済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
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「低体温」に明確な定義はありません。一般的には、身体表面の体温が36.0℃以下を低体温と見なすという意見が多いようです。ただ、平熱(健康時の身体表面の体温)の正常範囲が35.5~37.5℃との見方があることから、35.5℃未満を低体温と考えるといいでしょう。
低体温の原因として主に以下の3つが挙げられます。
○代謝の低下
身体の基礎代謝が低下している場合になりやすいです。具体的には高齢や栄養状態の悪化、筋肉量の減少などです。
○内分泌疾患
甲状腺、下垂体、副腎など内分泌腺と呼ばれる臓器の機能低下症が低体温の原因になることもあります。具体的には「甲状腺機能低下症」「下垂体機能低下症」「副腎機能低下症」といった疾患です。
○長時間低温にさらされる
山岳遭難や水難事故、災害現場など、低温に長時間さらされて低体温に陥るケースがあります。屋内でも、脳血管障害、頭部外傷、低血糖などによって意識を失い、発見の遅れから低温にさらされて低体温になる例もみられます。
1957年に発表された日本人の平熱に関する報告では、10~50歳代の健康な男女の平均値は、36.89±0.34℃(ワキ下検温)でした。それからおよそ50年後の2008年には、大人の平均体温が36.1℃、子どもは36.4℃という調査結果があります。調査方法など条件が異なるため一概にいえませんが、日本人の平熱は低下傾向にあると推測できます。
その背景として、上記の基礎代謝の低下が挙げられます。体内で熱を発生するのは内臓と筋肉ですが、筋肉を使わない(身体を動かさない)生活習慣によって筋肉量が減ったことで体温の低下を招いていると考えられます。ほかにも、極端なダイエットや老化、冷暖房の普及による体温調節機能の低下も影響しているとみられます。
低体温によって生じる健康リスクの一つとして考えられるのが、免疫力の低下です。 寒さにさらされて身体の表面が冷えると、身体はストレスを感じます。ストレスを受けて、脳からステロイドホルモンや神経伝達物質が分泌されます。これによりリンパ球(白血球の一種)や細胞の働きを低下させて一時的に免疫力が下がってしまうのです。免疫力が下がれば、それだけ感染症にかかりやすくなります。
健康リスクは免疫力の低下だけではありません。体温が下がるほど体内の細胞は不活発になるため、消化吸収から思考力に至るまで、多くの臓器・身体機能が低下します。
低体温に関係する病気や悪化する症状としては、以下のものが挙げられます。
甲状腺機能低下症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、関節リウマチ、腰痛、肩こり、頻尿、膀胱炎、過敏性腸症候群、下痢、慢性疲労、月経不順、無月経、月経困難症、月経前症候群、不妊症、更年期障害
低体温の改善には代謝を上げたり、体温を上げるといった対策が有効です。予防には室温調節や保温を行ないましょう。
運動
ウォーキングやスクワットなど身体を小まめに動かすと、筋肉の代謝が上がり体温が上昇します。特に最も体温の低い朝に、積極的に身体を動かしましょう。
入浴
40℃のお湯で湯船に肩まで10分程度つかれば、体温が1℃くらい上がります。免疫の要となるNK(ナチュラルキラー)細胞は、身体を温めることで活性化します。
食事
身体を温める食材は生姜が定番ですが、発酵食品や根菜類などは身体を温めるといわれており、玄米、みそ汁、納豆、焼き魚、野菜の煮物などの和食がお勧めです。
薬物療法
漢方薬は、低体温や、低体温が原因で出てくるさまざまな不調に対応できます。短期間で症状が改善されるのではなく、時間をかけて治療する必要があります。
室温調節で予防
寝室や仕事場では温度計を常備し、18℃以下にならないように調節します。また気道粘膜の乾燥を防ぐために、湿度も40%以上を保ちましょう。
外出時の保温で予防
マフラー、帽子、手袋などを冷える前に着用してから出かけましょう。コロナ禍で普段から着用しているマスクも、喉や鼻の粘膜を冷やさず乾燥から守るのに有効です。
危険な「低体温症」
「低体温」は病気ではありませんが、気をつけないといけないのが身体深部の体温(深部体温)が下がる「低体温症」です。低体温症の原因は低体温とほぼ同じですが、深部体温が35℃以下になり身体の正常な機能が維持できない状態を指します。
正常時の深部体温は、肝臓では38.5℃、直腸では38.0℃です。深部体温は、身体表面の皮膚温とは異なり、脳や心臓など生命を維持している臓器の温度を反映しているので、低体温症が重度になれば「凍死」につながります。深部体温が32~35℃は軽症、28~32℃は中等症、20~28℃は重症と分類され、中等症以上では死亡率が40%になります。
国内では熱中症による死亡と同程度の頻度で凍死が発生しています。しかも75%が屋内で発生し、全体の80%が65歳以上の高齢者です。熱中症ほど周知されていないため発見が遅れがちです。凍死というと、極端に寒い場所でしか起きないと思うかもしれませんが、真冬でなくても気温15~19℃といった環境下で起こることもあります。
解説:中村 隆志
滋賀県病院
院長代行兼総合内科部長
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