社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
2020.05.02

「巣ごもり生活症候群」にならないために

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大が収まる気配を見せない中、日本では4月16日、全国を対象に緊急事態宣言が出されました。その結果、多くの人が学校や職場などに行けず、家で過ごす「巣ごもり生活」を強いられています。日頃にはないストレスへの対処法などについて、なでしこメンタルクリニック院長の白石弘巳先生に寄稿してもらいました。

非日常的な生活が強いストレスに

「巣ごもり生活」では、外出自粛やテレワークの実施、保育所の閉鎖により仕事を持つ親が家での子どもの世話を余儀なくされる、など非日常的な生活が長く続きます。その中で、新型コロナウイルス感染拡大、休業や失業、低迷する経済情勢など今後の見通しが立たないことから不安が高まり、閉塞感、(主に妻の)負担増、気分転換の困難など、生活上のストレスを強く感じるようになっていきます。普段なら仲の良い家族の間でもあつれきが生じる可能性が高まり、もともと課題を抱えていた家族の場合、児童虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)に至ることも懸念されています。
個人のメンタルヘルスや家族関係が悪化することで起こりかねないこうした状態を、「巣ごもり生活症候群」と呼んでいます(仮称)。近い将来、実際に陥らないためにも、各自が備えておくことは決して無駄ではないと思います。

メンタルヘルスや家族関係が悪化しがち

ピンチはチャンス! 良い面に着目しよう

初めて経験するこのような事態に、適切に対処することは容易ではありません。私たちは、過去の経験を生かして、対処法を考える必要があります。
まず浮かぶのは、「ピンチはチャンス」という言葉です。私たちは、物事の良くない側面に着目すると気持ちも沈みがちですが、良い面に着目すると勇気が湧いてきたりします。これは、メンタルヘルスの領域では「認知行動療法」という治療法などでよく使われる考え方です。つまり、「事実は一つでも、見方次第で変わる」ということです。どうせなら、ポジティブな見方ができるといいと思います。

もう一つは、「どんなときでも最善を尽くす」という考え方です。ユダヤ人の精神科医ヴィクトール・フランクル(『夜と霧』の著者)は、強制収容所で明日は死ぬかもしれないという恐怖の中でも、ほかの苦しんでいる人を支援している人がいたことを報告しています。
もちろん、100点満点の対応など誰にもできるはずはありません。ここで大切なことは、「悪くしない」という考え方です。今までより良くすることは難しくても、いつもと同じように行動することは気持ちの持ちようでできるはずです。言い換えるならば、この大変な事態には勝てないかもしれないけど、「負けない」でいることはできるのではないかということです。

そこで、まずは「“負けない”巣ごもり生活」とはどんなものかを考えてみます。

・生活リズムを崩さない。起床時間と就寝時間を決め、食事も規則的にとる
・酒やたばこなどの嗜好品を増やしてイライラを紛らわせない
・自分(家族がいる人はそれぞれ)の役割を決め、それを実行する
・限られた環境の中でストレスを発散する

この四つをすべて実行するのは、今の状況ではなかなかに困難かもしれません。「とりあえず、できることをする」でもちろん大丈夫です。
ストレスの発散方法としては、①体を動かす(散歩やストレッチ)、②感覚器官を利用する(音楽や映画鑑賞)、➂食べる、④人と話す、⑤休息(睡眠)をとる、などが考えられます。自分がリラックスできることをすればいいと思います。飲みすぎなければ、少量の飲酒もこの中に入るでしょう。

大切なのは、今できることに意味を見いだすこと

メンタルヘルスの観点から付け加えるとしたら、できなくなったことを嘆くのではなく、今できることに意味を見いだすことが大切です。例えば、外にお酒を飲みに行けないことは残念ですが、「家で飲んだ方が安上がり」で「帰ることを気にせず飲める」、だから家飲みでもいい、と考えるのです。もう一歩先に行くなら、「家でなければできないことをしている」という思考に持っていくことです。例えば、「少し高めのお酒を奮発」して「酒のつまみを自分で作る」などは、家ならではの楽しみ方です。

ピンチをチャンスに変えることの究極は、いつもより丁寧にお互いの言うことを聞き、家族みんなでこの危機を乗り越えようと協力することで、「巣ごもり生活を経験できてよかった」とまで思えることです。その可能性は決してゼロではありません。

“ファミリースクラム”で困難を押し切る

いつもと違う状況では、いつもと違うことが起こる可能性が高まりますが、それは悪い方だけでなく良い方にも起こりうることです。最善を尽くしていれば(負けないでいれば)、良い結果につながる可能性が高まるはずです。

一人で悩まず、気軽に相談を

もちろん、「コロナうつ」などが起こる可能性は当然あります。我慢を続けることで、自殺のような最悪の事態にならないとも限りません。そういうときは、「人に相談するのは弱いからではなく、むしろ強さの表れ」だと考えるとよいでしょう。
最近テレビでも、心理的なケアをする相談所が紹介されています。これまでも、「いのちの電話」など気楽に相談できる支援体制がありました。一人で悩まず、気軽に相談してください。不眠が続くときや、気持ちが沈んで生活に影響が出るときは、メンタルクリニックの受診も考えていただければと思います。

白石 弘巳
PROFILE
白石 弘巳 〈埼玉〉なでしこメンタルクリニック 院長

東京医科歯科大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。2018年6月より現職。埼玉県済生会鴻巣病院副院長を兼任。日本精神保健福祉学会副会長、川崎市精神障害者家族会連合会(あやめ会)理事、社会福祉法人めぐはうす理事長、一般社団法人メリデンファミリーワークプロジェクト代表理事などを併任。鴻巣病院では1997年から2005年まで訪問ボランティア活動を実践。精神保健指定医。精神科専門医。

※当欄に執筆した医師の所属・役職は、異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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