済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
HSP(Highly Sensitive Person:非常に敏感な人)とは、外界の刺激や体内の刺激にきわめて敏感に反応してしまう気質を指します。特になじみのない環境では、他の人が感じないほどの些細な刺激でも神経がたかぶる傾向があり、神経系の興奮が長引き、疲れやすくなります。HSPと想定される人は、全人口の15~20%と推定されています。また、高齢になるほど刺激に敏感になりやすく、状況によっても敏感さは変化するといわれています。
HSPは生まれながらに持った気質です。個人差が大きいといわれますが、共通する特性としては「周囲の些細な変化に気づきやすい」「小さな刺激に敏感に反応する」「情報を深く処理する傾向がある」などが挙げられます。以下は、HSPの人にみられる状況の一例です。
電化製品の音や晴天の日差しなどの刺激が負担になることがある | 相手のネガティブな感情を感じると、身体が不調になることがある | 突発的な事態に驚きやすいため、サプライズを楽しめないことがある |
HSPには一人で過ごす時間を好み、空想力や直感力に恵まれた人がいる一方で、新しい刺激を好み、人との関わりを求めるため疲れすぎてしまう人もいます。このようにHSPの特性を備えつつ、刺激を求めて行動する人をHSS(High Sensation Seeking)型HSPと呼び、そうでない人(非HSS型HSP)と区別する場合もあります。
発達障害は、脳機能の発達のかたよりが原因で、対人コミュニケーション能力や問題解決能力などの低下がみられる状態です。HSPの特性は発達障害と似ているものもあるため、間違われることがあります。HSPを発達障害の自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と比べると、以下のような共通点と相違点がみられます。
HSP | 発達障害 | |
---|---|---|
対人関係 | 苦手、一人を好む | 苦手、一人を好む(ASD) |
変化への対応 | 苦手 | 苦手(ASD) |
他者の気持ちへの対応 | 敏感に反応 | 関心が希薄(ASD) |
刺激への感受性 | 多様な刺激に反応 | 多様な刺激に反応(ADHD) |
多動性 | 特に問題ない | じっとしているのが苦手(ADHD) |
適応障害は職場や家庭などの環境でのストレスが大きすぎて、自分の能力をうまく発揮できず不適応に陥った状態です。音や光、感情などの刺激に敏感に反応するHSPの特性が原因で、適応障害をきたすことがあります。
HSPは生まれつきの気質であり、病気ではありません。そのため、HSP自体を治療するというよりも、HSPをきっかけに起こる症状や障害などを改善し、自分の気質との上手な付き合い方を考えていきます。まずは問診をして、睡眠障害や極度の不安などの症状がみられる場合、症状に有効な薬物療法を医師が検討します。また、二次障害として生じやすい抑うつ状態かどうかを把握するため、SDS(うつ性自己評価尺度)などの心理検査を行ない、TEG(東大式エゴグラム)やSCT(精研式文章完成法テスト)といった性格検査の結果も活用しつつ、カウンセリングを進めていきます。HSC(Highly Sensitive Child:非常に敏感な子ども)が疑われる場合は、家族にも同席してもらいその子の特性を共有します。
カウンセリングでは、カウンセラーに何に困っているのかを話してもらい、どう変わればもう少し生きやすくなるのかを一緒に考え、ゴールを定めます。ここでは、以下の3つのポイントに分けてその内容を解説します。
1.HSPの特性を理解する
環境からの刺激を上手に和らげることがポイントです。光や音の強さも、サングラスや耳栓をする、心地よい音楽をヘッドフォンで聴くなどで、多少は緩和されます。睡眠の質が悪いと刺激により敏感になってしまうので、睡眠の質を高める工夫も考えましょう。
2. 自分の特性やこれまでの出来事を捉え直す
敏感すぎる特性をネガティブに捉えず、カウンセラーとの対話を通して別の視点から自分の特性やこれまでの出来事について考えます。多くの人は、自分の敏感さが神経系の特性によるもので、同じことで悩む人が多いと分かると、少しホッとするようです。余裕が出てきたら、苦手な人と上手に距離を取ることや、他人の感情を自分に結びつけやすい思考のくせを見直していきます。
3. 緊張しにくい状況に自分を置く
