済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
「巣ごもり」といわれる状況が続き、多くの人がこの非日常的なありように不安を募らせています。一方、インターネット上などでは正義を掲げて自粛できないように見える人たちを攻撃し、ネットリンチとでもいえるような発言で「炎上」させている人たちが目に付きます。ソーシャルインクルージョンとは真逆の不寛容な社会となっていくように見えるわが国において、コロナショックがさらなる依存症を生むのではないかと懸念されます。
産業革命後、アルコールが大量かつ安価に供給されるようになったことで、アルコール依存症という病気が生まれました。同様に、インフォデミックな大量消費社会の中では、分断によって心に空虚感を抱える人が増え、“新しい依存症”とでもいうべき事態が生まれてきています。医学モデルとしての依存症はアルコールや薬物などの依存性物質に対する依存として確立されましたが、ギャンブル依存症(ICD-10では「病的賭博」、DSM-5では「ギャンブル障害」と命名されており、厳密にいうと微妙に違いがあります)もひとつの病気として位置づけられ、今日に至っています。
物質依存症と同様に、ギャンブル依存症でも脳の画像検査で変化が生じることが分かってきています。パーキンソン病の人に抗パーキンソン病薬を使用した際にギャンブル行動がエスカレートしたという報告もあり、生物学的に根拠のある事態なのです。
※インフォデミック:インフォメーション(情報)とエピデミック(感染症などの流行)を掛け合わせた造語。インターネット等でデマや真偽不明の情報がまん延し、社会全体が影響を受ける現象
※ICD-10:世界保健機関(WHO)による「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」/DSM-5:アメリカ精神医学会による「精神障害の診断と統計マニュアル第5版」
依存症にはいろいろなタイプがあり、物質への依存(アルコール、タバコ、薬物など)、行為や行動への依存(ギャンブル、インターネットなど)、人間関係への依存(異性など)などに分類されます。余談ですが、昭和30年代に大ヒットし「分かっちゃいるけど やめられねぇ」の一節で知られる『スーダラ節』(作詞:青島幸男)は、依存症の状態をよく表しているといえますね。
いずれも心に空虚感を抱える人たちが、むなしさを埋めようと依存対象を選択し、満たされた体験を持つ中でハマってしまうのが特徴です。ハマった状態が持続するとなかなか“途中下車”できないまま進行し、いろいろな問題(不健康、借金、失業、離婚などの家庭崩壊)を引き起こしていきます。どの依存症の場合も、進行していけば似通った状況を生み出しますが、特に「借金」と「嘘」はつきものとなります。
緊急事態宣言下で自粛を迫られる中でも営業を続けたパチンコ店が取り沙汰されただけでなく、県域を越えて押しかけた客が多くいたことも報道されました。次々とパチンコ店が閉じる中で、居場所を求めて集まった“問題ギャンブラー”たちにはパチンコをすることが快楽となっており、朝早くから何をおいても出かけてきた様子を感じさせる映像でした。
他人からパチンコの自粛を強いられることへの反発により、再開したときの反動が危惧されます。被災地ではアルコール依存症が増加しました。ギャンブル依存症の場合も同様のことが予想されます。
ギャンブル依存症の人数はアルコール依存症(104万人)をはるかに上回っているとの報告があるのです。わが国ではギャンブルの多くがパチンコ・スロットですが、今後カジノをつくろうという動きの中で、商売をする側とも協力した対策が必要です。
依存症の人が依存対象とするものは、いずれも私たちの欲求を満たしてくれるものです。物質ではないインターネットやゲームなどの依存対象も、非常に魅力がありかつ有用なものです。社会はそれなしには成り立たなくなっている一方で、それらにハマり生活に困難を生じてしまう人たちが排出されているのです。
ほどほどに楽しめれば問題ないのはアルコールの場合と同様で、限界ラインを超えてしまうと“問題ギャンブラー”となってしまうわけです。
多くの人は店が儲かるようにできていることを分かっていますが、依存症の人は時間を楽しむのではなく、お金を取り戻そうとします(射幸性)。過去に幸運を経験(ビギナーズラック)していると、その幻想に動かされ突き進んでしまうため、店側でもそういう問題ギャンブラーにブレーキをかける営為が求められます。儲ければいいというわけでなく、共存していくことが大切だからです。
孤立して周囲の支援がなくなる状況は、依存症の強い増悪因子となります。自助グループ活動への参加が推奨されるのも、仲間をつくり孤独に陥らないことが大切だからです。さらに、依存症の人の家族への支援も大切です。家族内の安定が回復や増悪などの変化の分岐点となることが多いからです。ギャンブラーが居場所を求めて家庭外をさまようのは不思議なことではありません。
基本的に予防が大事です。子どもの頃からギャンブルの面白さも怖さも、そして付き合い方も含めた教育が必要だと思います。ほかの病気と同じように、ギャンブル依存症にまで進行した人を回復させるのには大変な費用や労力がかかるからです。
さらに、問題を生じているギャンブラーをどう救い出すかです。本人や家族にギャンブル依存症について理解を深めてもらい、どうなると危ないのかを知り、対応を変えていくことが重要です。ギャンブルは社会的な問題でもあるので、それを提供している側からの対策も求められます。
特に金銭管理は大きなテーマであり、家族はそれを軸にギャンブラーと信頼関係をつくっていく営みが大事です。そして何よりも、依存症の人は借金で行きづまり家族を失う中で、自殺の危機にたどり着くことが非常に多いので注意が必要です。
現在、私たちは未曾有の難題に直面しています。こんな中、連帯を呼びかけ孤立を防ぐ活動や新しいことに取り組むチャンスだと考える人たちがいる一方で、正義を振りかざして差別や分断をエスカレートさせ、孤立を深めていこうとする動きがあり、混在しています。依存症は人間関係が分断されると混迷が深まり、逆に仲間との連帯の中で回復するという構図がありますが、現在の状況を見事に反映していると思えます。
1980年 千葉大学医学部 卒業
1990年 埼玉県立精神保健総合センター 入職(第二診療科医長)
2000年 埼玉県済生会鴻巣病院 入職
2012年 同院 院長就任
現在に至る。
精神保健指定医、精神科専門医制度指導医。
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