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外傷後ストレス障害(PTSD)

Post Traumatic Stress Disorder

解説:関 紳一 (埼玉県済生会鴻巣病院 院長)

外傷後ストレス障害(PTSD)はこんな病気

衝撃的な出来事に巻き込まれ、生死にかかわる危機に直面したり重症を負ったりした外傷的出来事のあとに発症する病気で、強い恐怖や無力感・戦慄、悪夢などさまざまな症状が現れることが知られています。ベトナム戦争からの帰還兵やレイプの被害者に共通した精神症状を引き起こすことが米国で認知され、我が国においても平成7年の阪神・淡路大震災を契機に、病気として一般に知られるようになりました。また、夫婦間暴力(DV)や虐待、犯罪、交通事故などの被害者にも心的外傷(トラウマ)が生じ症状が現れることがわかってきました。さらに、トラウマを直接体験した人だけではなく、その目撃者や遺族にも生じる可能性があります。

外傷後ストレス障害(PTSD)の症状

次のような3つの主要な症状が見られます。

①再体験症状群
トラウマに関する記憶が繰り返しよみがえり(フラッシュバック)、悪夢として経験されます。記憶がよみがえる場合には、精神的な苦痛やさまざまな身体症状を伴うのが一般的です。
②回避・麻痺症状群
トラウマに関する記憶を思い出させる人や場所、機会などを避けたり、なるべく考えないようになったりします。感情の麻痺があると、見た目には冷静に振る舞っていることがあり、顕在化していないことがあります。
③覚醒亢進症状群(かくせいこうしんしょうじょうぐん)
些細なことでビクビクし不眠となったり、イライラして自暴自棄になり過剰に警戒したりするようになります。うつ病の場合も同様ですが、総合診療を担うプライマリ・ケア医を受診することが多いので、身体的な症状の裏に隠れているこれらの症状に気づけるかが診断の決め手となります。

重大な出来事やその脅威を体験・目撃したあと症状が4週間以上持続し、著しい苦痛や生活への支障をきたしている場合に、PTSDと診断されます。診断には、これらの症状が1カ月以上続くことが条件ですが、実際には数カ月、数年以上続くことも珍しくなく、長引くほど対人関係や社会機能に重大な支障をきたします。

外傷後ストレス障害(PTSD)の治療法

トラウマに焦点を当てた認知行動療法(物事の考え方に働きかけて気持ちを楽にする治療法)が第一選択とされています。その中でも持続エクスボージャー療法(PE)という治療法が最も有効であると実証されています。これは、医師など治療者のサポートの下、トラウマとなった場面をあえてイメージしたり、避けていた記憶をわざと呼び起こしたりして恐怖を乗り越えるというもので、「思い出しても危険がない」「怖いことはない」と感じられるようになるため訓練します。もちろんそこには習熟した技術が必要であり、この治療が安全に行なえる環境を整え、適切に対象者を選んでいきます。

他にも、認知処理療法(CPT=トラウマの経験を理解・整理して克服する方法)、眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR=眼球に刺激を与えることでトラウマを克服する方法)といった有効な治療法がありますが、我が国においては持続エクスボージャー療法よりも普及していないのが現状です。もっとも一般的に行なわれている支持的精神療法(つらさや苦しみに共感し不安を取り除く治療法)が無効なのではなく、患者さんとの信頼関係を築くことが重要なので、患者さんと真摯に向き合い、丁寧に治療を行なう医療機関を選ぶことがポイントです。トラウマという繊細な問題を扱うので、治療者の臨床能力や相性に左右される部分が大きいといえます。

薬物療法としては、SSRIというセロトニンの再取り込みを阻害する薬剤が有効とされています。保険適用の対象で、PTSDはうつ病の併存が多いので、抗うつ薬の使用が多いと考えられます。トラウマ別に見ると、次のような特徴があります。

・交通事故被害者の場合:PTSDに発展する可能性のある事故とは、ほとんどが生命に関わるような重大事故で、大きな身体外傷を伴っていることが多いです(特に頭部外傷の場合は、意識障害や高次脳機能障害を伴う場合があるため、PTSDとの鑑別が必要です)。また、同乗者が死亡した場合に生存者に複雑で強い悲しみを引き起こすことがあり、PTSDに発展する可能性があります。


