社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2021.04.28 公開 / 2022.09.01 更新

放射線治療の最前線  ~切らずに治すがん治療の特徴とは~

手術や薬物療法と並んでがん治療の三本柱の一つである放射線治療。臓器を切らずに温存できたり、ほぼすべてのがんを治療対象にできたりと、多くのメリットがあります。そんな放射線治療の特徴について済生会 中央病院・放射線治療科部長の内田伸恵先生に教えてもらいました。

放射線治療のメリットとは?

がん治療では、「手術」「放射線治療」「薬物療法」が三本柱と呼ばれています。抗がん剤などの薬物療法では薬を投与して全身的な治療をしますが、手術や放射線治療は局所治療で、がんがある場所とその周辺のみを治療します。
がん治療における放射線治療のメリットとはどのような点でしょうか。

◇臓器とその働きを温存できる
手術では、がんが発生した臓器の一部あるいは全体を切除しますが、放射線治療ではがんができた臓器を切除せずに温存します。がんの治療後も見た目や臓器の機能を保つことができるのが放射線治療の大きなメリットの一つです。

◇手術が難しいがんにも対応
ほぼすべてのがんが治療対象となるのも特徴です。合併症で全身麻酔ができない場合や、手術が難しい状態であっても、放射線治療であれば対応できる場合もあります。

放射線は身体を通過するので、メスが届かないような場所でも放射線治療が可能です。

◇がんの「根治」だけでなく「緩和」もカバー
がん治療の目的には、がんを完全に治すことを目指す「根治」と、患者さんの痛みや苦痛症状をやわらげる「緩和」があり、放射線治療はそのどちらもカバーします。全国調査でも、放射線治療のおよそ3割は緩和治療です。

◇治療に痛みがなく負担が少ない
患者さんの全身的な負担が少ないのも特徴です。

放射線のビームが身体を通過するとき、痛みも熱も感じません。ベッドで少しの時間じっとしていることができる人であれば、体力の有無や年齢は関係なく治療ができます。私は最高で105歳の患者さんに緩和目的の放射線治療をしたことがありますよ。

◇入院の必要がない
病巣に放射線を照射する時間は、1回の治療で数分間です。高精度の放射線治療では、照射する位置をミリ単位で調整する必要があります。そのための準備時間を含めると、治療室に入ってから出るまで全部で約15分。治療は完全予約制ですので、朝8時30分に放射線治療を受けてから、仕事に行くことも可能です。

入院する必要がないので、働いている人は仕事とがん治療の両立ができるのも放射線治療のメリットですね。

放射線治療のメリットをまとめると……
・がんがある臓器の機能や形態を温存できる
・幅広い種類のがん治療に対応できる
・根治治療だけでなく緩和治療もカバーする
・治療に痛みを伴わず、全身的影響が少ない
・子どもから高齢者まで治療できる人の範囲が広い
・入院の必要がない(抗がん剤治療を同時に行なう場合は入院することも)

放射線治療のデメリットと有害事象(副作用)

よいことずくめの治療のように書いてきましたが、デメリットもあります。その一つが、放射線治療は一般に1回で終わらず、ある程度の期間、毎日続ける必要があるということです。

現在、当院で一番回数が多いのは、前立腺がんの根治治療39回です。毎週平日の5日間治療しますので、7週半かかります。

どうして、放射線治療は複数回行なわないといけないのでしょうか?

一般的な放射線治療では、身体の外から体内の腫瘍(がん)に放射線を照射してがん細胞をやっつけ、ゆっくりと小さくしていきます。その際に放射線が皮膚や筋肉、周辺の臓器など、がん以外の正常組織を通過します。このため正常組織に放射線の影響、つまり有害事象(副作用)が現れることがあります。できるだけ正常組織へのダメージを減らし有害事象を起こさないために、何回かに分けて少しずつ放射線を照射するのです。

