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2018.11.07
1984年に精神科医のローゼンタールらにより「冬季うつ病」として初めて報告された精神疾患で、秋から冬にかけてうつ症状が現れ、春先の3月ごろになるとよくなるというパターンを繰り返す(周期性)のが特徴です。病気の発症時期として季節性があるというのがポイントで、診断するためには、明らかな心理的原因となる出来事やライフイベントが原因となっていないことが必要です。
有病率は、欧米では1~10%とされていて、我が国の一般人口を対象に行なった調査においては、2.1%にSADが疑われたと報告されています。発症年齢は20歳代前半で、女性に多く、冬季に反復する場合の有病率は緯度、年齢、性別により差があり、高緯度地方では増大するといわれます。気象条件にも影響されていて、白夜が存在する北欧ではこの傾向はさらに顕著です。
SADには、うつ症状を繰り返す「再発性うつ病」と、躁状態(そうじょうたい)を挟むかたちで増悪(病気がますます悪くなる)を繰り返す「双極性障害」があります。さらに双極性障害は、うつ状態と躁状態の程度が同じぐらいの双極I型障害と、躁状態の程度が小さい双極Ⅱ型障害に分けられ、後者のほうが患者さんの数が多いと考えられています。
図:季節性感情障害(SAD)の種類
冬季うつ病では、①過眠、②過食、③体重増加 といった典型的なうつ病とは異なる非定型な症状が多く、精神面でも「意欲低下や思考が進まない」「倦怠感がある」などの抑制症状が中心で、憂うつ感などの抑うつ症状は目立ちません。睡眠時間の増加については夜の睡眠時間の延長と日中の眠気の増加が同時に起こること、食欲亢進(こうしん)については炭水化物に対して特徴的で(炭水化物飢餓といわれるほど)、白米やパン、パスタの他にチョコレートなどの菓子類を好み、午後から夜にかけて増強するといわれます。そのため、冬季うつ病はまるで冬眠している様子にも似ていると表現されることがあります。少ないですが夏期に抑うつエピソード(うつ病の時に現れる症状)を反復するタイプの症例もあります。しかし、その症状は食欲減退や抑うつ気分が多く、通常のうつ病の症状に近いようです。
SADのような気分や、睡眠・食欲などの生理機能の季節変動は一般人口においてもみられ、冬季に気分が低下することも確認されています。このような気分や生理機能の季節性変化が文化や民族を越えて存在することには、何らかの生物学的基盤が背景にあると考えられています。
季節性うつ病は、症状が出る時期に特徴があることや低緯度地域への旅行により症状が軽快ないしは消失することがあるという経験から、日照時間の変化と、個体の概日リズム障害(いわゆる体内時計が狂っている状態)との関連が推定されています。そのため、第一選択の治療法として高照度光療法が挙げられます。これは1~2時間程度、2,500~10,000ルクスの高照度の光を照射するというものです。①照度が高ければ1回の照射時間を短くしても効果がある、②照度と抗うつ効果には正の相関があることが確認され、治療の効果は比較的早く認められることもあり、1週間程度で改善することが多いといわれます。中断すると再発する可能性が高いので、冬季の間は連日行なうほうがよいとされます。
抑うつ症状が強い場合や光療法で十分な効果が得られない場合には、SSRIなどの抗うつ剤を併用します。ただ、SADには、うつ状態と躁状態を繰り返す双極性障害が多いため、うつ状態から躁状態に移行することに注意する必要があり、春・夏季にはできるだけ抗うつ薬を減量ないし中止します。発症が季節依存的に起きることを患者さん自身が認識し、減薬の不安を和らげる必要があります。
このように、自然寛解(治療をしなくても自然に症状がなくなる)する春先まで高照度光療法や薬物療法を継続し、抑制症状が軽減してきたら外出する機会を増やすなどして自然光をできるだけ浴びるようにするとよいです。
なお、SADの長期予後について詳細なデータはありませんが、低緯度地域への転居などがない限り、毎年同じ時期に同様の症状が出現する可能性が高いと考えられます。また、年齢とともに軽症化し自然消失することもあれば、冬季以外の抑うつエピソードが出現し、季節性が消失することもあります。
SADは双極性障害と関連がありますが、双極性障害の病態と概日リズム障害との関連を指摘する報告が続いていることから、逆に双極性障害の治療に光療法などの睡眠障害の治療法を生かそうという試みもあるようです。
参考文献
1 アメリカ精神医学会(2015)『DSM-5 精神障害の診断と統計マニュアル』 医学書院.
2 三島和夫(2016)『臨床精神医学』第45巻増刊号,p.178-180,アークメディア.
3 三島和夫(2016)『最新医学』第71巻7月増刊号,p.96-106,最新医学社.
これまで述べてきたようなうつ状態と躁状態の周期の特徴をつかむことが重要です。日照時間に関わる条件が悪い中で季節性の発症があり、過眠や過食などの非定型症状が確認されれば、診断は比較的容易なはずですが、細かくいえば次のような点を検討する必要があります。
SADは、春・夏季に軽い躁状態を伴う双極性Ⅱ型の方が多い(症例の50~80%)のですが、冬季以外においても抑うつエピソードがみられることが少なくありません。冬季以外にエピソードがみられるからSADではないというわけではなく、冬季とそれ以外の季節の抑うつエピソード数の比率について考慮すればよいようです。アメリカの精神医学的診断基準であるDSM-5によれば、SADは、双極性障害および大うつ病性障害の中で季節型として取り上げられていますが、「冬季に限定した抑うつエピソードが最近2年間連続していること、過去の冬季の抑うつエピソード数が非季節性エピソード数を十分上回っていること」が最低基準とされています。冬季の抑うつエピソードが2回のみの場合でも非定型症状が存在すればSADである可能性が高いと考えられます。
とにかく、病相に季節性があることで悪化時期を予測でき、予防もしくは早期対処が可能なので、これは大きな治療上の利点です。晩夏から秋口にかけて眠気や炭水化物への飢餓などの早期兆候をキャッチすることで早期介入が可能となり、この病気に対する正しい認識と治療の必要性を知ることが大事です。そのために、気分・睡眠・食欲に関する一覧表を作成し、毎年8月以降は週単位で記録をとり、見える化を図るようにします。病相期の見える化により早期の気づきが可能になると思います。
光療法や薬物療法以外のものとして認知行動療法(物事の考え方に働きかけて気持ちを楽にする治療法)の有効性を支持する報告が多いのですが、ストレスへの対処法など基本的な生活スキルに関することは予防としても有効で、感情障害の一般的な診療に準じます。
炭水化物摂取による血糖値の上昇やインスリン分泌促進は、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンの脳内への取り込み増大とセロトニン濃度の上昇を引き起こすので、過食はセロトニン神経機構の低下を補償するという仮説に沿っています。自己治療として考えることもできるため、無理に抑制して自己嫌悪感を持つのではなく、治療経過の中で軽快することを覚えておきましょう。
過眠も同様で、自堕落、やる気のなさなどと誤解されないよう家族に理解してもらうことが必要です。ライフスタイルの中に、日中戸外の散歩や日光浴、運動、戸内では窓際で過ごすことなどを考慮し、できるだけ日照時間を増やそうとすることは重要でしょう。
絶対的な予防法はありませんが、効果的な治療法が確定した後は、好発時期に患者さん本人および家族による密な状態観察や予防目的に通院することで、効果的な予防治療や初期治療が可能になります。
解説:関 紳一
埼玉県済生会鴻巣病院
院長
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