済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
現代は、自動車の普及による交通手段の変化に加え、テレビやパソコン、スマホ、ゲーム機といった電化製品や通信機器に触れる時間が増え、昔に比べて座位時間が格段に長くなっています。中でも日本は、世界20カ国を対象にした調査*によれば、平日の総座位時間(中央値)で1日7時間と、世界で最も長く座っている国に位置付けられます。
では、なぜ座りすぎが健康に悪影響を及ぼすのでしょうか?
座り時間が長くなると、まず足の筋力を中心に身体機能が低下します。筋力や筋肉量が落ちると代謝機能が下がり、疲れやすく、血液の流れも悪くなります。特に「第二の心臓」とも呼ばれるふくらはぎの活動量の低下は、下半身にたまった血液を心臓に押し戻すポンプ機能も低下させるため、血流が滞った状態になります。するとむくみや血栓ができるリスクが上昇し、それが血管内で詰まる「血栓症」――例えば血栓が肺で詰まる「エコノミークラス症候群(肺塞栓症)」のような病気も引き起こしかねません。
また、太ももには私たちの身体で最も大きい「大腿四頭筋」があります。長時間下肢を全く動かさない状態でいるとこの大腿四頭筋の活動が停止し、糖代謝や脂肪分解酵素の活動も低下するため、肥満や糖尿病のリスクが高まります。
さらに長時間の座位姿勢は腰にも大きな負担がかかります。立位姿勢での腰への負担(椎間板内圧)を100とすると座位姿勢は140で、腰痛や椎間板ヘルニアなどを引き起こす原因にもなります。
座り時間が長くなるということは生活全体が「不活発な状態」を意味します。加えてこのコロナ禍です。外出自粛や在宅勤務、コミュニケーションのオンライン化などで、生活の不活性化が一層加速しています。前述のような「運動機能」や「循環器機能」への影響のほか、人との交流機会の減少で日常生活に活気がなく、やる気が出ない、心身衰弱など「メンタルヘルスへの影響」も生じる可能性があります。
精神活動の低下に伴って認知機能が低下すると、ロコモティブシンドロームや高脂血症、糖質異常、糖尿病、心血管疾患、抑うつ、認知症などの病気につながる恐れがあります。特に高齢者は転倒や骨折、寝たきり、持病の悪化、認知機能の低下に注意が必要です。
週末まとめての運動では、座りすぎ問題は解決しない
「要約版WHO身体活動・座位行動ガイドライン」(日本語訳/日本運動疫学会ほか)には「座りすぎは心臓病、がん、2型糖尿病のリスクを高める」とあります。コロナ前に比べ、日本人の1日の歩数は2000歩以上減少したとの報告もあり、ますます身体活動が低下し座位時間が増える傾向にあります。しかしこの「座りすぎ問題」がやっかいなのは、その分週末にまとめて運動して解消するというわけにはいかない点です。京都府立医科大学などの研究によれば、身体活動量の多さが座位時間による死亡リスクを下げられるかを解析したところ、「余暇の身体活動量を増やしても、日中の座位時間の長さと死亡の関連を、完全に抑制するには至らないことが明らか」との報告があります。つまり、週末まとめて運動しても、座りすぎによる健康への悪影響や死亡のリスクを低減できないのです。特に細かい身体活動、立ったり座ったりを繰り返す比較的低強度の身体活動が減っていることが問題です。WHOのガイドラインでもこの座りっぱなしの時間を減らし、なんらかの身体活動に置き換えることを勧めています。
座位に限らず、長時間同じ姿勢でいることはたとえどんなによい姿勢だったとしても、好ましくありません。そのため、定期的に姿勢を変えたり、体操・ストレッチを行なうことが大切です。仮に座っている状態が続く場合でも、30分~1時間ごとに数分動くことがよいといわれています。
「座りすぎ」を防ぐ一番のポイントは「小まめに動く」ことです。そこで座りすぎを回避するちょっとした工夫や予防法を紹介します。ぜひ試してみてください。
電⾞や⾶⾏機での移動、⾞の運転などによって、⻑時間座り続けざるを得ない場合は、座ったままできる予防法を実践しましょう。
下記の体操やストレッチは主に筋力トレーニングやバランス感覚の強化、血流の改善を目的にしています。勢いはつけずにできるだけゆっくり、痛みが出ない範囲で行なってください。各10回×2~3セットを目安に、体調や状況に応じて回数を調整してください。
スクワット
(下肢全般の筋トレ・バランス感覚の強化)
①お尻を突き出して後ろの椅子に座るようなイメージで腰を落とす。おへそを引っ込め、腰が曲がらないように、重心はやや前方を意識する。膝がつま先より前に出ない範囲で行なう
②不安な人は、前に椅子などを置いて手をつきながら行なう
かかと上げ
(ふくらはぎの筋トレ)
①肩幅に足を開き、椅子・手すりなどにつかまる
②背伸びするように両足のかかとを持ち上げ、ゆっくり下ろすを繰り返す
座ったまま足踏み
(下肢・体幹の筋トレ)
肩の高さは変わらないようにして、①②の順番でできるだけ背筋はまっすぐに保ったまま身体をひねり、肘と反対の膝を押し合わせるように左右を繰り返す
肩甲骨回し
(肩こり・腰痛予防)
両手を肩に置き、①~③の順番で前から後ろに肘を大きく回す。背中側で肩甲骨が動いていることを意識する
お尻のストレッチ(柔軟性と腰痛予防)
伸ばす側の足を反対の太ももの上にのせ、背筋を伸ばしながら曲げた足に胸を近づけていく
参考資料
*Bauman AE et al. The descriptive epidemiology of sitting: A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med, 2011; 41: 228-235.
解説:丸⼭健太
龍ケ崎済生会病院
医療技術部リハビリテーション科 係長・作業療法士
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