社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい) SDGS rd05
SDGS rd05

2022.03.03

アルコール依存症

alcohol dependence

解説:関 紳一 (鴻巣病院 院長)

アルコール依存症はこんな病気

アルコール依存症は、長期の飲酒により脳内の報酬系(欲求が満たされたときや満たされると分かったときに活性化して快感をもたらす神経系)の神経機能に変化が生じ、脳機能の障害を引き起こしてしまう病態です。
病名の「依存」という言葉の響きは、患者さんがもともと依存しやすい体質の持ち主なのではないかと連想させますが、脳機能の障害によって自身の意志では飲酒をコントロールすることが難しい状態になるのです。一定程度長期に飲酒を続ければ、どんな人にでも依存の病態ができ上がるということです。

脳内報酬系2

アルコール依存症の症状

以下のような症状がみられます。このうち3つ当てはまれば、アルコール依存症と診断されます。

①飲酒への渇望:単なる欲求ではなく、渇望と表現されるほどの強い欲求
②飲酒行動のコントロールが困難:大事な仕事等があり準備する必要があるのに大量に飲酒するなど
③離脱症状:起床時の軽い寝汗の程度から、食欲の低下や四肢の震え、激しい場合には幻覚や妄想、軽度の意識障害を伴うせん妄など
④耐性の証拠:酔うための量が増えていく
⑤飲酒以外の楽しみや興味を次第に無視するようになる:飲むことが中心の生活
⑥飲酒による有害な結果が起きているのに飲酒する:健康診断で異常があっても飲み続ける、酔い方が異常なのにやめられない
など

参考:世界保健機関(WHO)「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)」

アルコール依存症の検査・診断

スクリーニングテスト(ふるい分けのための検査)には、AUDIT(WHOのアルコール依存症スクリーニングテスト)、KAST(久里浜式アルコール依存症スクリーニングテスト)、CAGE(4項目の簡易なアルコール依存症スクリーニングテスト)といったものがあります。最近のアメリカの診断基準(DSM-5)では「アルコール使用障害」と表記されるようになっており、これにはより軽いケースが含まれます。

アルコール依存症の治療法

治療は任意で(本人の同意と意志に基づいて)行なうのが原則です。明らかに進行したアルコール依存症であっても、断酒が必要とは伝えるものの、強制はせずにまずは外来での治療につなぎ、長い道のりを支える治療関係の確立を目指します。
表向きは断酒しないと主張していたとしても、やめる必要性を全く感じていない依存症患者はいないと思われます。アルコール依存症患者の心の中では、「やめないといけない」というあきらめと「飲みたい」という欲求が葛藤し、シーソー状態にあるというのが実際のところです。

ただ、治療への意志が確認できない場合でも、①依存レベルが重症、②家族が崩壊寸前、③身体合併症のため生命が危機的、④せん妄を含む精神病状態にあり了解不能(ものごとの内容や事情を理解して判断することができない状態)などの場合には、非自発的な入院治療(強制的に入院させること)が選択されます。
よく「アルコール依存症患者はしらふでは普通の人」といわれますが、これは誤解を生みやすい表現です。長期にわたって飲み続けてきた脳への影響を過小評価してはいけません。回復を目指すアルコール依存症患者が自主的に集まり活動している自助グループの世界には、“ドライドランク”という言葉があります。飲んではいないのに酔ったときと同じような言動をする様子を指しますが、この現象には飲酒をやめたものの離脱状態が長引いていたり、慢性的な飲酒により引き起こされた脳障害が関係していたりします。そのため、安易にその言動が患者さんの本意であると判断するのは危険です。
直面した危機を回避しなければ生命に関わることも少なくありません。強制的であっても入院の判断を迫られる、専門家にとっても外すことのできない場面です。

