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2013.07.01
肺塞栓症は肺の血管が突然詰まる病気で、エコノミークラス症候群として知られています。
飛行機のエコノミークラスで旅行すると、狭いシートに同じ姿勢で長時間座ったままになりがちです。すると、足の血液循環が悪くなって、静脈に血の塊(静脈血栓といいます)ができやすくなります。長時間の飛行機移動後、飛行機を降りて歩き始めると、静脈血栓は足の血管壁から離れ、血流に乗って肺に移動し、肺の血管(肺動脈)を詰まらせてしまいます。同様に、車の長距離運転手なども肺塞栓症を発症しやすいことが知られてきました。
足にできた静脈血栓が、肺塞栓を引き起こす
また、最近では長時間に及ぶ手術などもエコノミークラス症候群と同じメカニズムで肺塞栓を起こす危険性が指摘されています。他の病気の治療でさまざまな薬を使ったときや、手術あるいはカテーテル検査などを行った後に起こることがあります。
わが国の肺塞栓症の患者数は、近年増加しており、発症者数は年間10万人あたりに約3人程度と報告されています。東日本大震災の際の避難所や車中で生活する被災者にとっても、肺塞栓症は深刻な問題となりました。日本人の肺塞栓症による入院死亡率は15%前後といわれており、注意が必要な急性疾患となっています。
静脈に血栓ができる主な原因は、血管がなんらかの理由で傷ついた場合や静脈の血流が澱(よど)んでいる場合、血液が固まりやすい体質を持っている場合のほかに避妊薬を服用している場合や妊娠などによるものです。
肺血栓塞栓症の治療は、詰まった血栓を薬で溶かす(抗凝固療法、血栓溶解療法)か、手術(カテーテル治療、肺動脈血栓摘除術)で直接取り除いて、肺の血流を回復させることになります。
特徴的な初期症状:呼吸困難、胸痛、不安感、冷や汗、失神、動悸など
肺血栓塞栓症の症状は、どの程度の大きさの血栓が肺に運ばれてきたかによって症状の出方が異なってきます。
小さな血栓だと全く症状が出ないことも少なくありません。ある程度以上の大きさの血栓が肺動脈を閉塞すると突然、呼吸困難が生じます。呼吸困難は一回だけのこともありますが、数回発作が起こって状態が悪くなっていく場合もあります。さらに大きな血栓が肺動脈に詰まると、血流は途絶えてしまいます。こうなると失神やショックを起こします。
肺塞栓症の患者の約80%は、突発性の呼吸困難が主な症状です。また、患者の半数程度が胸の痛み、20%前後が失神発作を経験しています。全身倦怠感、不安感、動悸、冷や汗などの症状が出ることもあります。
エコノミークラス症候群予防のためには次のことを心がけましょう。
・航空機に長時間乗る場合は十分に水分を摂取する
・脱水を招くアルコール、コーヒーの摂取はできるだけ控える
・時々足を上下に動かして血行を促す
・可能なら、気兼ねなく立って動ける通路側のシートに座る(窓側の席だと出にくい)
長時間にわたる車の運転でも同様のことを注意します。
一方、手術やカテーテル検査など医療現場で発生する肺塞栓症の予防については、医療機関でさまざまな対策が検討されています。例えば、肺塞栓の危険性が高い患者さんには抗凝固療法や運動療法が勧められます。最近は「予防ガイドライン」に則って、手術内容と患者さんの危険因子に応じた治療法が選択されるようになっています。
【参考】リスクレベルと推奨予防法(静脈血栓塞栓症ガイドラインによる)
低リスク | 早期離床および積極的な運動 |
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中リスク | 弾性ストッキングまたは間欠的空気圧迫法 |
高リスク | 間欠的空気圧迫法または低用量未分画ヘパリン |
高リスク | 低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法の併用、または低用量未分画ヘパリンと弾性ストッキングの併用 |
解説:大谷 正勝
大阪府済生会 富田林病院
救急センター長兼副院長
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