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2023.05.02
勃起障害(ED)は性交時に十分な勃起が得られないか、あるいは十分な勃起が維持できないため満足な性交が行なえない病気です。
EDは陰茎だけの障害ではなく、全身疾患に付随する障害あるいは生活習慣に起因する障害の一つです。
具体的には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化、睡眠時無呼吸症候群、慢性腎障害、脳血管障害、内分泌疾患、神経疾患、男性更年期障害、心理的精神疾患、肥満、加齢、喫煙、飲酒、運動不足などさまざまな病気や生活習慣がEDの発症に関与しています。
EDは大きく「機能性ED」と「器質性ED」に大別され、それぞれいくつかの種類に分かれます。
■機能性ED
① 心因性ED
性行為に対する不安・ストレス・過去の体験のトラウマ・パートナーとのトラブル、またはうつ状態・うつ病などによって勃起が得られなくなること。
② 男性加齢性機能低下症候群(LOH症候群)によるED
LOH症候群は、加齢による男性ホルモン「アンドロゲン」の分泌低下に伴ってさまざまな症状がみられる症候群です。性機能に対しては性欲の減退、勃起力低下、射精感の消失などが現れます。加えて同症候群によるうつ症状(落胆、抑うつ、苛立ち、不安、神経過敏、易疲労感、睡眠障害)がさらにEDを助長します。
③ 薬剤性ED
他の病気で内服中の薬剤による副作用でEDを発症します。非ステロイド性抗炎症薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗コリン薬、降圧薬、抗不整脈薬、高脂血症治療薬、消化性潰瘍治療薬、前立腺肥大症治療薬などで薬剤性EDが報告されています。
■器質性ED
① 流入系ED(動脈性ED)
十分な血液が陰茎海綿体(左右一対の棒状の海綿体)に流れないことでEDを発症します。主な原因は陰茎海綿体に血液を送る動脈の硬化です。動脈硬化の原因として生活習慣病が挙げられます。肥満・運動不足・飲酒・喫煙・食生活の乱れ・休養不足のほか、高血圧・糖尿病・心疾患などの合併が勃起力に影響します。また、睡眠時無呼吸症候群によってREM睡眠が障害され、REM睡眠時に生じる夜間の勃起現象を妨げて陰茎海綿体が低酸素状態になり、EDを発症するケースもあります。
② 流出系ED(静脈性ED)
血液が陰茎海綿体に保持されないことでEDを発症します。血液が陰茎海綿体から流出してしまい、陰茎が十分な硬さを保てなくなります。静脈閉鎖不全によるもので、原因は分かっていません。
③ 神経性ED(中枢性ED、末梢神経性ED)
脳からの神経伝達が陰茎に達しないことでEDを発症します。脊髄損傷や脳血管障害など神経伝導路の障害によって、脳の中枢神経や大脳皮質から性的刺激が末梢神経に伝達されないことで起こります(中枢性ED)。また、骨盤内手術などで末梢神経に障害を生じ、神経伝達物質が分泌されないことが原因になるケースもあります(末梢神経性ED)。
④ 陰茎性ED
陰茎そのものの障害によってEDを発症します。
以下の方法で、EDかどうかを調べます。
〇 国際勃起機能評価スコア(IIEF5スコア)
問診時に勃起障害の程度を判定するために利用されます。
〇 ストレステスト
心因性EDを調べる際に利用されます。
〇 勃起の硬さスコア(日本語版EHS)
EDを簡易的に診断したり、治療効果を確認したりする際に使われます。
〇 スタンプテスト
寝る前に切手シートを陰茎に巻き付けておき、起床時にミシン目で切手が切れていれば夜間に勃起したものとして機能性EDと診断します。機能性EDか器質性EDかを鑑別する際などに利用されます。
〇 Audio-Visual Sexual Stimulation(AVSS=視聴覚性的刺激)
ビデオなどで性的刺激を与えるAVSSによって勃起が確認された場合は、機能性EDと診断します。
〇 Aging Male’s Symptoms score(AMSスコア)
LOH症候群を調べる際に使われます。AMSスコアからLOH症候群が疑われた場合は、遊離テストステロン(男性ホルモンの一つ)の値を測定します。
〇 パパベリンテスト
平滑筋弛緩剤の塩酸パパベリン(あるいはプロスタグランジンE1)40mgを陰茎海綿体内に注射して勃起反応を調べる方法です。性交可能な勃起が得られれば、器質性EDのうち流入系・流出系に異常はなく、神経系の異常と判断できます。逆に性交可能な勃起が得られなければ陰茎性EDと診断します。
〇 画像診断など
陰茎血圧と上腕動脈血圧の比(PBI:penile brachial index)の検査結果を組み合わせた画像検査を行ないます。
■機能性ED
基礎疾患の治療のほか、心因性EDではカウンセリング、LOH症候群では男性ホルモン剤(エナルモンデポー)の補充、薬剤性EDでは薬剤の変更を行ないます。
効果がなければ、ED治療薬であるPDE5阻害薬を服用します。PDE5阻害薬にはシルデナフィル(バイアグラ)、バルデナフィル(レビトラ)、タダラフィル(シアリス)の3種類があります。
■器質性ED
動脈性EDには動脈閉塞部拡張術や動脈バイパス手術のほか、陰茎海綿体に平滑筋弛緩剤を注射して血流改善を行ないます。静脈性EDでは人工的に静脈を結紮(けっさつ=縛って結ぶこと)する治療(深陰茎背静脈結紮術、陰茎海綿体脚部結紮術、尿道海綿体剥離術など)によって、血液の流出を抑えます。
陰茎性EDは、陰圧式勃起補助器具や陰茎海綿体注射による治療を行ない、ほかに治療法がない場合は最後の手段として陰茎プロステーシス(陰茎海綿体内に専用のシリコン製インプラントを移植する手術)を行ないます。
性に関する問題のため、他人に相談できず、患者さんが一人で悩んでしまうことがあります。しかし、早期発見にはパートナーの協力が欠かせません。場合によっては専門のカウンセラーによるカウンセリングも必要です。
夜間勃起現象の一部である「朝立ち」の消失はEDのサインではありますが、必ずしも毎朝、朝立ちがあるとは限らないので慎重な判断が必要になります。
気になる場合は、医学解説の「勃起障害(ED)の検査・診断」の項で取り上げたIIEF5スコアや勃起の硬さスコア(日本語版EHS)によるセルフチェックを試してみることをお勧めします。
勃起障害(ED)は高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群などの基礎疾患がある患者さんに発症することが多いため、喫煙・飲酒を含めた生活習慣の見直し、日常の食生活の改善、運動不足の解消といった対策が予防には有効です。
また、仕事の内容、職場の環境、人間関係、家庭内のもめ事などによるストレスも影響します。そのため、ストレスの少ない環境に身を置くことも大切です。
薬の中には勃起機能に影響を及ぼすものもあります。気になる場合は、薬について医師と相談することをお勧めします。
参考文献
永尾光一:陰茎海綿体の解剖と勃起のメカニズム. J. Smooth Muscle Res.,9:J37-J45,2005
今川章雄:泌尿器科医のためのインポテンス診療の戦略. 医薬ジャーナル社,1990
日本泌尿器科学会/日本Men`s Health医学会/「LOH症候群診療ガイドライン」検討ワーキング委員会(編):加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き.じほう,2007
日本性機能学会/日本泌尿器科学会(編):ED診療ガイドライン(第3版).リッチヒルメディカル,2018
EDをあなどるなかれ.知っておきたい最近の話題.臨床泌尿器科,70: 989-1032,2016
解説:上領 頼啓
豊浦病院
特別顧問
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