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2021.11.10
身体の中には内臓を覆っている腹膜と呼ばれる膜があり、その腹膜に囲まれた空間を腹腔(ふくくう)といいます。汎発性腹膜炎は、内臓の炎症が腹膜に及ぶことが原因で起こる腹膜炎の一つで、腹腔全体に炎症が急激に広がってしまった状態を指します。
多くの場合は、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸など消化管の壁に穴が開いた消化管穿孔という状態で、内容物が腹腔内に漏れて広がることが原因となります。また、胆のうや膀胱などに穴が開いて起こることもあります。
ほかには、消化管の壁に明らかな穴がない状態でも発症する特発性細菌性腹膜炎は、肝硬変による腹水(腹部にたまった体液)のある部位で特に多くみられ、腹腔内に細菌が侵入することで発症します。
主な症状は、腹痛(持続性の激痛)、吐き気・嘔吐を伴う下痢、発熱、速い脈拍(頻脈)、速く浅い呼吸です。腹痛は重度で長く続き、腹部全体に広がります。また、腹部をおさえると痛みが走り、この痛みにより腹部の筋肉が緊張し、腹部がこわばります。この状態が進行すると、さらに頻脈となり、血圧の低下、尿量の減少などがみられるようになります。このほか、細菌が血管内に侵入した場合、血流に乗って身体をめぐって敗血症となり、進行すると多臓器不全に陥ります。
汎発性腹膜炎が疑われる場合は緊急手術を行なう必要があるため、速やかに検査して診断し、その原因を調べます。まずは血液検査、CT検査を緊急に実施し、呼吸機能を調べるための動脈血検査、細菌検査、腹部X線検査、腹部超音波検査などの追加検査も行ないます。
汎発性腹膜炎の治療では、全身状態の管理、抗生物質の使用、原因となる病気の治療が重要です。特に、原因となる病気の治療が重要で、主原因である消化管穿孔に対処することは不可欠です。原則として、緊急手術を行ない、穴の開いた部分をふさぎます。同時に、腹腔を大量の生理食塩水で洗います。
一方で、高齢者、心臓病や肺疾患のある人、一見して明らかにぐったりしているなど全身状態が悪い人は手術ができないこともあります。その場合はまず、超音波やCTの画像を確認しながら腹部に針を刺し、身体から膿を取り除くドレナージと呼ばれる処置を行ない、汎発性腹膜炎が原因で腹部にたまった水や膿を体外に排出します。
汎発性腹膜炎の診断で重要なのが現病歴です。現病歴とは、今の症状の起こり方や経過などのことで、具体的には、いつごろから・どの部分が・どのように痛かったのか、便通の状態・食事の状況、随伴症状(発熱・悪心・嘔吐・下血など)の有無などといった患者さんの情報です。腹部の激痛を訴えている患者さんから詳細な情報を得ることは難しく、付き添いの人からの情報が頼りとなります。そのため、救急を受診する場合、ご家族など一緒に生活している人が付き添うのがよいと思われます。
患者さんや付き添いの人からの情報と診察所見、簡単な検査で、大部分の診断が可能となります。汎発性腹膜炎は、場合によっては数時間の遅れが致命的な状況を招くことがあります。発熱(微熱を含む)を伴う腹痛、突然発症した腹痛、歩くのが困難なほどの腹痛などの症状がみられたときは、直ちに救急病院を受診しましょう。
痛みや発熱の治療に使用される解熱鎮痛薬(痛み止め)を服用している患者さんは、薬の影響で消化管を防御するしくみが壊れることがあるため、消化管穿孔のリスクが高くなります。また、開腹手術を受けたことがある患者さんは、腸間膜の血管が絞めつけられることで腸の血流が障害される絞扼性(こうやくせい)の腸閉塞などを起こす場合があり、これが腹膜炎の原因になることがあります。
《汎発性腹膜炎の原因となる代表的な病気・状態》
・胃潰瘍穿孔
・十二指腸潰瘍穿孔
・小腸穿孔
・虚血性小腸壊死
・急性虫垂炎
・大腸憩室炎
・大腸穿孔
・絞扼性腸閉塞
・壊死性胆のう炎
・消化器がんの穿孔
・非代償性肝硬変(腹水のある肝硬変)
急激に発症する汎発性腹膜炎は、早期に治療することが重要です。予防として、腹部の激痛がある場合は、早期に病院を受診し、緊急に治療を受けるべきと考えられます。
解説:有留 邦明
川内病院
副院長
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