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2013.10.15
肝臓の病気にはさまざまなものがありますが、どの病気も治癒しないまま経過が長引き、慢性状態で進行すると、最終的に肝硬変へと進展します。炎症が長期にわたって続き、肝細胞の破壊と肝臓の繊維化が起こる結果、肝表面がゴツゴツと硬くなり、凹凸状の様相を呈します(凹凸不整)。この状態が肝硬変です。患者数は全国で40~50万人いると推定され、そのうち約7割が男性といわれています。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、たとえ肝硬変になったとしても、その初期には生き残ったほかの肝細胞が代替機能を果たすため、自覚症状がほとんどありません(代償期)。病気がかなり進行した段階で初めて、黄疸(おうだん/皮膚が黄色くなる)や腹水がたまる腹部膨満、異常行動や昏睡を引き起こす肝性脳症、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)破裂による吐血などの肝不全症状が出現するようになります(非代償期)。
身体の表面上に現れる症状としては、親指の付け根付近などの手のひらが赤くなる手掌紅班(しゅしょうこうはん)や、前胸部にクモが足を広げたような毛細血管の拡張がみられるクモ状血管腫、男性の乳房が女性のように大きくなる女性化乳房(じょせいかにゅうぼう)、へそを中心に放射状に血管が拡張する腹壁静脈怒張(ふくへきじょうみゃくどちょう)が知られています。しかし、これらは必ずしも肝硬変初期の頃に見られる症状ではありません。
肝硬変は、医師による身体診察のほか、血液検査、腹部超音波検査などから総合的に診断されます。正確な診断を行なうため、細い針を肝臓に刺して肝組織を一部採取し、顕微鏡で調べる検査(肝生検)が必要なこともあります。
肝硬変の原因は、欧米では飲酒によるケースが多いのですが、日本では肝炎ウイルス感染によるものが多く、C型肝炎ウイルス(HCV)が約60%、B型肝炎ウイルス(HBV)が約15%を占め、アルコール性肝硬変がこれに続きます。そのほかに自己免疫異常、胆汁うっ滞(胆汁の流れが停滞した状態)、慢性心不全なども原因となります。さらに、最近肥満や糖尿病など生活習慣病を基盤にして発症するNASH(非アルコール性脂肪肝炎)から、肝硬変へと進展する例があることが知られてきました。
肝硬変になると、肝がんが発生する危険性が高まります。特に、HCV感染による場合には肝がんの発生率が高くなり、1年に7~8%程度の患者さんが発症するといわれています。肝がんの発生を予防する意味でも、肝硬変になる前にきちんと治療することが重要になります。
慢性の肝臓病は、かなり進行するまで自覚症状がありません。よって、なんらかの症状が現れてから受診したのでは、すでに肝硬変まで進展している可能性があります。肝硬変、さらには肝がんへの進展を予防するには、肝硬変の前段階である慢性肝炎の段階で発見しなければなりません。健康診断で肝機能異常を指摘された方や、日本酒換算で一日3合以上を飲酒する方は、自覚症状がなくても一度専門医を受診した方がいいでしょう。また、今までにHCVやHBVの感染の有無を調べたことのない方は、検査を受けることをお勧めします。
特に、以下の項目に当てはまる方はHCV感染のリスクがあると考えられます。
・1992年(平成4年)以前に輸血を受けたことがある
・大きな手術を受けたことがある
・血液製剤を投与されたことがある
・覚せい剤などの薬物乱用者
・鍼(はり)治療を受けたことがある
・刺青を入れたり、ボディピアスをしたりしている
・長期間にわたって血液透析を受けている
肝硬変を予防するため、日頃の飲酒は適量にとどめておきましょう。もし、アルコール性肝障害の診断を医師から受けた場合は、禁酒をすることで肝硬変への進展を予防することができます。たとえ飲酒以外の原因による肝障害であっても、飲酒は病気の進行を早めるため、禁酒が大切な予防策となります。
ウイルス性肝炎には感染しないよう心がけることが重要です。HCVやHBVは血液や体液を介して感染するので、日常生活で感染者の血液や体液に直接触れないように注意しましょう。HBVはワクチンで予防することが可能なので、家族の中に感染者がいて、免疫がない方はワクチンを接種した方がいいでしょう。
HCVやHBVの場合、慢性肝炎の段階で病気を発見できれば、インターフェロンや核酸アナログ製剤などの薬物療法によってウイルスを排除したり、排除できなくても長期間ウイルスの増殖をおさえることによって、肝硬変への進展やその後の肝がんの発生を予防したりすることが期待できます。
また、NASHにも注意が必要です。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が疑われる場合は、これらをきちんと治療することがNASHの発症予防となり、それが肝硬変になるのを食い止めることにもつながります。
解説:長野 具雄
神栖済生会病院
院長代理
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