済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2020.10.28
月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)は、月経(生理)が始まる3~10日ほど前から身体や心にいろいろな症状が起こる病気です。これらの症状は月経の開始とともに弱まったりなくなったりします。月経のある女性のおよそ70~80%は月経の前に何らかの不快な症状を感じるといわれていますが、PMSはその症状の程度が強い状態です。症状は軽いものから、日常・社会生活に支障をきたす重いものまでさまざまです。
日本では思春期にやや多いようですが、幅広い年齢層で発症します。
症状が軽い場合には、生活習慣の改善などでよくなることも多いですが、重い気分変調をきたすものは月経前不快気分障害(PMDD)と呼ばれる精神疾患の一つとして考えられることもあり、抗うつ薬などの使用が必要となることも少なくありません。PMSは女性の多くに発症しますが、放置すると精神症状が悪化して、PMDDなどの深刻な精神疾患を引き起こすこともあるため注意が必要です。
PMSの詳しい原因はまだ分かっていません。少し難しい話になりますが、女性特有のホルモンである黄体ホルモンの代謝物に対するGABAA受容体(脳内で神経伝達を仲介)と、セロトニン作動性ニューロン(神経伝達物資に影響を及ぼす神経細胞)との関連性が報告されています。
PMSには身体の症状と心の症状があり、どちらも非常に多くの症状が出現するのが特徴です。これらの症状は、月経の3~10日ほど前から始まり、月経の開始とともに改善傾向を示します。それぞれの代表的な症状は次の通りです。
身体症状:下腹部痛、頭痛、腰痛、乳房痛、脚のむくみや体重増加など
自律神経失調症状:動悸、悪心、めまいなど
精神症状:イライラ感、抑うつ、不安・緊張感、易疲労感、不眠、無気力、判断力の低下など
重症の場合では、イライラ感や怒りが強くなって他者を無意識に罵倒したり、攻撃したりすることもあります。また、周囲に理解してもらえないつらさから社会的引きこもりになることもあります。
PMSを診断するにあたって、まずは詳しい問診を行なうことが最も重要です。問診によって、症状や発症時期、月経周期、妊娠・出産歴、生活環境などさまざまな項目を確認していきます。
問診の内容をもとに、米国産婦人科学会の診断基準を用いて診断しますが、代表的な症状が現れる時期とその再現性により、次の表のように規定されています。
月経前症候群診断基準(米国産婦人科学会)
過去3回の連続した月経周期のそれぞれにおける月経前5日間に、下記の情緒的および身体的症状のうち少なくとも1つが存在すれば月経前症候群と診断できる |
|
情緒的症状 | 身体的症状 |
・抑うつ ・怒りの爆発 ・易刺激性、いらだち ・不安 ・混乱 ・社会的引きこもり |
・乳房緊満感、腫脹 ・腹部膨満感 ・頭痛 ・関節痛、筋肉痛 ・体重増加 ・四肢の腫脹、浮腫 |
(出典:産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2017)
そのほか、月経開始後4日以内に上記の症状が解消し、少なくとも13日目まで再発しないことなど、診断にはいくつかの条件があります。
まずはじめに、カウンセリング、生活習慣改善のための指導あるいは運動療法を行ないます。PMSの改善には、有酸素運動を中心とした定期的な適度な運動、禁煙、アルコール摂取制限、規則正しい睡眠や生活、ストレスの解消などが有効とされています。また、カルシウム、ビタミンB6、マグネシウム摂取なども症状を和らげる可能性があります。
これらの対策によっても症状が改善しない場合には、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が配合された低用量経口避妊薬(ピル)が使用されることがありますが、効果は人によって異なります。浮腫や乳房緊満感(乳房の腫れ、硬化、痛み)に対しては利尿薬や鎮痛薬、また多様な症状に対しては漢方薬が使われることがあります。
重症の場合には精神症状が強く現れ、日常生活に支障をきたすことが多いため、抗うつ薬が使用されることもあります。
『月経前は誰でもイライラするもの』と考えがちですが、日常生活や仕事に悪い影響が出ていると感じるようなら、早めに産婦人科を一度受診することをお勧めします。
基礎体温を記録し、症状日記をつけることで、身体や心の各症状の傾向をつかむことができます。その上で食生活や日常の過ごし方を見直すことが大切になります。
解説:左右田 裕生
兵庫県病院
副院長・診療部長・医療安全管理室長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。