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2022.11.09
手根管症候群は、手指や手首の屈曲などを担う正中(せいちゅう)神経が、手首の手根管(しゅこんかん)という狭い管の中で圧迫されることで、しびれや痛みが生じる病気です。
手根管は手首の中央部にあり、骨と靭帯に囲まれたトンネル状の空間です。手根管の中は正中神経のほかにも指を曲げる9本の腱が通っています。
手根管症候群は50歳以上で、特に女性に多く発生します。特別な原因がないこともありますが、閉経や糖尿病、関節リウマチ、血液透析、甲状腺機能低下症、手をよく使う重労働との関連が知られています。妊娠や手首の骨折を契機に発症することもあります。
人差し指、中指を中心にしびれや痛みが出ます。しびれは親指や薬指に及ぶこともあり、手のひらの全体が痛むように感じることもあります。これらの症状はしばしば夜間や明け方に強くなります。手を振ることで症状が改善することがあります。
病状が進行すると親指の付け根(母指球)が痩せてきて、縫物やボタンかけのような細かい作業がやりづらくなります。また、親指と人差し指で丸を作る「OKサイン」が難しくなり、硬貨を拾うことができなくなります。指先の感覚が鈍くなることも細かい作業がやりづらくなる原因となります。
症状を誘発するテストや手の感覚の異常をもとに診断します。
症状を誘発するテストでは、手首の中心を打腱器などでたたくと、手根管症候群であればしびれや痛みが指先にひびきます(ティネル様サイン)。あるいは、手首を手のひら側に曲げてしばらくすると症状が悪化します(ファレンテスト)。
手の感覚の異常に関することでは、手根管症候群の場合は薬指の指先の中指側と小指側とで感覚に違いがあります。
このほかに、電気刺激により神経機能を測る検査は、神経障害の程度を評価したり診断を確定したりするために役立ちます。
なお、X線写真では異常がないことが多いです。腫瘍など手根管内に神経を圧迫する病変があると疑われる場合にはMRI検査を行ないます。
炎症や症状を緩和する飲み薬、手首の装具固定、手首へのステロイド剤の注射により治療します。
重症の場合は手術をします。手術方法には、手のひらを2~3cm切開する「直視下法」と内視鏡を使った「鏡視下法」とがあります。どちらの方法も、手根管のトンネルの屋根にあたる硬い膜状の組織である屈筋支帯(横手根靭帯)を切開することが基本となります。二つの手術方法の治療成績に差はありませんが、内視鏡を使用した手術には手術後の痛みが少ない利点がある一方で、神経損傷や血管損傷、腱損傷の合併症が多くなるとされています。
また、親指の筋肉が痩せてつまみ動作が困難な場合には、早期に回復するために手の腱の一部を痩せた筋肉に縫合する腱移行術を併せて行なうことがあります。
50歳以上で特に夜間や早朝に手のしびれや痛みが出る場合は、まず手根管症候群を疑います。薬指の腹の部分の中指側と小指側で、触った感覚や冷たさの感覚に差があればその可能性がより高くなります。
手根管症候群は手を振ると症状が改善することがあるため、しびれがあると手を振ってしまわないかも気にしてみるとよいでしょう。
手をよく使う仕事をしている場合には、できるだけ休むか仕事量を減らすようにします。閉経や糖尿病、関節リウマチ、血液透析、甲状腺機能低下症との関連も知られているため、該当する人は特に注意をしてください。
参考文献
1. 日本手外科学会広報委員会監修:手外科シリーズ1 手根管症候群.エーザイ,2017.
2. 池口良輔:手根管症候群.岩崎倫政編,手・肘の外科 診断と治療のすべて,p401-404,メジカルビュー社,東京,2021.
解説:織田 崇
小樽病院
整形外科 診療部長
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