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済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
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発達障害は「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠如多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」の三つに分類されますが、重複して複数の特性がある人も少なくありません。
静岡市発達障害者支援センター「きらり」では近年、大人からの相談が増加しています。そうした状況を受け、大人の発達障害との向き合い方 ~仕事のお悩み編~(2021年7月公開)では、発達障害を持つ大人が抱える悩みのうち「仕事」にフォーカスして解説しました。
今回は、発達障害がある大人の「生活・家庭」における悩みについてみていきます。
自閉スペクトラム症の特性が強い人は、会話の目的を「情報交換」と見なす傾向があります。そのため、会話に「結果」や「成果」を無意識で求めます。対して、自閉スペクトラム症の特性を持たない人の場合、会話や雑談の目的に「仲間意識の確認」といった側面があります。このようにコミュニケーションに求める目的の違いから、自閉スペクトラム症の人は会話や雑談に違和感や難しさを感じやすいです。加えて目線や表情、身振りから、相手が何に関心(注意)を向けているかを理解するのが難しく、そうしたことも会話のズレや違和感につながります。
自閉スペクトラム症の人の中には「○○であるべき」という考え方に固執するタイプもいます。友人やパートナーに自分の考えを押し付けて相手を批判し、深い人間関係を築けないことがあります。
ほかには、刺激に対する感覚が非常に敏感な「感覚過敏」や、その逆で刺激への感覚が鈍い「感覚鈍麻」がみられることもあります。
ADHDの傾向が強い人は、目の前のものに反応しやすい特性があります。不注意などによる失敗経験から、この「目の前のものに反応しやすい特性」が増幅され、より顕著になるといわれています。特に成果や報酬がすぐに手に入ることへの執着がみられ、これを「刹那的な思考」と呼びます。
刹那的な思考へ至る例を紹介します。
A君は小学校1年生の頃、お母さんに「宿題が終わったらケーキを食べていいよ」といわれました。しかし、不注意の特性があるため宿題がなかなか終わらず、夕飯の時間までかかってやっと終わりました。するとお母さんが一言、「いつまで宿題やってるの? もうご飯だからケーキはなしだよ」と告げました。
その後もA君は不注意などから、努力をしても報酬が手に入らないという経験を重ねていきます。A君は次第に「努力したってどうせ報酬なんてもらえない」と考えるようになっていきました──。
このようにして、努力せずに簡単に手に入るものを欲する刹那的思考が形成されます。特に大人は、刹那的な思考を持つ割合が高いといわれています。それは生活にも影響を及ぼし、次のような状況に陥る可能性が高まります。
・浪費
・複数の性的パートナーを持つ(望まぬ妊娠や性病のリスク)
・アルコール、ギャンブルへの依存
・暴走行為
・課題が提出できない
・遅刻、欠席
・転職を繰り返す
学習障害の人は、理解力に遅れはないものの、読む・書く・計算する・推論することのどれかに著しく困難を感じます。学習障害の特性だけを抱えている人は少なく、ADHDの不注意特性を併せ持つ人が多いです。
学習障害は小学校の入学当初から特性が顕著に現れ、小学校高学年になる頃には発見される割合が高いといわれます。大人の場合、学習障害を隠している人が多いようです。会話でのやり取りに難しさを感じることはなく、友人関係で困ることは少ないです。
「読む」ことが苦手な場合、外出時に案内を見て現在地を把握したり行先を確かめたりすることが難しいです。運転免許証の取得に苦労するほか、保険や行政手続きで内容を把握するのが難しくなります。「書く」ことに困難を感じる人は、行政窓口などでの手続きや、申請書類や履歴書の作成の際などに困りやすいです。
