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2018.05.16
首を通って脳へ血液を送る主な血管として、頸動脈があります。頸動脈は首の左右を通る、ドクドクと拍動を感じることのできる太い血管で、あごの下あたりで脳へ血液を送る内頸動脈と顔に血液を送る外頸動脈に分かれます。この分枝部周辺は、全身の血管の中でも動脈硬化が強く出やすい場所の一つです。動脈硬化とは、老化に伴って血管の内側に脂肪分などのカス(プラーク=粥腫<じゅくしゅ>)がたまってしまう現象で、これにより頸部頸動脈の内腔が狭くなった状態を頸部頸動脈狭窄症といいます。近年、食生活の欧米化に伴って、この病気の患者さんの数は増加しています。
頸動脈の狭窄
頸動脈の狭窄が進行すると、脳へ血液が行かなくなったり、たまったカスがはがれて脳血管内で詰まってしまい、脳細胞が死んでしまう脳梗塞を起こすことがあります。脳梗塞は起こした箇所や大きさにより、半身の麻痺や感覚の障害、言語障害、認知症などの後遺症の原因となり、場合によっては生命に関わる可能性もあります。頸部頸動脈狭窄症が見つかったときは、無症状のうちに、もしくは症状の軽いうちに治療を考える必要があります。
治療はまず内科的治療を行ないます。さらに、狭窄の程度が強かったり、たまったカスがはがれやすそうだった場合には、外科的治療を追加することが勧められます。
1)内科的治療
動脈硬化の危険因子である高血圧、高脂血症(脂質異常症)、糖尿病の治療を行ない、ある程度狭窄が進行した方はさらに抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を服薬します。
2)外科的治療
頸動脈内膜剥離術(CEA)と頸動脈ステント留置術(CAS)という手術があります。
ⅰ)頸動脈内膜剥離術(CEA)
全身麻酔をかけて頸部をメスで切開し、頸動脈を露出します。露出した頸動脈をさらに切開し、直接カスを取り除きます。
ⅱ)頸動脈ステント留置術(CAS)
足の付け根に局所麻酔をして、大腿の動脈にカテーテルという管を入れ、これを頸動脈の狭い部分まで通します。次に、カテーテルについている風船をふくらませて狭くなった部分を広げ、再度狭くならないよう広がった所にステントという金属の筒を置きます。
頸動脈エコーという身体に負担のかからない簡便な検査で発見することができます。この検査で狭窄の程度が強いと診断された方は、さらに頸部血管のMR、CT、カテーテル検査などで詳しく調べていきます。
原因である動脈硬化は加齢とともに起こりますが、加齢の他にも危険因子があります。具体的には、高血圧、高脂血症(脂質異常症)、糖尿病、喫煙、肥満などです。病気を早期に発見するために、これらの危険因子を多くお持ちの方は、無症状でも一度頸動脈エコーを行なうことをお勧めします。また、動脈硬化は頸動脈だけでなく全身の血管に起こるので、心臓の血管の動脈硬化が原因で起こる心筋梗塞、狭心症、また、足の血管の閉塞性動脈硬化症などの病気をお持ちの方も頸動脈エコーを行なうことをお勧めします。
頸部頸動脈狭窄症による脳梗塞の症状として多いものに、以下の症状が挙げられます。
これらの症状が出現したら、すぐに医療機関を救急受診してください。
なかには、様子を見ているとこれらの症状が短時間(多くは1時間以内)で消失することがあります。これは一過性脳虚血発作と呼ばれており、脳梗塞の警告と考えてください。一過性脳虚血発作が出たときも、症状が消えたからといって安心せずに、すぐに脳神経外科、神経内科、脳卒中科などの専門の医療機関を受診してください。
頸部頸動脈狭窄症による一過性脳虚血発作として特徴的なもので、一過性黒内障があります。内頸動脈からは、眼動脈という眼の網膜を栄養している血管が枝分かれしています。この眼動脈に頸動脈の狭窄部位にできた血のかたまりがはがれて、詰まることがあります。眼動脈が詰まると急に片目が見えなくなり、詰まりが取れるとまた見えるようになります。これが一過性黒内障です。片方の眼だけ突然、真っ暗になったり、黒もしくは白っぽい幕を引くように見えなくなったりした後、数分から数十分でまた見えるようになるような症状が出たときは、一過性黒内障を疑い早急に専門の医療機関を受診してください。
発症を予防するためには動脈硬化が進行しないようにすることが重要です。そのためには、「医学解説」で述べた動脈硬化の危険因子をコントロールすることが必要になります。
具体的には高血圧、高脂血症(脂質異常症)、糖尿病をお持ちの方は医療機関で適切な治療を受けてください。喫煙は動脈硬化を進めるので、禁煙を心掛けましょう。
食事は塩分、脂肪分、糖分(炭水化物)の取りすぎに気をつけ、適度な運動(有酸素運動)を心掛けてください。そして、過労、ストレス、睡眠不足、肥満を避けるようにすることが大切です。
頸部頸動脈狭窄症が発見された方は内科的治療が始まりますが、一般に狭窄の程度が強い方には手術(CEAかCAS)を追加したほうがよいといわれています。手術は将来起こるかもしれない脳梗塞を予防するためのもので、ほぼ安全に行なうことができますが、平均数%以下で合併症を引き起こす危険性もあります。この危険性は患者さん一人ひとりで異なり、さらにCEAとCASそれぞれの利点、欠点、危険性も異なります。予防手術を追加するか否かは、担当の専門医から手術を追加しなかったときの危険性と、追加したときの危険性に関して十分説明を受け、理解された上で選択することが重要となります。
解説:稲葉 真
済生会横浜市東部病院
脳神経外科・脳血管内治療科部長
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