・犯罪被害者の場合:最もPTSDになりやすい事件は性犯罪で、中でも性暴力がトラウマになる可能性が大きいです。性犯罪被害者には強い恥辱感や罪責感があるため顕在化しにくく、自傷や自殺企図へと衝動的に発展することもあります。こうした被害者は、産婦人科への受診が必要となったり、刑事手続き上の問題を抱えたりしています。これらは基本的には本人が対処すべきことですが、混乱した状況にあることが多いので、「優先順位の整理」「判断できるように一緒に考える」「必要な機関の紹介」などで支援する機能が必要です。
夫婦間暴力の場合も、ストーカー被害者と同様に現在進行形なので、被害者が感情の麻痺により身動きできない状態で、警察対応の後でも加害者への恐怖感から元に戻ってしまうことがあります。また、十分に身の安全が守られていることが重要です。そのような家庭では子どもへの虐待が隠されていることが多いので要注意です。


・虐待など子どもの場合:子どもの場合は、多動で落ち着きない、イライラしたり茫然としているなど感情・行動面の異常として表現されるので、見た様子でははっきりしないことが多く、身体外傷の有無のチェックが重要です。性的虐待の場合はさらに発見が困難となります。なお、父親にアルコール依存症、母親にうつ病がある場合はハイリスクなので注意が必要です。


・大規模災害の被災者の場合:阪神・淡路大震災や東日本大震災などの経験から、被災地においては目を覆うばかりの経済的・身体的問題の発生にとどまらず、精神的ケアの重要性が指摘されました。すべての人がPTSDを発症するわけではないのですが、プライマリ・ケアスタッフや行政機関などの関わりはなによりも重要です。


・対人援助職の場合:援助で出動する消防隊員や自衛隊職員、警察職員などはハイリスク群です。職責に伴う罪責感を生じやすいため、「惨事ストレス」という用語さえあります。計画的に交代したり、メンタル面での相談などを実施したりしてサポートする必要があります。

参考文献
1 アメリカ精神医学会(2015)『DSM-5 精神障害の診断と統計マニュアル』 医学書院.
2 堀川直史(2013)『あらゆる診療科でよく出会う 精神疾患を見極め、対応する』 羊土社.

早期発見のポイント

この病気は、トラウマになりかねない出来事の後に発症するという原則があります。事件や事故から1カ月以内に生じると急性ストレス障害と診断されますが、PTSDは慢性的に経過するもので、心身に複雑な影響を残します。脳の画像検査で形の変化が現れた症例も確認されています。ショッキングな事件や災害を体験・目撃したあと、生活に支障が出るほどの症状が1カ月以上続く場合、受診するようにしましょう。

「災害や犯罪だからしょうがない」とあきらめていた問題に対しても、被害者のメンタルをサポートしていくことがいかに大切か、と認識されるようになってきました。このように、被害者に焦点を当ててケアするというプロセスが確立されてきたことは早期発見の上で大きな変化ですが、今後はそのケアの質が問われます。

予防の基礎知識

まず個人でできることは、一人で悩まないことです。アルコールや薬物に頼り過ぎないことや、孤立し無力感を抱えないこと、身近にいる家族や友人に助けを求めて協力してもらうことなどが大切です。また、周囲もPTSDという病気があると理解し動けることが求められています。

災害時に出動する対人援助職に対するPTSDの予防法として、かつては心理的デブリーフィングという方法が世界的に提唱されました。災害などの2~3日後から1週間後までの間にグループ療法を開始し、2~3時間かけて出来事を再構成したり、感情の発散、トラウマ反応の心理教育の実施を計画しました。しかし、現在では苦痛の緩和やPTSDの予防とはならないことがわかっており、強制的に行なうことは禁忌とさえ考えられています。災害時のケアとして最近提唱されているのは心理的応急処置(PFA)というもので、危機的な出来事に見舞われて苦しんでいる人の心理的回復を支えるための支援方法をまとめたものです。また、大規模災害時には、訪問型支援(アウトリーチ・サービス)が有効で、保健所等の行政機関と連携しつつ、精神面での支援にとどまらない包括的ケアの提供が必要と考えられています。

関 紳一

解説:関 紳一
埼玉県済生会鴻巣病院
院長

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