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2013.09.09
従来、肝細胞の3分の1以上に脂肪がたまっている状態を脂肪肝と呼んでいましたが、最近は5%以上の肝細胞に脂肪がたまっていれば脂肪肝と診断しています。
脂肪肝というと「お酒の飲み過ぎが原因では?」と思う人も多いのではないでしょうか。
しかし実は、飲酒量の多くない人(日本酒換算で1合/1日以下)、あるいは全く飲まない人でも、脂肪肝になる人がたくさんいます。国内では、お酒をあまり飲まないのに脂肪肝になる患者さんは1500~2000万人にものぼると推定されています。
こうした患者さんのうち約20%の人は、肝組織に炎症を同時に起こしてしまい、NASH(非アルコール性脂肪肝炎:Non-alcoholic Steatohepatitis)と呼ばれる状態になっています。お酒を飲まない人の脂肪肝は、単に脂肪がたまっているだけなら大きな問題は生じないことも多いといわれています。
しかし、炎症を伴うNASHに進行すると、肝硬変に進行してしまう可能性が出てきます。肝硬変になると、肝不全や肝がんで亡くなる可能性がとても高くなります。
そのため、食事療法や運動療法、薬の投与を行ない、NASHの進行を防止することがとても重要となります。
NASHは、「生活習慣病の肝臓への反映像」とも呼ばれています。実際、NASHの患者さんには、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が合併している人が多くいます。ただし、睡眠時無呼吸症候群やある種の薬の服用、あるいは十二指腸や膵臓(すいぞう)の手術後に起こる栄養吸収障害が発症の原因になることもあります。
ただの脂肪肝から、炎症を生じてNASHへと進展してしまう原因は何でしょうか。
以前は、(1)まず生活習慣病から脂肪肝が発症し、(2)そこに内臓脂肪から炎症を起こす因子が分泌されることなどによって炎症が生じる、という「2段階説」が考えられていました。しかし最近の研究では、NASH発症には「インスリン抵抗性」「酸化ストレス」などとともに、遺伝的な体質がとても重要だということがわかっています。
なお、肝炎の原因はお酒や生活習慣病だけではありません。肝炎ウイルスの感染や、免疫系が自分自身の肝臓を攻撃してしまっている場合などもあります。こうしたケースではNASHとは異なる治療が必要なため、検査で確認する必要があります。
・肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病
・健康診断で、脂肪肝や肝機能異常を指摘されたことがある(ALTが約30IU/L以上)
・お酒をあまり飲まない(1日に日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本以下)のに脂肪肝
脂肪肝には自覚症状はほとんどありません。脂肪肝の有無は、腹部エコーや血液検査で簡単に確認できるので、まずは健康診断をきちんと受けましょう。
脂肪肝が見つかった場合、それがただの脂肪肝なのか、炎症を伴うNASHなのかが問題になってきます。これは、肝組織を調べてみなければわかりません(肝生検)。NASHでは、肝臓の中心静脈のまわりに大きな脂肪滴が蓄積し、肝細胞が風船様に腫大し、肝臓に線維が増えています。
肝生検は、肝臓に直接針を刺して組織を採取するという、少し負担のある検査です。そのため、血液検査で肝臓が炎症や繊維化を起こしていないか、内臓脂肪の分泌する因子が関係していないかなどを確認し、NASHの可能性が高い人だけに行ないます。
特に、高血圧と糖尿病が両方ある人や、閉経した女性ではNASHに進行している可能性が高いといわれています。
まず、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を治療することが最も大切です。
特に、肥満のある人は高い確率で脂肪肝を合併しています。よい食生活や運動を心がけて、月1.5kg前後を目標に体重を減らしましょう。ただし、急激な体重増加だけでなく急激な痩せもNASHを発症する要因になります。適度なダイエットと運動を心がけましょう。
また、血液検査で「血清フェリチン値」が高いといわれたことがある人は、肝臓への鉄の過剰蓄積が起きています。これもNASHの患者さんによくみられる所見なので、血清フェリチンが高いといわれたことがあるのであれば、鉄分の多い食事を避けることが大切です。
NASHの発症には遺伝も関係しており、家族や親族にNASHの患者さんがいる人は特に要注意。肝機能異常を指摘されたら、NASHの可能性を考え、受診することが大切です。
解説:岡上 武
大阪府済生会吹田病院
院長
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