社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2019.12.11

ウィルソン病

Wilson's disease

解説:堀池 典生 (今治第二病院 院長)

ウィルソン病はこんな病気

ウィルソン病は、胆汁中に銅が排出されず、肝臓や脳、腎臓、眼などに銅が多量にたまることで肝臓などに障害をきたす遺伝性の病気です。1912年に初めて報告したウィルソン博士の名前をとって名付けられました。
銅は体内に蓄積される量は微量ですが、赤血球の形成を助けたり、体に悪影響を及ぼす活性酵素を除去したりするなどの働きがあり、毎日の食事から少しずつ体内に取り込まれます。銅が不足すると赤血球がうまく作られず、貧血を起こすので生体にとって必要不可欠な金属です。
通常、小腸から体内に取り込まれた銅は、肝臓でたんぱく質(セルロプラスミン)と結合して血液中に流れ、利用された銅や過剰な銅は、肝臓から胆汁を経て便として体外に排出されます。しかし、遺伝子に異常があると、銅のセルロプラスミンへの取り込みが障害され、胆汁への排泄障害を起こすとされています。

3~4万人に1人の割合で発症し、異常遺伝子保有者は80人に1人の割合で存在するといわれ、決してまれな疾患ではありません。発症年齢は3~60歳と幅広く、小児期から若年期に精神症状、神経症状や肝機能異常が出現して診断されることが多いです。一方、軽症の場合は高齢になって初めて診断される例もあります。

ウィルソン病の症状

障害を起こす臓器によって、肝硬変、カイザーフライシャーリング(黒目の周りに銅が沈着し、緑褐色の輪が見える)、不随意運動(コントロールできない大きな身体の動き)、筋緊張亢進(筋緊張が強い状態)、手足の震え、精神症状(意欲低下、うつなど)など多彩な症状がみられます。
肝障害はさまざまな病態を示し、急性肝炎や劇症肝炎(何らかの原因によって肝臓に炎症が起こり、肝機能が急速に失われる疾患)を引き起こすことがあります。発症初期では脂肪肝がみられることが多く、肝硬変まで進行すると肝細胞がんを発症する場合もあります。

ウィルソン病の診断

血液や尿に含まれる銅の値や、銅結合たんぱく質(セルロプラスミン)の濃度を調べることで診断可能です。

ウィルソン病の治療

薬物療法では、食間や空腹時に服用して銅の排出を促進させる銅結合薬(キレート剤)、食事からの銅吸収を阻害する亜鉛製剤、ビタミンE製剤があります。
食事療法として、低銅食(貝、レバー、豆、穀類、チョコレートなどの銅を多く含む食品を控えること)がありますが、これだけでは発症予防や治療を行なうことは困難なので薬物療法の中断(怠薬)は厳禁です。劇症肝炎を発症した場合は、肝移植が行なわれます。

肝障害やカイザーフライシャーリング、不随意運動、手足の震え、精神症状などの症状がみられた場合、ウィルソン病を疑って調べる必要があります。
ウイルス性、アルコール性、膠原病が否定された原因不明の肝障害(脂肪肝など)が精密検査で見つかった場合、専門医の診察を受けるようにしましょう。
ウィルソン病は遺伝性の病気(常染色体劣性遺伝)です。両親からそれぞれ1本ずつ受け継ぐ常染色体(性別を決定する性染色体以外の染色体で22対ある)のうち、2本とも異常があると発症する可能性があります。1本のみ異常がある場合は、保因者となりますが発症はしません。家族にウィルソン病の人がいる場合は、一度医療機関を受診することをお勧めします。

ウィルソン病は早期に発見して治療薬を継続することで、発症を予防したり、症状の悪化をおさえたりすることができる数少ない遺伝性代謝疾患です。したがって、服薬を怠らず、生涯続けることが重要です。それによって、一般の人と同様の生活を維持することができます。

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解説:堀池 典生

解説:堀池 典生
今治第二病院
院長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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