)」という測定表を用いて行います。GCS評価は「開眼(eye opening:E)」「言語反応(verbal response:V)」「運動反応(motor response:M)」の合計点で判断され、軽度(13~15点)、中等度(9~12点)、重度(8点以下)に分けられます。正常は15点で、点数が小さいほど重度の意識障害であるといえます。
Glasgow Coma Scale(GCS)
意識障害の程度にかかわらず、転落や交通事故などで頭部を強く打った際は、早期に医療機関を受診することも大切です。
外傷性脳損傷によって引き起こされる特徴的な障害に「高次脳機能障害」があります。受傷後の意識障害が軽く、身体的後遺症がみられない、あるいは身体的後遺症が軽微であるにもかかわらず、人によっては、記憶障害や注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの症状がみられることがあります。こうした障害をまとめて、高次脳機能障害と呼びます。高次脳機能障害の特徴は、本人が自身の障害に気づかないことです。周りの人々や家族から行動異常を指摘されることも少なくありません。なお、子どもの高次脳機能障害は、全般的な知力の低下や学習困難となりやすいので、より注意が必要です。
なお、高次脳機能障害の症状は、脳の高度な障害である認知障害と、人格変化や感情コントロール障害など二次的に生じた社会的行動障害に分けられます。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害について心配な方は、お近くの医療機関のリハビリテーション科を受診すれば、詳細な心理学的検査を受けることが可能ですので、ご相談をおすすめします。
高次脳機能障害の予後は、環境により大きく左右されやすいうえ、障害の回復に長い時間を必要とします。そして、復学や復職に関して困難が多いため、社会的な対策が求められています。また、この障害は精神障害者保健福祉手帳の対象となっています。各都道府県にある「高次脳機能障害支援普及事業支援拠点機関」が相談の窓口になっていますので、不明な点は参考にしてください。
解説:角谷 直彦
有田病院
リハビリテーション部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。