敏感さと上手に付き合うためには、自分を少しでも緊張しにくい状況に置くことが大切です。苦手な刺激に自分を慣らすため、短時間から始めて徐々に接する時間を伸ばしたり、複数のイベントを矢継ぎ早にこなさず前後で十分な休息をとったりしましょう。「疲れたから休む」と考える人は、「疲れる前に休む」ことも試してみてください。
実際に当院を訪れた人の中には、次のように悩みを解消した人もいます。
●他の生徒の声や授業中の音が気になり、教室に長くいることが難しかった学生
耳栓を使い、オンラインで授業を受けるようにした。さらに、寝付きの悪さを解消するために睡眠導入剤を活用したところ、登校しやすくなった。●職場での同僚や上司の強い口調に反応してしまい、仕事に集中できなくなった人
カウンセリングを行なって穏やかな生活を送れるようになり、家族のことを配慮するゆとりが生まれた。
急にHSPのような特性が生じた場合は、まれに精神疾患の初期症状であることもあります。もし心配な場合は、精神科や心療内科などの医療機関に相談してみましょう。
まずは、家族や親友など、信頼できる身近な人に話してみるとよいでしょう。大切なのは、悩みを否定せずに聞いてくれる相手を選ぶことです。HSPのセルフチェックリストなどもあるので、相手にも評価してもらうとよいと思います。
もし、安心して相談できる人がすぐに思い浮かばなければ、専門家に相談するのも一つの手です。メンタルクリニックを受診したり、行政が主催する無料や低額の心理相談を活用したりするのも効果的です。
以下の項目で、自分に当てはまるものをチェックしてください。
12個以上当てはまる場合、HSPの可能性が高いです。
□ | 自分をとりまく環境の微妙な変化によく気づく |
□ | 他人の気分に影響を受けやすい |
□ | 痛みにとても敏感だ |
□ | 忙しい日々が続くと一人になれる場所にこもりたくなる |
□ | カフェインにより、体調に変化が起こりやすい |
□ | 明るい光や強い臭い、肌触りの悪い服が苦手だ |
□ | 想像力が豊かで、空想にふけることが多い |
□ | 騒音が気になりやすい |
□ | 美術や音楽に深く心を動かされる |
□ | とても良心的である |
□ | 些細なことでもすぐに驚く |
□ | 短期間にたくさんのことをしなければならないときに混乱する |
□ | 誰かが不快な思いをしていると、快適になる方法にすぐ気づく (電気の明るさを調節するなど) |
□ | 一度にたくさんのことを頼まれるのが嫌だ |
□ | 物を忘れるといったミスをしないよう、いつも気をつけている |
□ | 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている |
□ | あまりにも多くのことが身の回りで起こると、不快になり神経がたかぶる |
□ | 空腹になると、集中できなくなったり、気分が悪くなったりする |
□ | 生活パターンが変化すると、混乱しやすい |
□ | デリケートな香りや味、音、音楽を好む |
□ | 普段の生活では、動揺するような場面を避けることを優先する |
□ | 仕事などで、競争させられたり、観察されていたりすると、緊張して実力が発揮できない |
□ | 子どもの頃、周囲の大人から「敏感だ」「内気だ」といわれた |
HSPの人は周囲になじめなかったり、理解されなかったりしてつらい思いをするケースが多いのですが、自分の特性を嫌いにならないようしてもらいたいです。とはいえ、急に自分を好きになるのは難しいと思うので、できるだけ、いまの自分でよいと感じてくれる人と関わるようにしていくことも大切です。
周囲の人は耳を傾けてほしい
HSPだと思われる人がいたら、相手と自分の差を否定せず、どんな風に世界を体験しているのかを聞いてみてください。そして、その人の大変さを自分の感覚に当てはめて想像し、楽になる方法を一緒に考えみてください。そうすることで、その人が孤立してしまうことを防げるでしょう。
相手のつらさに配慮して行動しようとしても、自分の気持ちに余裕がないとなかなかできないことです。周囲の人たちも自分を大事にして、ゆとりある生活を送ることが重要です。もしHSPの人が一人で専門家に相談するのが不安であれば、周囲の人が受診に付き添ってあげるのもよいでしょう。
解説:西村 由紀子
なでしこメンタルクリニック
公認心理師・臨床心理士
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