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2024.01.24
下垂体腺腫は、脳の「下垂体」という部位に発生する良性の腫瘍です。
下垂体(脳下垂体)は、名前のとおり大脳の底に垂れ下がるように存在する非常に小さな構造物ですが、ホルモンの大事な中枢です。
下垂体腺腫はホルモンを作り出さない「非機能性腺腫」とホルモンを作り出す「機能性腺腫」とに大別され、機能性腺腫には3種類があります。具体的には下表のとおりです。
発生頻度としては、非機能性腺腫が最も多く、プロラクチン産生腺腫、成長ホルモン産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫と続きます。
非機能性腺腫の場合は、ホルモンの作用による症状は出ませんが、腫瘍が近くの視神経を圧迫することで両目ともに視野の外側が見えにくくなる「両耳側半盲(りょうじそくはんもう)」という特徴的な症状が出ます。大きな腫瘍では下垂体の正常な部分が圧迫されて必要なホルモンが十分に作れなくなり、疲れやすいなどの症状が出ることもあります。
なお、ホルモンを産生する機能性腺腫も、腫瘍のサイズが大きくなると視神経や正常な下垂体を圧迫し、上記のような症状が出ます。
機能性腺腫は三つのタイプによって症状は大きく異なります。
プロラクチン産生腺腫
女性では生理が止まり不妊の原因になります。また、妊娠とは関係なく乳汁が出るようになります。男性では性欲低下や、まれに乳腺の増殖で乳房が肥大する「女性化乳房」という症状が出ます。
成長ホルモン産生腺腫
小児期に発症した場合は「巨人症」になります。成長期を過ぎた成人で発症すると、巨人症ではなく「先端巨大症」となり、眉部や顎の骨が張り出して顔つきが変わり、手足のサイズが大きくなります。舌も大きくなり(巨大舌)、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因となります。また、高血圧や糖尿病を合併しやすくなるほか、手指に痛みやしびれが起こる手根管症候群になったり、がんができやすくなったりします。
副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫
「クッシング病」を発症すると、顔が丸くなる(満月様顔貌)・手足はそうでもないのに胴体が太る(中心性肥満)・皮膚に赤い妊娠線のような裂け目ができる(赤色皮膚線条)・背中の上部に脂肪が付く(野牛肩)などの身体変化を生じます。また、高血圧・糖尿病・骨粗鬆症などを合併します。
MRI検査と、ホルモンの状態を知るために血液検査や尿検査を行ないます。そのほかに、必要に応じて人工的にホルモンを負荷してその反応を調べる「内分泌負荷試験」や、大きめの腫瘍では視神経に影響を及ぼしていないか「眼科的検査」も行ないます。
副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍では、MRI検査では見つけられない小さな腫瘍であることが多いため、カテーテル先端部を下垂体の左右にある静脈まで挿入して血液採取を行ない、下垂体の左右どちらに腫瘍があるか調べることもあります。
小さなもので無症状であれば治療の必要はなく、定期的に検査を行ない経過観察します。ホルモンの異常や視野障害などの症状が出た場合は治療が必要になります。
現時点では、プロラクチン産生腺腫と成長ホルモン産生腺腫には治療薬があります。プロラクチン産生腺腫に対しては最初から薬物治療を行なうことが多いですが、薬が合わない患者さんや、長期的な治療に煩わしさを訴える患者さんに対しては、手術を行なうこともあります。これに対し、成長ホルモン産生腺腫では、まず手術でできるだけ腫瘍を摘出した後に、必要があれば薬物治療を追加します。
下垂体腺腫に対する手術は、通常は上唇の付け根や鼻の孔を通して行なう「経蝶形骨洞的(けいちょうけいこつどうてき)手術」が選択されます。以前は手術用顕微鏡を使用していましたが、内視鏡の進歩により、最近では鼻の穴を通した内視鏡手術が圧倒的に多くなっています。しかし、巨大な下垂体腺腫や、腺腫の近くに脳動脈瘤を合併しているなどの特殊な場合では、開頭術で治療を行なうこともあります。また、放射線治療も有効で、ほかの手段で治療できない場合などに行なわれます。
下垂体腺腫は、頭痛やめまいなどで脳の検査を行なった際に偶然見つかることが多いですが、眼科・内科・産婦人科など、脳外科以外で見つかることも多い病気です。特徴的な視野欠損やホルモンの症状が出るので、あらかじめ下垂体腺腫の症状を知っておくと早期発見に役立つと思います。
残念ながら、今のところ明確な予防法はありません。気になる症状がある場合は、速やかに病院を受診してください。
解説:勝田 俊郎
唐津病院
脳神経外科部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。