上記のような大人の発達障害によって生じる困難や悩みについて、どのように対処すればよいでしょうか? 対策やコツを紹介します。
自閉スペクトラム症の人が感じる会話への違和感や人間関係を築くことの難しさ、ADHDの人が持つ刹那的思考。こうした悩みに対して、同じ趣味を持つ仲間と過ごす時間は治療的な効果があるといわれています。そこで社会人の同好会・サークルなどに参加することをお勧めします。あるいは、発達障害の当事者によるピアサポート(障害や病気を抱える人が、同じような悩みを持つ人同士で支え合う活動)も効果的です。
自閉スペクトラム症で感覚過敏がある場合は、特定の刺激を遠ざけるように工夫しましょう。不安が強いときは感覚過敏もより強くなるため、安心感を持つことが日常生活を豊かにするために大切です。
学習障害を持つ人はPCやスマートフォンなどを活用すれば、生活を送りやすくなります。読むことが難しい人は、スマートフォンの画像認識と読み上げ機能を活用できます。スマートフォンの音声入力を活用することで、書くことの負担を軽減できます。
身近な存在である家族からのサポートも大事です。
ただ、家族は発達障害の専門家ではないため、どのようなサポートをすればよいか分からないことが多いです。そこで主治医や専門機関の支援者に、家族への説明を手助けしてもらうよう相談することをお勧めします。家族へは発達障害を抱えていることを伝え、病院や専門機関への受診に同席してもらうよう頼んでみてはいかがでしょうか。発達障害の特性による悩みやサポート方法について、主治医や支援者から説明を受ける方が家族も受け入れやすく、協力できることを検討しやすくなると思います。
発達障害を抱えている人の家族は、本人が発達障害の特性からうまく対応できない場合があることを意識しましょう。
例えば、日常生活で会話ができないときには、本人が自分の言い分を受け入れてもらえないと感じて、かたくなになっているのかもしれません。そんなときは、本人の行動を変えようとするよりも家族の心の安定を優先しましょう。家族に心の余裕がなくなるほど、本人の行動や考えを受け入れることが難しくなっていき、過度に干渉が増えることで日常会話ができなくなっていきます。
以下に、特性ごとに気をつける点を紹介します。
自閉スペクトラム症の人は、その特性により相手の気持ちを汲み取れず、相手の立場に寄り添った会話が難しいことがあります。そうした際は、世の中の多数派の意見や行動を求めたり押し付けたりすることは避けましょう。これはお互いの精神衛生を保つ上でも必要です。
家族は自分の意見を押し付けない
ADHDの特性により浪費する、約束を忘れる、遅刻するといったことが考えられます。本人に行動を改めるように訴えるよりも、どうしたら浪費や遅刻などを予防できるかを話し合う方が改善につながりやすいです。
家族で予防法を話し合う
文字が読めない、文字が書けないことは本人の努力不足ではありません。読むことが苦手だと情報を読み落としやすいため、重要なことは家族が声をかけて確認するといいでしょう。
家族が疲弊(ひへい)して抑うつ状態になるなど心身の不調がみられること(カサンドラ症候群)があります。こうした症状がみられたら、精神科を受診し回復を優先しましょう。また、本人に攻撃性・暴力が現れ、それを改善する意識がない場合、暴力の程度によっては行政(警察の介入、医療保護入院など)を頼ることも必要です。
家族が受診を勧める際に注意すること
本人が自身を発達障害と思っておらず、家族が受診を勧めるケースがあります。その際、家族が精神的に安定し、日常生活で本人と会話ができるタイミングに話を切り出すようにしましょう。会話の中で本人が「人付き合いが困難」「未経験のことに強い不安を感じる」「集中しにくい」など困っていることを口にしてくれたときが、受診を勧めるタイミングとしては最適です。そうした困っている感覚は、本人の努力不足が原因ではなく、捉え方のズレからくる可能性を伝え、精神科や専門機関への相談を勧めてみましょう。
解説:杉本 美穂
静岡市発達障害者支援センター「きらり」
副主任支援員(公認心理師、臨床心理士)
解説:福田 善通
静岡市発達障害者支援センター「きらり」
支援員(社会福祉士)