新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、外出自粛や学校の休校などが行なわれています。そこで気を付けたいのが、閉鎖された空間に居続けることで起こる心や体の変調です。外出自粛を行ないながら健康を保つにはどうしたらよいでしょうか。飯塚嘉穂病院 副院長・消化器病センター長・心療内科の土田治先生に注意点やアドバイスを教えてもらいました。
外出自粛で私たちの心と体にはこんな影響が……
強制的に自由を抑制される環境に置かれ続けると、私たちは悲観的になったり、気分が落ち込んでやる気がなくなったり、すべてのことが自分に悪影響をもたらすと思い込んだりしやすくなります。これは「拘禁反応」と呼ばれるものです。また、ウイルスに感染するかもしれないという恐怖感や、先行きの見えない不安感などが起こりやすくなります。
外出自粛では、そうした精神の不調から体調不良になりがちです。次のような症状には注意が必要です。
うつ症状
抑うつ気分、意欲・興味の減退、不眠、食欲低下などがみられる
パニック様発作
感染への恐怖・不安感を引き金に、動悸、呼吸困難、手足のしびれなどが突然起こる
強迫行為
過度な手洗いや清潔行動など、感染に対する強迫観念からの過剰反応がみられる
人と接する機会が少なくなる状況も、うつ病や不安障害などの発症につながりやすいと考えられます。
子どもだってつらい! さまざまな影響がみられます
外出自粛や長期の休校で、成長期の子どもも室内で過ごさなくてはいけなくなっています。子どもは大人以上に環境の変化に敏感で、ストレスを感じやすい状態といえます。
運動不足などからの成長障害
家に閉じこもることによる運動不足や、日照時間の不足からくる成長障害が心配されます。特に骨の成長障害は大きな不安要素です。骨の生成を助ける働きがあるビタミンDは、日光に当たることで合成されます。そのため、外に出て日光に当たる時間が少なくなるとビタミンDが不足して骨密度が低下してしまいます。
ゲームなどの依存症
長時間の自宅生活でやることがなく、テレビゲームやスマートフォンなどへの依存状態に陥ることも注意したい点です。
家族・兄弟関係の悪化
長時間家族や兄弟のみで過ごすことでかえって家族関係が悪化し、家庭内暴力や虐待などが起こるリスクも高まると考えられます。
健康を保つためにはどうすればいい?
早朝の日光浴は睡眠障害やうつ病、骨粗しょう症の予防に有効
運動不足による身体機能の低下を予防することが重要
生活の場の衛生環境を保つことが大切
手洗いの徹底、タオルを共有しない、お風呂の順番の考慮など
特に高齢者では一定期間じっとしているだけで廃用症候群に陥り、食事やトイレ、移動といった日常生活の動作を行なえなくなる危険があります。廃用症候群とは生活不活発病ともいい、体を動かせない状態が続くことで身体能力が大きく低下したり、精神状態に悪い影響が出たりする症状のことです。
このような状態はフレイルの原因となるので注意が必要です。
そして、自分自身が心地よくリラックスできる時間を毎日30分程度持つこと。身体を動かしたり、音楽を聴いたり、ゆっくりと入浴したり……。ヨガ、呼吸瞑想(マインドフルネスなど)、自律訓練法、太極拳などを取り入れるのもよいでしょう。ただし、ゲームやスマートフォンに長時間熱中するのは避けるべきです。
時間を持て余すとつい間食が増えたり、暴飲暴食したりしがちになるので気を付けてください。
食事や日常会話など、家族と過ごす時間を大切にしましょう。ただし、家族構成が多い家庭では、高齢者や基礎疾患のある人への感染予防対策として、できる限り濃厚接触は減らす努力も必要です。離れて暮らす親戚や友人とは、電話やSNSなどで定期的にコミュニケーションをとるとよいでしょう。
また、「笑い」には免疫能を高める効果があります。テレビなどで漫才やバラエティ番組を見るなどをして、1日1回は笑う機会を持ちましょう。
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための外出自粛は、永遠に続くものではありません。必ず終息するときが来ることを信じて、今は我慢の時間だと割り切って対処することが重要です。
また、この外出自粛の機会を上手に使って、家族と過ごす時間を大切にすることや日頃できなかった課題(勉強など)に取り組むなど、この困難な状況をプラスに変える工夫も大切だと思います。
長いトンネルの先に光が見えることを信じて、皆で困難を乗り切るために協力し合いましょう。
解説:土田 治
飯塚嘉穂病院
副院長・消化器病センター長・心療内科
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。
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