済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2022.12.28
せん妄は突然発生する精神機能の障害で、さまざまな原因(薬剤、炎症、手術などのストレス、代謝異常など)によって起こり、注意障害、認知障害などの症状が現れます。入院中の高齢者によくみられ、転倒やけがなどにつながることがあります。
せん妄は炎症などによって引き起こされる脳の大脳辺縁系(海馬や扁桃体、帯状回など脳の奥にある複数の領域の総称)の過剰な興奮と、中脳や視床などの活動低下によるものと考えられています。
また、病気(肺炎など)や電解質異常(低ナトリウム血症など)などによっても起こるほか、アルコール依存症の人や長期的に飲酒をしている人が急に飲酒をやめたり、ステロイドなど特定の薬剤を使用したりするなど身体に負荷がかかるときにもせん妄がみられます。
ただ、認知症などとは異なり、通常は原因が改善するとせん妄も改善が見込まれます。
せん妄は通常、急に発症します。症状は、原因や人によってさまざまで、夜間に悪くなることが多いとされます。
よくみられる症状としては、下記が挙げられます。
〇 見当識障害(場所や日時が分からなくなる)
〇 幻覚(実際にはいない人や虫などが見える)
〇 注意障害(会話や食事などに集中できない)
〇 認知障害(記憶が抜けてしまう、言葉が出てこない)
これらの症状は、もともとあった認知症や脳血管疾患などとは別に現れます。
また、症状の現れ方によって
・過活動型(焦燥や興奮、医療に対する拒否がみられる)
・低活動型(活動性の低下、ぼんやりしている)
・両者の混合型
の大きく3つに分けられます。
しばしば認知症やうつ病と間違えられますが、「急に発症する」「症状が1日の中でコロコロ変わる」といった特徴があるため区別がつきます。
原因と症状から診断します。
原因となる身体疾患の検査や血液検査、頭部CT、MRIのほか意識障害の評価に脳波検査が行なわれることもあります。
治療の原則は、せん妄の原因を特定し対処することです。主に次のような対応をします。
① 原因となる薬剤(オピオイド、ステロイド、ベンゾジアゼピン系薬剤、抗コリン薬、麻酔薬など)を、治療を阻害しない範囲で減量、中止します。
② 術後、感染症、脱水、電解質異常などの状態があれば、必要な治療や体調の管理を行ないます。
③ 疼痛、呼吸苦、便秘などはせん妄を悪化させるため、積極的に緩和を試みます。
ベンゾジアゼピン系薬剤や長期間飲酒している人のアルコールの中断によって、離脱せん妄(いわゆる禁断症状)で発汗、震え、動悸などが生じることもあるので注意が必要です。
せん妄の症状が強い場合や原因への対処が難しい場合は、対症療法として薬物療法を行ないます。主に抗精神病薬(クエチアピン、リスペリドン、ハロペリドール)などを使用することが多く、低用量から使用し、症状が落ち着けば減量や中止をします。
また、近年発売された不眠症治療薬である、ラメルテオン(商品名:ロゼレム)、スボレキサント(商品名:ベルソムラ)、レンボレキサント(商品名:デエビゴ)はせん妄予防効果が報告されているため、優先的に使用します。
アルコールの離脱せん妄には、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を使用します。
せん妄は入院中の高齢者によくみられます。そのため、入院の時点でせん妄のリスクが高い高齢者や認知症のある人に対しては、病院側もせん妄の可能性を考慮して対応しています。それでも、面会の際に普段の本人とは違うと感じたら、家族からスタッフに声をかけた方がよいでしょう。
せん妄は入院中だけでなく、在宅でも身体の具合が悪いときに起こることがあります。発熱や脱水などで意識がもうろうとなっているときなどは、特に注意が必要です。
身体のどこかで炎症が起これば発熱するのと同様に、せん妄も不可抗力の反応であるため、予防が困難なことが多いです。
しかし、目に入るところにカレンダーや時計を置いたり、眼鏡や補聴器を使用したりするなど、環境を整えて日常的に使っているものを用意することが患者さんの安心につながり、結果的にせん妄を軽度におさえることができます。
入院中であれば、日中にリハビリをして昼夜が逆転しないようにしたり、家族と面会したりすることも重要です。退院して慣れた自宅に戻ると、ほとんどの人はせん妄が改善します。
なお、9割の人に起こるとされている終末期のせん妄の改善は難しいですが、家族の声かけは最後まで本人に伝わっているといわれています。
参考:アメリカ精神医学会「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」
解説:古関 麻衣子
千葉県済生会習志野病院
精神科
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。