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2015.07.07
「物が二つに見える」ことを「複視」といいます。複視に気が付いた場合、片眼を隠して、左あるいは右眼だけで見てみることが重要です。片眼を隠しても変わらない場合は「単眼性複視」といい、乱視や白内障など眼に原因がある眼科の病気です。一方、両眼では二つに見えるが、片眼で見ると一つに見える場合は「両眼性複視」といいます。ここでは、両眼性複視について解説します。
関心のある物を正確に見るため、人は眼を動かしますが、このとき、両眼は無意識的に共同運動を行ない、左右の眼の像を一つに融合します。複視は、この眼球運動に障害があると起こります。
眼球には6個の眼球を動かす筋肉(眼筋)がついていて、それらの筋肉を、動眼神経・滑車神経・外転神経という三つの脳神経が動かしています。そして、左右の眼球は、脳幹の神経細胞と神経路により巧妙に共同運動が行なわれます。そのため、眼筋、脳神経、脳幹が障害されると複視が起きます。つまり、複視はこれらに障害があることを示しているわけです。
複視の原因はたくさんあります。放置していても自然に回復することもありますが、重篤な疾患の初期症状として複視が現れることも少なくありません。
複視が起きる主な疾患としては、以下のようなものがあります。
眼筋の疾患
重症筋無力症、甲状腺眼症、眼窩筋炎(がんかきんえん)、巨細胞性動脈炎
脳神経障害
脳動脈瘤、外傷、ギラン・バレー症候群(フィッシャー症候群を含む)、糖尿病神経障害、脳腫瘍、悪性腫瘍転移、副鼻腔炎関連疾患、眼筋麻痺性偏頭痛、サルコイドーシス、トロサ・ハント症候群
ヒステリー
輻輳(ふくそう)スパスム
複視が、動眼神経・滑車神経・外転神経の単一の脳神経障害による場合は、通常、自然に回復します。しかし、眼痛、視力低下、頭痛など複数の脳神経麻痺や発語障害、歩行障害などの神経症状を合併しているときは重篤な疾患によることが多く、複視はその疾患の初期症状となります。
重症筋無力症
複視のほか、眼瞼下垂(がんけんかすい)、話しにくさ、嚥下(えんげ/食物を飲み下すこと)困難などが多く見られます。
甲状腺眼症
バセドウ病などの甲状腺異常による症状の一つとして、複視や両眼の腫れが見られます。
糖尿病性眼筋麻痺
糖尿病患者に見られる、動眼神経など単一の神経障害です。
脳動脈瘤
複視に加え、眼痛があると脳動脈瘤による動眼神経麻痺の可能性があります。くも膜下出血の危険性もあるため、脳神経外科を緊急受診する必要があります。
ギラン・バレー症候群(フィシャー症候群を含む)
急に発症し、1~2週間で悪化し手足に力が入らなくなります。複視のほか、両眼が動かなくなり、歩行障害も見られます。症状の出る1~2週前に、下痢や風邪に罹患していることが多いです。
副鼻腔炎関連疾患
副鼻腔炎(鼻の副鼻腔という場所に炎症が起きる病気)が原因で、アスペルギールスなどの真菌(カビ)感染症は進行すると死に至ることがあります。海綿静脈洞血栓症や副鼻腔炎手術後の粘液のう腫(のうしゅ)などもあり、炎症が副鼻腔内にとどまらず眼や脳に進んだ場合、複視や眼球突出、頭痛、高熱が起きます。
トロサハント症候群
眼の奥にある海綿静脈洞部に肉芽腫というコブができ、炎症を起こす病気で、複視や眼痛を伴います。ステロイド剤が有効です。ただし、眼痛を伴う眼筋麻痺は多く、精密検査で他の疾患でないことを確認することが必要です。
脳梗塞
手足のしびれやめまいなどを伴い、突然発症します。高血圧や糖尿病の人に多く見られます。
多発性硬化症
脳や脊髄などの中枢神経が脱髄(だつずい)し、複視やしびれ、歩行障害などを発症することがあります。
ウェルニッケ脳症
アルコール中毒や、つわりなどの栄養不良でビタミンB1欠乏のときに発症します。複視のほか、ふらつきや混迷状態になります。
癌の脳転移
転移場所によって、さまざまな神経症状が出ます。場合によっては、複視や眼痛があり、急速に悪化します。
輻輳(ふくそう)スパスム
ヒステリーなどが原因で、本人の意思に反し歌舞伎で見得をきったように寄り眼になります。
複視の原因はさまざまです。症状が複視のみで、原因が単一の脳神経(動眼神経・滑車神経・外転神経)障害の場合は、通常自然に回復します。しかし、複視以外に、眼痛、視力低下、頭痛など他の神経症状が見られる場合は、「早期発見のポイント」で述べたような重篤な疾患の初期症状であることがあります。複視で眼科を受診した場合、必要があれば神経内科か脳神経外科を紹介されると思います。重症化を予防するためには、神経内科か脳神経外科を早期受診し、徹底した検査を受けることが重要です。
解説:向井 栄一郎
愛知県済生会リハビリテーション病院
神経内科部長
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