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2020.09.23
糖尿病神経障害とは、糖尿病によって引き起こされる神経障害のことです。原因として、高血糖による神経細胞の変化、動脈硬化からくる神経細胞への血流不足(栄養不足)が挙げられます。
複数の神経に同時に機能不全が起きる「多発神経障害(広汎性左右対称性神経障害)」と、1本の神経のみに損傷が起きる「単神経障害」があります。日常臨床では多発神経障害の方が多くみられ、軽い自覚症状のみの場合から、下肢の切断や全身性の感染症など、生命に関わるようなものまで含まれます。多発神経障害は、感覚神経障害と自律神経障害の両者が併存しているような病態です。
多発神経障害では、感覚神経障害や自律神経障害の症状が現れます。
感覚神経障害の症状は、主に足の先から現れます。足の裏がジンジンし、砂利を踏んでいるような感覚や、足の裏に薄皮が1枚張っているような感覚が生じます。
自律神経障害の症状は、下痢、便秘、胃のもたれ、頻尿、失禁、尿のきれの異常、勃起障害、発汗異常、起立時のふらつき、低血糖時に自覚症状がないなどさまざまです。知覚鈍麻(刺激を感じにくくなる)の症状には特に注意が必要です。
一方、単神経障害では、突然に単一神経麻痺が起こります。外眼筋麻痺(物が二重に見える場合が多い、動眼神経・滑車神経・外転神経の障害)および顔面神経麻痺が多く、糖尿病の罹病年数や血糖コントロールの良し悪しとは無関係に発症します。また、95%以上が3カ月以内に自然に治まります。
後述の「早期発見のポイント」に簡易診断基準案を掲載しました。特に、糖尿病の患者さんは、定期的に神経障害に関するスクリーニング検査(感じている症状によって病気かどうかを見分ける検査)を行なうことが望まれます。
良好な血糖コントロールを維持することが大切です。アルドース還元酵素阻害薬が自覚症状と神経機能の悪化を抑制するとの報告があります。血糖コントロール不良の例では、急速な血糖改善により痛みが現れる、治療後に有痛性神経障害を引き起こすなどがあります。
感覚神経障害のうち、自発痛(穿刺痛、電撃痛、灼熱痛など)のある有痛性神経障害では、プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチン塩酸塩などの疼痛治療薬が使用されます。慢性化すると治療抵抗性(通常の治療を一定期間行なっても病気が改善しないこと)が現れることが多く、心理的サポートも重要です。
自律神経障害では、多彩な症状があり個人差が大きいため、主治医に相談し、それぞれの症状に関する対処法を教わりましょう。
糖尿病神経障害は症状が多岐にわたるため、国際的な診断基準はいまだできていません。日本では以下の簡易診断基準案が比較的広く使用されています。
必須項目(以下の2項目を満たす) |
1.糖尿病が存在する |
条件項目(以下の3項目のうち2項目以上を満たす場合を“神経障害あり”とする) |
1.糖尿病性多発神経障害に基づくと思われる自覚症状 |
注意事項 |
糖尿病性神経障害に基づくと思われる自覚症状とは |
参考項目(以下のいずれかを満たす場合は条件項目を満たさなくても神経障害ありとする) |
1.神経伝導検査で2つ以上の神経でそれぞれ1項目以上の検査項目(伝導速度、振幅、潜時)の異常を認める |
(糖尿病性神経障害を考える会 2002年1月18日改訂)
血糖コントロールの不良や、高血圧・脂質異常・飲酒・喫煙などによって起こる動脈硬化が糖尿病神経障害の発症や進展につながるとされています。そのため、血糖コントロールと動脈硬化の両方の予防が重要です。生活習慣の改善を心がけましょう。また、循環器系の疾患の有無のチェックのため、定期的に心電図等の健康診断を受診しましょう。
以下の症状がある人は、進展・重症化予防のためにそれぞれ気をつけなければならないポイントがあります。
・感覚障害や足の変形がある人
足病変(水虫やタコ、壊疽などのトラブル)になりやすい傾向があります。こまめにフットケアを行ない、足の傷や感染が心配なときは早めに受診しましょう。・自律神経障害による立ちくらみやふらつきの症状がある人
薬物療法の調整が必要な場合があります。主治医に相談しましょう。
神経障害がある人は、網膜症や腎症の発症や進展につながりやすいため、定期的に受診して糖尿病のほかの合併症についてもチェックするようにしてください。また、神経障害が進むと無自覚に低血糖を起こしやすくなることがあります。薬の調整や、低血糖時の対処法について主治医に確認しておきましょう。
解説:安田浩一朗
野江病院
副院長 兼 糖尿病・内分泌内科 部長
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