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2018.04.25
脳の血管の壁が風船のようにふくらみ、コブとなったものを脳動脈瘤といいます。成人の2~6%に見つかり、その多くの大きさが10mm以下です。先天的に脳の血管に弱い部分を持った方に、高血圧や喫煙、動脈硬化などの後天的な要素が加わることで発生します。脳動脈瘤が大きくなると脳や神経を圧迫して頭痛や神経症状が出たり、コブの中にできた血液のかたまりが脳の血管に詰まり脳梗塞を起こしたりすることがありますが、通常は無症状です。最近では脳の健康診断である脳ドックなどで偶然見つかることが多くなってきています。
前述したように脳動脈瘤の多くは持っているだけであれば無症状ですが、ある日突然破裂することがあります。破裂すると脳の隙間にまんべんなく回り込むように出血が広がり、これをくも膜下出血といいます。くも膜下出血を起こすと、50%の方が亡くなるか高度障害となり、25%の方が後遺症を残し、社会復帰できるのは25%程度です。いったん破裂すると約半分は命に関わることになります。
偶然、未破裂脳動脈瘤が発見された方にとっては、ご自身の生涯の中で動脈瘤が破裂するかどうかが分かればいいのですが、残念ながら正確に予測することは不可能です。しかし、未破裂脳動脈瘤はめったに破裂するものではないことまでは分かっており、見つかったからといって緊急で対策を講じなければならない、ということは通常はありません。具体的には年間出血率が1%程度といわれています。残り99%の人は持っているだけで何ともありませんが、1%に入ってしまうと、致命的になることがあるということです。
破裂を防ぐためには手術が必要になりますが、すべての動脈瘤が破裂することは決してありませんので、すべての方に手術が必要になることもありません。なぜなら、多くの脳動脈瘤はほぼ安全に治療できますが、治療には必ず危険を伴うからです。そこで未破裂脳動脈瘤をお持ちの患者さんは、ご自身のコブの破裂の可能性と治療の危険性を専門医から十分説明を受け理解していただいた上で、経過観察するか、治療をするかを選択していくことになります。
脳動脈瘤を治す薬はなく、治療は手術になります。手術には開頭手術と脳血管内手術があります。
1)開頭手術
皮膚を切開し頭蓋骨を外して脳を出し、顕微鏡で見ながら隙間を分けて動脈瘤を露出させます。そして動脈瘤の根元を金属のクリップという洗濯バサミのような器具で挟んで、コブを潰します。これを開頭クリッピング術といいます。
2)脳血管内手術
足の付け根の動脈を刺し、カテーテルという管を動脈の中に入れ脳の血管まで送ります。さらに、この管の中にマイクロカテーテルという細い管を通して動脈瘤の中まで入れます。そしてコイルという金属の糸をマイクロカテーテルの中を通して動脈瘤の中に入れ、内側から動脈瘤を詰めます。これをコイル塞栓術といいます。
脳動脈瘤はMR(もしくはMRI)という検査で発見されます。MR検査は磁力を使って身体の中を映す検査です。脳のMR検査には、断面を映す頭部MRIと、脳の中を走っている血管のみを映し出す頭部MRAなどがあり、未破裂脳動脈瘤を発見するにはMRAを行なう必要があります。これらのMR検査は脳ドックの主要な検査項目になっています。脳血管のMRAで動脈瘤が疑われた方にはさらに詳しい検査として、頭部CT検査の一つである脳血管3DCTAや、カテーテルを動脈の中に入れて脳の血管を映す脳血管撮影を行なうことがありますが、造影剤という薬と放射線を使う検査のため、まずはMR検査を行ないます。
「医学解説」でも述べたように、多くの未破裂脳動脈瘤は無症状で、脳動脈瘤を早期発見するためには、何も症状がなくても頭部MRA検査を受けることが必要です。
くも膜下出血の発生は40代から50代にかけて急速に増え始めます。また、高血圧、喫煙、大量の飲酒なども脳動脈瘤の発生、破裂の危険因子です。さらに遺伝の関与も指摘されています。家族内にくも膜下出血や脳動脈瘤の方がいたり、前述の危険因子をお持ちの方は、50歳前後で一度脳ドックなどの受診を考えてもよいと思います。
まれですが、未破裂脳動脈瘤が大きくなって脳や神経を圧迫し、頭痛や神経症状を起こすことがあります。特に急速に下記のような神経症状が出たときは破裂の前兆ということもあるので、早急に医療機関を受診してください。
※今まで経験したことのない激烈な頭痛が瞬間的に起きたときは、くも膜下出血の可能性もあるため救急受診が必要です。
未破裂脳動脈瘤を持っている方には、現在喫煙していたり、高血圧の方が多いという報告があります。また、週3回以上の運動をしている方には脳動脈瘤の発生が低かったという報告もあります。予防するためには禁煙、高血圧の予防、適度な運動が重要だと考えられますが、その発生には先天的な素因もあり、確実に予防する方法は現在のところありません。
発見された方は、経過観察するのか、くも膜下出血予防のための手術を受けるのか選択していくことになります。
一般に脳動脈瘤はサイズが大きいもの、形がいびつなものは破裂しやすく、破裂しやすい場所も分かっています。下記の条件を満たすほど破裂の危険性が高くなるため、治療をお勧めしています。
※詳しくは「脳卒中治療ガイドライン2009」参照
さらに治療の危険性は平均すると5%以下といわれていますが、個々の患者さんで想定される危険性は異なります。専門医より、ご自身の脳動脈瘤破裂の危険性と治療の危険性に関して十分に説明を受け、よく理解された後にご自身の人生観に照らし合わせながら治療の選択をしていく必要があります。
判断に迷った際は、診療情報提供書と画像のコピーをかかっている医療機関に依頼し、それを持って別の医療機関の専門医の意見を聞くセカンドオピニオンをお勧めします。
経過観察となった際は、半年から1年に一度は検査を受け、脳動脈瘤の大きさや形に変化がないかを調べます。経過観察で動脈瘤が大きくなっていた場合は破裂の危険が上がる可能性があるため、再度主治医と相談することになります。経過観察中は、禁煙し、高血圧をお持ちの方は治療をしっかり受け、大量の飲酒を控える必要があります。また、近年歯周病とくも膜下出血の関連も指摘されているため、歯周病のチェックも行なってください。そして日常生活の中では、できれば脳動脈瘤のことはあまり気にかけずに普段どおりの生活を送ってください。
未破裂脳動脈瘤が発見された方は、少なからず不安を感じていると思います。そのためうつ症状が出ることもあります。あまりにも強い不安やうつ症状があるときは主治医と相談して、場合によっては心療内科や精神科の受診を考えてもよいと思います。
解説:稲葉 真
済生会横浜市東部病院
脳神経外科・脳血管内治療科部長
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