社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2020.07.29

水・電解質代謝異常

water-electrolyte imbalance

解説:町田 健治 (みすみ病院 腎臓内科医長)

水・電解質代謝異常はこんな病態

私たちは、体外から栄養や水分を食事にて体内に取り込み、不要なものや老廃物は便や尿として体外に排泄することで、身体を構成する水分や電解質などの成分(体組成成分)のバランスを保っています。この体組成成分のバランスが崩れた状態を、水・電解質代謝異常といいます。
水・電解質代謝異常が生じる原因はいろいろありますが、とりわけ、尿を作って体組成成分のバランスの最終調整を行なっている腎臓に機能障害が起こると、その影響を大きく受けます。

腎臓にはさまざまな働きがあり、その一つに「尿を作ること」があります。
尿のもととなるのは血液です。1個の腎臓に100万個あるといわれる糸球体(毛細血管の塊)によって血液をろ過し、「尿のもと(原尿)」がまず作られます。そして、原尿が腎臓内の尿細管という細い管の中を流れていく間に、体内に必要な水分や物質が再吸収され(または不要な物質が尿に尿細管から分泌され)、「尿」が作られます。
腎臓で作られた尿は、尿管、膀胱、尿道を通り体外に排泄されますが、腎臓から尿管へ出て行く尿の段階で、体外に出て行く尿と同じ成分になっています。
このように、腎臓は尿を作り出すことで、体内の水分量や、ナトリウム・カリウムといった電解質の量を最終的に調整しているのです。

尿を作り出すしくみ

尿を作る腎臓の働きに異常をきたすと、適切な尿を作り出せなくなります。結果として、水分が体内に過剰にたまってむくみを起こしたり、または逆に脱水になったり、血液中の電解質(ナトリウムやカリウムなど)の適正な濃度が維持できなくなったりします。

水・電解質代謝異常の原因

急性腎不全慢性腎不全、尿細管の病気といった「腎臓そのものの異常」のほか、「腎臓以外の異常」が原因となっていることもあります。腎臓以外の異常としては、食事や水分の摂取の過不足、下痢発熱による大量の発汗、腎臓での尿の生成を調整するホルモンの異常などがあげられます。

水・電解質代謝異常の症状

水分欠乏状態(脱水)になると、口渇、血圧低下、ふらつきなどの症状が起こります。水分過剰状態(体液過剰)では、身体のむくみ体重増加息苦しさ、血圧上昇などの症状がみられます。血液の電解質代謝異常については、異常が起こる電解質の種類によりさまざまな症状がみられます(表)。

血液の電解質代謝異常による主な症状
高ナトリウム血症 意識障害、口渇 
低ナトリウム血症 意識障害、手足のつりや脱力
高カリウム血症 意識障害、徐脈(脈が遅い)、手足のつりや脱力、血圧低下
低カリウム血症 手足のつりや脱力
高カルシウム血症 意識障害、口渇食思不振、悪心、嘔吐
低カルシウム血症 手足のつりや脱力
高マグネシウム血症 血圧低下
低マグネシウム血症 手足のつりや脱力、食思不振、悪心、嘔吐

水・電解質代謝異常の治療

腎臓の働きが正常で、腎臓での水・電解質代謝を調整するホルモンの量や作用も正常の場合は、腎臓で調整可能な範囲を逸脱した飲水量や食事量の過不足が考えられます。口から飲んだり食べたりが十分でないときは、点滴や内服などによる補給が必要となります。

それに対し、腎臓の尿の生成機能が低下している状態(急性腎不全慢性腎不全、尿細管の病気など)尿の量や成分を調整するホルモンの過不足作用の異常による場合は、原因となっている病気に対する治療を行います。飲水量や食事内容の指導(食事療法)、内服薬などを治療に併用することもあります。

水・電解質代謝異常は多彩な症状を引き起こします。下痢による脱水のように、経過の確認外観血圧などの診察だけ状態を把握でき、点滴治療症状改善する場合もありますが、病態によっては血液検査や尿検査などを追加で行なった上で診断・治療する場合もあります。

「医学解説」「水・電解質代謝異常の症状」の項目代表的な症状の例をあげていますこのような症状がみられたら、かかりつけの病院などに相談することをお勧めします。その際気になる症状がほかにもあれば医師に伝えるようにしてください。小さな症状が病気の発見の糸口になることもあります。

なお、自覚症状がなくても健診などで水・電解質代謝異常がかり、それをきっかけに腎臓の異常や、腎臓と関係するホルモンの異常なども発見されて、病気の早期の診断や治療につながることもあります。

腎臓の機能が低下している人(慢性腎臓病など)は、正常な人に比べて水・電解質異常が起こりやすいといえます。かかりつけの医師から食事療法として水分制限や塩分制限、カリウム制限などの指導を受けていれば、それを守るようにしましょうまた、処方され薬剤忘れずにのむようにしてください。

腎臓の機能が正常なでも、運動中高温下での作業時発熱など大量に汗をかくときは脱水にならないように注意しましょう。こまめに水分を補給すると同時に、少量の塩分も併せてとるようにしてください。

解説:町田 健治

解説:町田 健治
みすみ病院
腎臓内科医長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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