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2014.05.28
一般的な症状として、排尿痛、頻尿、尿意切迫感(突然我慢できないほどトイレに行きたくなること)、残尿感、下腹部痛などや、尿の混濁がみられる病気です。血尿が出ることもありますが、発熱はあっても軽度です。膀胱炎は尿路感染症の一種です。すなわち、細菌により発症するものが最も多く、「単純性膀胱炎」と「複雑性膀胱炎」に分類されます。細菌の侵入は、主に直腸に常在している菌が、会陰部を経て尿道から膀胱へ侵入する、逆行性感染と呼ばれる感染によって起こります。膀胱に侵入した細菌は、膀胱の粘膜組織内に入り、細胞を破壊する毒素を分泌します。これによって炎症が生じ、膀胱炎が発症するという仕組みです。
1 単純性膀胱炎
20~40代の性的活動期の女性が最も多く発症します。また、閉経後の女性も女性ホルモンが低下するため、膣の常在菌である乳酸菌が減少し、直腸内の細菌が侵入しやすくなることで罹患する傾向が強いです。原因となる菌は、グラム陰性桿(かん)菌(グラム染色という方法によりピンク色に染まる細胞)である大腸菌が約70%を占めます。そのほか、プロテウス菌、肺炎桿(かん)菌、腸球菌などがあります。
2 複雑性膀胱炎
下部尿路(膀胱から尿道までのこと)の基礎疾患に伴って尿流(にょうりゅう/尿道を通る尿の流れ)が妨げられたり、カテーテルが長期間留置されたり、全身状態の低下などを原因として発症します。排尿を妨げる器質的基礎疾患(内臓などの組織に変化や異常が起こって生じる疾患)としては、「前立腺肥大症」「神経因性膀胱」「膀胱結石」などが挙げられます。これらにより、尿流の低下や残尿の増加がみられると、排尿効率が悪くなり、尿による膀胱の洗浄効果が落ちて感染しやすくなります。また、糖尿病、ステロイド剤などの長期間にわたる服用も、体の感染防御機能を低下させて感染の原因となります。
一般的には、目に見えるような特異的な症状は乏しく、慢性的な経過を示します。つまり、自覚症状はなく、慢性的に膿(うみ)が混じった膿尿(のうにょう)と、細菌が混じった細菌尿の症状がみられるだけの場合が多いです。ただし、基礎疾患が悪化した場合、急性の「腎盂腎炎(じんうじんえん)」などを併発して重篤になることもあるので、注意が必要です。原因となる菌は、グラム陰性桿菌が多いですが、約半数の患者さんが複数の菌に感染しています。特に、カテーテル留置中は緑膿菌(りょくのうきん)、メチシリン耐性ブドウ球菌、拡張型βラクタマーゼ産生菌などの、複数の薬剤に対して耐性を持つ細菌もよくみられます。
3 細菌性以外の膀胱炎 -間質性膀胱炎
原因不明で発症する非細菌性の慢性炎症性膀胱疾患です。尿が膀胱の粘膜にしみやすくなり、間質(細胞の間に入り込む、血管や神経など結合組織のこと)に炎症を起こします。その結果、膀胱に既存の血管から分岐して新しく形成された新生血管が集まっていたり、潰瘍が発生したりします。膀胱痛がひどく、膀胱が小さくなってしまうこともあります。
単純性膀胱炎の治療は、「ニューキノロン系抗菌薬」を短期間で高用量服用することや、「セフェム系抗生剤」を5~7日間服用することが勧められます。これらの薬の効き目は良好です。複雑性膀胱炎の場合は、「経口ニューキノロン系抗菌薬」や「セフェム系抗生剤」を7~14日間の長期間服用し、症状の経過や菌に対する薬の効果を見ながら、抗菌薬の継続や変更を検討します。また、尿路や全身の基礎疾患の把握と、それに対する適切な治療が必要です。間質性膀胱炎は、確実な診断と食生活の改善、薬物療法、外科的な膀胱拡張療法などがあります。治療の効果はあまり良くありませんが、根気よく治療することが重要です。
排尿痛、頻尿、尿意切迫感、下腹部痛、残尿感がある場合は膀胱炎が疑われます。膀胱炎の典型的な排尿痛は、「排尿後にしぼられるような痛みを感じる」と表現されることが多いです。ただし、膀胱炎以外にも同様の症状を示す疾患があるので、それも念頭におかなければなりません。特に、排尿症状に注意を払うことが大切です。例えば、頻尿と尿意切迫症状がみられる場合は「過活動膀胱」や「膀胱結石」、「下部尿管結石」の可能性があります。男性の場合は、「前立腺肥大症」や「急性前立腺炎」も含まれます。
男女を問わず排尿困難があり、残尿量が多くて感染尿の症状がみられる場合は、「複雑性膀胱炎」を疑います。また、患者さんのバックグラウンドを把握することも、診断を確定する上で重要です。例えば、若い女性の場合は単純性膀胱炎が発症しやすい年齢ですし、年配の男性の場合は、前立腺肥大症や尿管結石、前立腺炎の可能性が高くなる、という具合です。
膀胱炎と確定されるのは、検尿で膿尿(のうにょう)と、細菌尿の結果が出たときです。日本化学療法学会UTI薬効基準によると、膿尿の定義は、白血球が5/hpf以上、細菌尿は中間尿(出始めと出終わりではない尿)で104CFU/mlとされています。しかし、これらを満たさない場合でも、医師の判断で膀胱炎と診断されることもあります。
また、膀胱炎かそれ以外の病気なのかを判断するために、画像による診断が必要になることもあります。具体的には、レントゲン写真や腹部超音波検査、場合により膀胱の内視鏡検査です。これらの検査により、膀胱や下部尿管における結石の有無や前立腺の形態、大きさ、膀胱粘膜の性質と状態などを診断することができます。膀胱痛が強く、膀胱炎や過活動膀胱の治療をしても効果がない場合は、間質性膀胱炎の疑いもあります。この場合は、膀胱の内視鏡検査をすると、膀胱粘膜が特徴的な様相を示すため、診断することができます。
女性に好発する単純性膀胱炎の治療効果は良好なため、多くの場合は抗菌薬を使用するだけで軽快します。しかし、何度も膀胱炎を繰り返す患者さんは少なからずいます。膀胱炎は、細菌の増殖・膀胱粘膜への侵入、それに対する炎症により発症します。女性の尿道は約4cmと男性に比べて短いです。また、女性の会陰部は、大腸菌を中心とする直腸の常在菌が増殖しやすい状態にあります。したがって身体的な構造上、これらの細菌による尿道から膀胱への逆行性感染が生じやすいと考えられています。そのため、膀胱の出口である膀胱頸部(膀胱尿道移行部付近)は、常に細菌が侵入している状態と考えてもよいと思います。
排尿は、細菌が増殖する前に、無菌水である尿によって定期的に洗浄するという効果を持ちます。そのため、排尿を我慢して排尿回数を減らすと、膀胱の洗浄効果が落ちて、細菌に感染しやすくなります。水分摂取と定期的な排尿は、感染予防のために必要です。また、性的活動期にある女性は、性行為も感染の機会を増長するので、行為後の排尿を心がけることも大切です。閉経後の女性は、膀胱炎の完全治癒率が低く、再発が多い傾向にあるといわれています。治療が難航する場合は、複雑性膀胱炎や、他の特殊な膀胱疾患ではないかを判断するため、泌尿器科で排尿機能検査や、画像診断としての超音波検査や膀胱尿道の内視鏡検査を受けることをお勧めします。
解説:戸邉 豊総
宇都宮病院
泌尿器科診療科長
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