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2021.07.14
クッシング症候群は副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンの作用が過剰になることで、身体に特徴的な徴候が現れる病気です。コルチゾールはあらゆる生体機能を調整する働きがあり、多すぎても少なすぎても病気につながります。
コルチゾールが過剰になりクッシング症候群を引き起こす主な原因は、副腎皮質腺腫(副腎皮質の腫瘍)や脳の下垂体と呼ばれる部位にできる腫瘍です。まれに副腎皮質がんが原因となることもあります。
クッシング症候群は病態ごとに以下のように分類されます。
■副腎性クッシング症候群:副腎皮質の腫瘍などでコルチゾールが過剰分泌されます。
■ACTH依存性クッシング症候群:ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰に分泌されることでコルチゾールが増える状態です。このうち下垂体の腫瘍によって下垂体からACTHが過剰に分泌される場合を「クッシング病」、肺がんなど下垂体以外の腫瘍によってACTHが過剰に分泌する場合を「異所性ACTH症候群」といいます。
■薬剤性クッシング症候群:コルチゾールと同様の作用を持つ薬剤によってコルチゾール作用過剰の症状が現れます。
なお、病名はクッシング症候群の発見者であるアメリカ人脳外科医ハーヴェイ・クッシングに由来します。
身体に現れる徴候として以下のような症状が特徴的です。
●顔に脂肪が沈着して丸くなる「満月様顔貌(まんげつようがんぼう=ムーンフェイス)」
●肩に脂肪が蓄積する「野牛肩(やぎゅうかた)」
●体幹部分に脂肪がつき手足は痩せる「中心性肥満」
●皮膚が薄くなる「菲薄化(ひはくか)」
●皮膚に赤い色の筋が現れる「腹部赤色皮膚線条」
●体幹に近い部分の筋肉が衰える「近位筋の筋力低下」
上記以外にも、高血圧、耐糖能異常(IGT=境界型糖尿病)、骨粗鬆症、月経異常、うつ症状、感染症や心血管疾患のリスク上昇などを伴う場合があります。
症状で挙げた身体徴候が現れると、クッシング症候群を疑います。検査では血液中のコルチゾールやACTHなどの値を測定し、画像検査を行なうこともあります。
副腎皮質の腫瘍からコルチゾールが過剰に産生されているかを確認するために、副腎の形態や機能を画像化する131I-アドステロールシンチグラフィという検査を行ないます。また、副腎から分泌されるホルモンのうちDHEA-Sなどコルチゾール以外の副腎皮質ホルモンが過剰な場合、副腎皮質がんの可能性も疑います。
副腎性クッシング症候群の場合、血液検査の際にコルチゾールの作用が過剰でACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の値が低くなります。ACTHの値が低くコルチゾールが正常~高値の場合、クッシング症候群が疑われます。コルチゾールの値が正常でも、深夜のコルチゾール高値やデキサメタゾン(合成糖質コルチコイド)内服後にコルチゾールの値が高く、クッシング症候群の症状が確認されると確定診断となります。
副腎皮質の腫瘍が原因の場合、根治が期待できます。手術によって原因となっている副腎皮質の腫瘍を摘出します。腫瘍を摘出した後、一時的あるいは長期的にコルチゾールが不十分となることがあります。通常であれば、術後6カ月~1年程度でコルチゾールの分泌量は正常になりますが、2年以上に及ぶ場合もあります。コルチゾールの量が不十分で術前より体調が悪いと感じることもありますが、いずれ回復します。
満月様顔貌などの症状は徐々に消失しますが、骨密度は正常な状態まで回復しないことがあります。そうしたケースでは術後も骨粗鬆症の治療が必要になることがあります。
早期発見や診断には、「クッシング症候群の症状」で記している身体徴候について、注意深く観察することが重要です。
予防よりはどちらかというと早期発見することで、コルチゾール過剰による感染症の併発や脳卒中、虚血性心疾患を発症させないことが重要となります。
「何となく顔が丸くなってきた」「食事や運動に気をつけているけれど血圧、血糖コントロールが悪い状態が続いている」「体幹に比べて手足が細くなってきた気がする」「年齢の割に骨密度が低く、圧迫骨折を起こしたことがある」「手足に力が入りにくい」などの症状が当てはまる際は主治医への相談を検討してください。
解説:金子 正儀
新潟病院
代謝・内分泌内科 医長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。