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2015.07.07
夜間頻尿とは、「夜間、排尿のために1回以上起きなければならない」という訴えで、これにより困っている状態をいいます。夜間の排尿回数が2回以上になると、睡眠の妨げなど”生活の質”に影響を及ぼすため、治療の対象となることが多いのですが、夜間に1回以上排尿のために起きていても、年齢や男女差、生活様式、認識の差によって生活への影響の程度が異なるため、(本人または家族の生活に支障がないのであれば)必ずしも治療をする必要はありません。このため、通常は夜間の排尿回数が2回未満までは正常と見なされています。
わが国における調査では、夜間頻尿は若い人では10~30%に、お年寄りでは40~80%に認められ、年齢とともに排尿回数が増えることが報告されています。また若い人では女性に、高齢者では男性に多い傾向があります。
夜間の排尿回数が増える原因は、(1)膀胱容量の減少および(2)夜間尿量の増加(夜間多尿)が考えられます。
(1)膀胱容量の減少の原因
脳梗塞や脳出血、脊髄損傷などの神経疾患では、排尿反射が亢進して膀胱に十分な量の尿をためることができず、夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁が起こることがあります。また、高齢者では加齢に伴う膀胱筋肉の筋力低下が原因で、膀胱容量の低下が起こります。(2)夜間尿量の増加の原因
特に高齢者では、水分の過剰摂取や利尿剤の内服により1日の尿量や夜間の尿量が増え、排尿回数が増加します。また、血圧の高い人は夜間に腎臓の血流が増加するため、夜間の尿量が増加し排尿回数が増えます。
上記のほかにも、水分摂取量や利尿剤内服、睡眠の障害、前立腺や膀胱の病気、季節との関連、加齢現象などのさまざまな要因が関与していると考えられます。
高齢者の夜間頻尿では、膀胱容量の減少と夜間尿量の増加を同時に有している人が60~70%にみられます。膀胱容量低下や夜間多尿の原因はさまざまですので、病態に応じた治療方法を組み合わせて治療します。運動療法や生活指導、薬物療法(抗コリン薬・アルファ1遮断薬・睡眠改善薬)などにより、約50%の人で改善が見られます。
排尿後の残尿の量が多い人や治療中に残尿が増加する人は、専門医への受診が必要です。
前立腺肥大症や尿道狭窄(にょうどうきょうさく)など下部尿路の通過障害があると、排尿後の残尿が増加し、排尿回数が増加します。また、頻尿治療薬(抗コリン薬)の内服や加齢により膀胱筋肉の収縮力の低下が起こると排尿後の残尿が増えます。残尿量のチェックはエコー検査で簡単に行なうことができます。
成人1日の平均尿量は1200~1500ml(体重1kgあたり20~25ml)で、夜間尿量は1日尿量の約3分の1(400~500ml)が標準です。また、1回排尿量は250ml前後なので、1日の排尿回数は5~6回、夜間の排尿回数は0~1回が標準になります。
1日の排尿回数は、このように1日の尿量と1回の排尿量によって予測はできますが、気温や発汗や水分摂取量、体調などにより変化します。そのため、1日を通して排尿状況(排尿時間と排尿量)と起床・就眠時刻をできる限り正確に記録することが大切になってきます。この記録を「排尿日誌」といい、排尿日誌をつけることで、夜間頻尿の原因の推測や治療の可否を評価することができます。日差や体調の差はありますが、1~2日分の記録で十分で、排尿量の正確な計測が重要です。なお、就寝~翌日の起床第1尿までの夜間尿量が、24時間尿量の35%を超える場合を「夜間多尿」と見なします。
排尿日誌は、夜間頻尿を含む排尿の障害やその原因などの診断と治療に役立つばかりでなく、治療による効果の判定や医療機関を受診するときの病状の説明に大変有用となります。
夜間頻尿の原因には「医学解説」でも述べたように、膀胱容量の減少および夜間尿量の増加(夜間多尿)だけでなく、水分摂取量や利尿剤内服、睡眠の障害、前立腺や膀胱の病気、季節との関連、加齢現象などのさまざまな要因が関与していると考えられます。そのため、確実な予防策を挙げることは難しいですが、不規則な生活習慣の改善やバランスのとれた食事、就眠前の飲水制限、ストレスを溜めないなど、普段から健康に気を遣うことが大切です。
不眠との関連
加齢に伴う夜間頻尿と睡眠障害を併せ持つ患者さんは多くいます。睡眠薬の内服で熟睡ができるようになると夜間頻尿も改善しますが、睡眠薬に頼ることなく、日々の生活リズムを見直したり、30分間程度の運動(ウォーキングなど)を続けたり、昼寝時間を少なくしたりして、睡眠の質を改善することも大切です。
不眠があるから夜間頻尿になるのか、あるいは夜間頻尿があるから不眠になるかは明確になっていませんが、悪循環に陥ることは間違いありません。このため、夜間頻尿の主たる原因に対する治療とともに、不眠の原因となっている疾患の診断や治療を行なうことも大切です。
解説:浅野 晴好
愛知県済生会リハビリテーション病院
顧問兼院長補佐
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。