2024.12.09
Vol.19
冬本番前に要チェック!
インフルエンザ治療薬とワクチン
気温が大きく下がり、空気が乾燥する秋冬にかけて流行する「インフルエンザ」。今回は、インフルエンザにかかってしまった時に処方される治療薬の種類やはたらき、発病の予防や重症化を防ぐ「インフルエンザワクチン」について解説します。
兵庫県病院 薬剤科長
下雅意 彩
インフルエンザ治療薬を選ぶポイント
2024年現在、主流のインフルエンザの治療薬は、オセルタミビル、ラニナミビル、ザナミビル、ペラミビルといった抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)です。ノイラミニダーゼ阻害薬は、ウイルスを退治することはできませんが、ウイルスが細胞の外へ出て体の中に広がるのを防ぐことができます。
なかでも、①オセルタミビル(商品名:タミフル)は肺炎への進行を抑え、発熱の期間とウイルスを排出する期間を短縮することが報告されています。2018年には新たなはたらきをする②バロキサビル(商品名:ゾフルーザ)が発売されました。この薬はキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬といわれ、細胞の中でウイルスが増殖するのを抑制するお薬です。
いずれの治療薬もすでにウイルスが広がったり、増えたりした後で使い始めても十分な効果が期待できません。インフルエンザ合併症のリスクが高い場合は、原則発熱したら48時間以内に医療機関を受診して薬を開始することが重要です。
投与回数にも薬によってそれぞれ違いがあります。薬のはたらきから①オセルタミビルと⑤ザナミビル(商品名:リレンザ)は5日間の治療継続が必要ですが、②バロキサビルは1回のみの内服で治療が完了します。吸入薬の④ラニナミビルは、薬の半減期が長いため、1回の吸入で十分効果が持続します。いずれの薬を選択しても効果に大きな差はありませんが、決められた期間きちんと内服できることはもちろん、吸入薬の場合は咳込みが少なく確実に気道の奥まで届く吸入力があることなどが薬の選択ポイントになります。また、高齢の場合は、インフルエンザが重症化するリスクが高まることから点滴の注射薬が選択されることもあります。
インフルエンザA型にのみ有効な③アマンタジン(商品名:シンメトレル等)は、ほとんどのインフルエンザウイルスが耐性(薬に対して細菌の抵抗力が高くなる薬剤耐性菌による)を獲得しているため、使用の機会は少なくなっています。
②バロキサビルは発売から間がないのですが、ウイルスの耐性化のスピードが早いことが指摘されており、特に子どもでの耐性化が多くみられることから「12歳未満の小児に対する積極的な投与を推奨しない」とされています。また、妊婦・授乳婦への抗インフルエンザ薬の投与については、オセルタミビル以外は、まだ十分な安全性のデータが揃っていないのが現状です。
名称 | 投与方法 | 投与回数 |
---|---|---|
①オセルタミビル (商品名:タミフル等) |
内服 | 1日2回 5日間 |
②バロキサビル (商品名:ゾフルーザ) |
内服 | 1回のみ |
③アマンタジン (商品名:シンメトレル等) |
内服 | 1日1~2回 |
④ラニナミビル (商品名:イナビル) |
吸入 | 1回のみ |
⑤ザナミビル (商品名:リレンザ) |
吸入 | 1日2回 5日間 |
⑥ペラミビル (商品名:ラピアクタ) |
点滴 | 1回のみ |
インフルエンザワクチンの副作用は?
いずれの治療薬も頻度は1~5%といわれていますが、吐き気や下痢などの副作用があり、インフルエンザ症状と区別が難しい場合があります。また、抗インフルエンザ薬の服用後に異常行動(例:急に走り出す、部屋から飛び出そうとする、ウロウロするなど)や転落事故等も報告されています。これまでの調査の結果、薬の服用と異常行動との因果関係は不明ですが、発熱から2日間は異常行動の出現に対して注意が必要です。
市販の薬で代用できる?
インフルエンザの主な症状は、高熱、頭痛、寒気、関節痛、咳、痰、のどの痛みなどです。例えば、高熱に対して抗インフルエンザ薬と一緒に解熱鎮痛薬が処方されることもありますが、インフルエンザに伴う発熱に対して市販薬で代用する場合は、成分にアセトアミノフェンのみが配合された解熱薬をお勧めします。非ステロイド系抗炎症薬(ジクロフェナクナトリウムおよびメフェナム酸など)とよばれる成分のなかには、インフルエンザ脳症のなどの合併症を引き起こすおそれがあり、注意が必要です。服用の際には薬剤師に相談し、熱が下がらない場合は早めに医療機関を受診しましょう。
インフルエンザワクチンの最新情報
インフルエンザワクチンは発症を抑えるとともに重症化や肺炎などの合併症を予防する効果も期待できます。インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンと呼ばれ、インフルエンザウイルスの感染性を失わせ、免疫をつくるのに必要な成分を取り出して作られたものです。そのシーズンに流行することが予測されたウイルスを用いて製造されるため、毎年接種することをお勧めします。接種回数は、原則13歳以上の方は1回のみ皮下注射します。生後6カ月以上13歳未満の方は、1回接種後よりも2回接種後の方がより高い抗体価の上昇が得られることから2回接種します。
2024年10月に日本で初めて鼻腔内に噴霧して用いるタイプの経鼻弱毒生ワクチン(商品名:フルミスト点鼻液)が発売されました。対象年齢は2歳以上19歳未満で、年齢に関わらず1回接種でよいとされています。この薬は添加物として精製ゼラチンを含むため、接種後のショックやアナフィラキシーが起こることもあり、十分な観察が必要です。また、弱毒生ワクチンで、飛沫または接触によってワクチンウイルスが人に感染してしまう可能性があるため、接種して1~2週間は免疫不全などの方との接触はできるだけ控える必要があります。
インフルエンザにかからないようにするには、まずはマスク着用や手洗い、うがいをすることが大切です。そのうえで、インフルエンザ合併症のリスクが高いとされる65歳以上の高齢の方や基礎疾患を持っている人などは、早めのワクチン接種をお勧めします。
参考資料
日本感染症学会「~抗インフルエンザ薬の使用について~」(一般社団法人日本感染症学会、公益社団法人日本小児科学会の提言)
厚生労働省「令和5年度インフルエンザQ&A」
CDC:Center for Disease Control and Prevention「インフルエンザの合併症とリスクの高い人々」