■急性期の有害事象
治療期間中から終わって6カ月までを「急性期」と呼びます。その時期には放射線のビームが通過した部分の皮膚や周囲の粘膜などに炎症が起こり、赤くなったり痛みが出たりすることがあります。こうした症状は治療期間の後半に現れます。一般に、急性期の有害事象は治療終了後数カ月で回復します。
■晩期の有害事象
治療終了後半年以降にまれに現れる放射線に起因する障害を「晩期」の有害事象と呼びます。晩期の有害事象はいったん起こると治りにくいです。このため、できるだけ発症しないような放射線治療を設計します。

ミリ単位の精度のピンポイント照射

一般的な放射線治療では、回数を重ねてゆっくり治療します。しかし、最近では治療回数を減らす新しい方法も開発されています。

それが「定位(ていい)照射」です。ピンポイント照射ともいわれており、ミリ単位の精度で病変に焦点を合わせて、その周囲にはできるだけ放射線が当たらないようにします。そうすることで1回あたりに強い線量を照射でき、治療回数を減らすことができます。

以前は30回以上に分けて照射していたものを、ピンポイント照射では4~5回で終えることができます。当院では、4cm程度以下の肺がん肝臓がん、脳転移の定位照射を行なっています。肺がんでは手術で切除するのと遜色(そんしょく)ない成績が報告されています。

こうした放射線治療に使われる装置を「リニアック(直線加速器)」と呼びます。

中央病院の最新式放射線治療システム

中央病院の最新式放射線治療システム

放射線治療計画用のCT

放射線治療計画用のCT

最新の放射線治療について

がん治療で、良好な成果を出している放射線治療。治療の現場では、放射線のビームをより精密に調整できるようになっています。最新の治療法を見ていきましょう。

● SRT(定位放射線治療)
定位照射を行なう治療で、ピンポイント照射とも呼ばれます。5cm以下の丸い形状のがんに対して、いろいろな方向からピンポイントで放射線を照射し、正常組織のダメージを抑えます。強い線量を正確に照射できるため、周辺臓器への有害事象を減らすことができます。脳のピンポイント照射ではガンマナイフという装置がよく使われます。また、肺や肝臓など体幹部のピンポイント照射はSBRT(体幹部定位放射線治療)といいます。

● IMRT(強度変調放射線治療)
IMRTでは、がん病巣や正常組織の形に合わせて、放射線のビームの形状や強弱を細かく調整して照射します。病巣に対して十分な放射線を照射しながら、正常組織の放射線を減らすことが可能となります。IMRTでは治療の計画が複雑になることから、準備に1週間程度かかります。装置を回転させながら行なうIMRTを強度変調回転放射線治療(VMAT)といい、IMRTに比べて短時間での照射が可能です。

● IGRT(画像誘導放射線治療)
SRTやSBRT、IMRTでは、治療するがん病巣の位置をミリ単位で正確に保つことが必要です。IGRTは、装置のベッド上で治療直前に撮影した画像で病巣の位置を補正して照射する技術です。最近の高精度放射線治療では必須のものとなっています。

● 四次元放射線治療
肺がん肝臓がんなどの場合、呼吸によってがん病巣の位置が動きます。動くがんをモニタリングして待ち受けて照射したり、動きを追って追尾照射したりすることができます。身体は三次元構造ですが、それに時間要素も加えた四次元の考えで放射線を照射します。

● 粒子線治療
通常の放射線治療で使われる放射線は、X線や電子線、ガンマ線など電磁波の仲間です。粒子線治療では陽子線や炭素イオン線といった粒子のビームが使われます。粒子線治療は、がん病巣に高い線量を集中させ、周囲正常組織へのダメージを抑えることが可能です。

放射線と聞くと「漠然と怖い」というイメージを持つ患者さんがたくさんいらっしゃいます。皆さんには『近代的な最先端の治療法です。放射線の照射方法を綿密に計画し、安全安心で高精度な治療を提供しています』と説明しています。

技術革新とともに、治療が高度で精密になっている放射線治療。
内田先生によると、正常組織の有害事象をより少なくする薬の研究も行なわれているそうです。将来的には放射線治療の前に1錠飲むと粘膜炎が起こらないといった薬も誕生するかもしれませんね。

解説:内田 伸恵

解説:内田 伸恵
中央病院
放射線治療科部長

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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