「アルコール依存症」という病名は世の中では広く使われていますが、そのイメージが一般に定まっているとはいえないようです。アルコール依存症の患者さんに対して、路上生活者のイメージや、支離滅裂に騒ぐ人というイメージを抱く人も少なくないからです。
例えば、検診で指摘されても毎日飲んでいる人、晩酌をする人はアルコール依存の状態といえるし、そういう人はたくさんいます。もちろんアルコール依存症にも軽症から重症まであるのは通常の病気と同じですが、軽症といえども、いったんそのルートに乗ってしまえば「降りない限りは重症の状態(終着駅)まで確実に行き着いてしまう」という怖さがあります。飲酒状況において改善すべき問題(害)が生じ、その原因となるアルコール依存症の治療を迫られても、「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせる人が多く、ルートから降りられないのです。

厚生労働省の調査によると、アルコール依存症と診断される人は全国で推定109万人。しかし、治療中の人は4.3万人とそのわずか数%にとどまります。あらゆる精神疾患の中でも非常に未治療の人が多く、これを“治療ギャップ”と呼んでいます。アルコール依存症が“否認の病”といわれるゆえんです。
治療が必要なのに自分がアルコール依存症であることを受容できないことは、合併した身体疾患を増悪させ死に至る、家庭不和を起こし離婚する、解雇され失職するなどの関連問題を招きがちです。
この“治療ギャップ”という現象は、まさに早期発見ができていないことを意味します。医療機関(精神科)でスクリーニングテストを受けてもらい、診断基準を冷静に確認すれば、アルコール依存症に気づくことはそれほど難しいわけではありません。しかし、現実にはアルコール依存症患者の90%以上は合併した身体疾患をなんとかしたいと内科などの一般科を受診するので、一般科と精神科との日常的な連携が望まれます。
過去に行なわれた一般総合病院の受診者に対する飲酒問題に関する調査によると、性差はありますが、男性では10〜20%に問題飲酒が確認されました。このことは身体疾患の発症と持続に、飲酒が少なからず関与していることを示しています。身体の異常からアルコール依存症を見つけるのは簡便で、職場の健康診断や一般医療機関でのスクリーニング(機能をみるγ‐GTPなど)によるチェックが一般的です。
行政の対応としては、飲酒運転などを犯した人に対して治療への導入を確実に行なえば、ハーム(害)を減らすことになるでしょう。酩酊したトラック運転手が事故を起こし、複数の子どもたちを死亡させてしまったという痛ましいニュースを思い出すにつけて、未治療のアルコール依存症患者の中に飲酒運転を繰り返す人が多いのは残念です。

なお、孤立し支援がなくなる状況は、アルコール依存症患者にとって強い増悪因子となるだけでなく、高確率で自殺へと走らせる因子でもあります。自助グループなどへの参加により、仲間を得て孤独に陥らない環境をつくることがなにより大切です。
また、アルコール依存症患者を取り巻く家族への支援を早期から行なうことは、患者本人への対応に劣らず大切です。家族の関係が安定することによってアルコール問題の受容から解決につながり、回復へのエンジンとなっていくからです。

同じく税金の対象となっているタバコ(ニコチン)に対する社会的圧力と比べれば、アルコールへの対策は非常にゆるく、不思議なくらいです。もちろん、タバコには受動喫煙の問題があり公衆での影響を除くことが難しいという点はありますが、飲酒に伴うハーム(害)もタバコに劣らないほどの広がりがあるので、バランスの悪さを実感します。つい10年ほど前までは酒類の自動販売機が隆盛をきわめていて、海外の先進国の人たちには“異様な光景”と映ったようです。未成年者でも自由に買えたからです。

アルコール依存症の予防には適正飲酒を普及させていくことが求められており、飲酒の経験年齢前の小学校低学年の頃から適切な教育を行なうことが重要です。
成人してからは純アルコールに換算し20g以内の飲酒量(アルコール度数が5度のビールや缶チューハイなら500mL、度数15度の日本酒なら180mLに相当)におさることや、毎日の飲酒は控えて休肝日をつくることなど、地道に飲酒環境をつくっていくことが、死ぬまでアルコール依存症に至らず飲むための条件になります。
1日当たりのアルコール摂取量が純アルコールに換算して男性で60g以上、女性で40g以上の場合は大量飲酒と考えられます。飲む量の目安としてください。

解説:関 紳一

解説:関 紳一
鴻巣病院
院長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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