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2018.05.09
脳動静脈奇形は、生まれる前(胎児期)から小児のときにかけてできる脳の血管の奇形で、ナイダスと呼ばれる異常な血管のかたまりを介して太い動脈と静脈が直接つながっています。通常遺伝することはなく、年間10万人に1人程度発生するまれな病気です。
通常、心臓から送り出された血液は動脈を通り、毛細血管につながって組織に栄養を与えた後、静脈を通って心臓に戻ります。脳動静脈奇形ではこの毛細血管がなく、ナイダスに置き換わっているため、動脈からの血液が一気にナイダスに流れ込み、静脈に抜けていきます。このため、ナイダスや静脈に負担がかかり、そこの血管が破れて出血することがあります。
脳動静脈奇形
脳の中に出血すると脳が壊れて脳出血となり、脳と脳の隙間に出血するとくも膜下出血になります。出血時の症状は突然の頭痛、嘔吐、意識障害、手足の麻痺や感覚障害、言語障害、視野障害などです。また、出血を起こさなくてもけいれんを起こしたり、まわりの正常脳への血流が奇形に取られて血液不足となり、認知症をきたしたり頭痛の原因となることもあります。
治す薬はなく、下記3つの治療法があります。
1)開頭手術(開頭脳動静脈奇形摘出術)
全身麻酔をかけて頭皮を切開し、頭蓋骨を外して奇形を露出します。奇形に行く血管のみを切断しながらナイダスを脳からはがし、一塊として摘出します。最も確実で根本的な治療法ですが、他の治療に比べて体と脳に負担がかかること、奇形の場所や大きさにより手術の危険性が上がるなどのリスクがあります。
2)定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)
奇形に集中的に放射線を当てて閉塞させる治療で、体への負担はほとんどありません。しかし、欠点として閉塞するまでに年数がかかり(2年で約8割程度が閉塞)、大きいものでは治療効果が期待できなくなります。
3)脳血管内手術(カテーテルによる脳動静脈奇形塞栓術)
足の付け根の動脈を刺し、カテーテルという管を動脈の中に入れて奇形の異常血管まで送ります。そしてカテーテルから奇形の中で固まる液体塞栓物質を流して、奇形を閉塞します。この治療単独で根本的に治療できることは少なく、通常開頭手術や放射線治療の前に補助的治療として用います。
脳動静脈奇形の約50%以上は脳出血、25%はけいれんで発症します。脳出血での発症は20代から40代に多く、30代がピークです。また若年者や妊娠中の脳出血の主要な原因の一つとしても挙げられます。
脳出血の症状は突然の頭痛、嘔吐、意識障害の他に、出血した場所によっては、手足の麻痺や感覚障害、言語障害、視野障害などの神経症状を伴うことがあります。意識障害や神経症状があれば救急搬送されることが多いですが、症状が頭痛のみのときは救急受診が必要かどうか、見極めることが大切です。
脳出血やくも膜下出血の際の頭痛の特徴は「突発完成型」の頭痛であるといえます。「突発完成型」とは、頭痛が突然起きて瞬時(長くても数十秒から数分)にピークに達し、持続するものです。意識がはっきりしているときは、頭痛が起きた瞬間のことをはっきり記憶しており、さらに頭痛の性質は今まで経験したことのない強い痛みで、嘔吐を伴うこともあります。
頭痛の原因として最も多い緊張性頭痛や片頭痛などでは、激しい痛みであっても痛みが始まった時刻を特定できないことが多く、ピークに達するまで数十分から数時間かかります。
若い方でも「突発完成型」の頭痛が生じたときは、様子を見ずに救急受診しましょう。
発生する原因はまだわかっていないため、予防する方法はありません。
脳動静脈奇形は、出血する前にけいれんや頭痛によって、もしくは偶然検査で発見されることがあります。出血前に発見された方は、今後出血の予防が治療の最大の目的になります。
出血していない脳動静脈奇形が今後出血する可能性(出血率)は、年間2~4%といわれています。いったん出血すると出血率は年間6~18%程度に上昇し、その後未出血の年間出血率に戻っていきます。
出血で発症した場合、再出血率はある程度高くなるので、「医学解説」で述べた何らかの治療を考慮した方がいいでしょう。ただし、奇形の場所や大きさによっては治療の危険性が高くなることもあります。治療の際は、担当の専門医と相談していくことが大切です。
一方で、未出血の状態で発見された方の治療に関してはまだ結論が出ていませんので、患者さん一人ひとりの状況に合わせて、今後について検討していく必要があります。
解説:稲葉 真
済生会横浜市東部病院
脳神経外科・脳血管内治療科部長
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