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2021.05.26
大腸憩室とは、大腸の壁の弱い部分が、外側に向かって小さな袋状に突き出したところです。腸には細かな血管が外側から入ってくる場所があり、そこでは血管が腸壁の筋肉を貫いており、筋肉が小さく欠損しているため圧力に弱いといわれます。便秘で腸の内圧が上昇した状態や、加齢に伴う影響などで、圧に耐えられなくなると腸壁が外に押し出されて憩室ができると考えられています。大腸に憩室がある状態を大腸憩室症といい、複数個の憩室がまとまって存在することもあります。
大腸憩室の保有率は日本人全体で約24%とされ、年齢とともに上昇します。欧米人に比較して少ないとされる一方で、年々増加傾向ともいわれています。日本を含むアジア人では、右側結腸(上行結腸〜肝彎曲)にできやすく、加齢とともに左側(下行結腸〜S状結腸)にも発生する割合が増加します。欧米人では左側に多いとされますが、近年の食生活の変化や生活様式の欧米化に伴い、日本でも左側結腸型が増えているといわれています。なお、大腸がんとの関連性は不明です。
憩室自体は通常は無症状です。問題となるのは、炎症を起こしたとき(憩室炎)や出血したときです。
憩室は腸の壁が薄い場所にあるため、炎症が強いと穿孔(穴が開くこと)して膿瘍(のうよう=膿がたまった状態)を形成することがあり、強い腹痛や発熱を伴います。さらに腹部全体に炎症が広がった汎発性腹膜炎となると、敗血症やショック(血圧が急激に低下し臓器の機能障害などを起こすこと)に陥る危険性があります。汎発性腹膜炎は起こさなくても、近くにある臓器の膀胱まで炎症が届き、瘻孔(ろうこう=臓器がほかの臓器や体外と交通している状態)を形成することもまれにあります。その場合は排尿困難、糞尿(尿に便が混じること)、気尿(尿に腸管ガスが混じること)を発症することがあります。
大腸憩室からの出血は突然の下血(げけつ=肛門からタール状の血が出ること)で自覚され、腹痛を伴うことはほとんどありません。多くの場合、自然に止血するものの(自然止血率70〜90%)、繰り返し出血する場合や、まれにショックになるほどの大量出血をすることがあります。
急激な症状がない場合でも、たくさんの憩室ができるとその領域の腸は徐々に厚さを増し、長さは短縮してだんだん内腔が狭くなっていきます。すると便通異常を伴うようになる場合があり、そこで慢性的に炎症が繰り返された場合、さらに狭くなり腸閉塞症状をきたすことがあります。
腹痛や発熱、あるいは下血といった症状から「急性腹症」として、血液検査に加えてCT検査・超音波検査などの画像検査を実施して発見されます。無症状では、大腸がん検診などで大腸内視鏡検査や注腸造影検査が行なわれた際に偶然発見されることも多いです。
無症状のものは、特に治療の必要はありません。
炎症はきたしていないものの、便秘や腹部症状(腹痛・腹部不快)がある場合は食事療法や内服薬で対応します。
憩室炎では、一般に抗菌薬の投与が行なわれますが、食事制限と腸管安静も大切なため、炎症の程度により絶食が必要であれば入院治療となります。なお、治療効果があり症状が落ち着いた後は、炎症の原因に大腸がんなどの病気がないか、大腸内視鏡検査や注腸造影検査を受けることが勧められます。
膿瘍を形成している場合、その程度により膿瘍ドレナージ(膿を体外に排出させる)や手術が選択され、必要に応じて大腸切除が行なわれます。慢性炎症で腸が狭くなってしまった場合も、その領域の切除が必要となります。
穿孔性腹膜炎の場合にも手術が必要となりますが、それは緊急手術であり、腹膜炎の状況により、大腸切除のほか「人工肛門造設術」を行なうこともあります。
憩室出血に対する止血には、大腸内視鏡による「内視鏡的止血術」や、カテーテルによる「動脈塞栓術」が行なわれます。先に述べたように自然に止血することも多いため、軽微であれば絶食による腸管安静が基本となり、慎重に経過観察します。ただし、繰り返し出血する場合については、危険な大量出血の場合と同様、最終的に大腸切除が必要となることがあります。
憩室炎や出血として症状が出るまで、多くの場合は気づきません。また、症状が出るまでは、問題となることもありません。症状が出る前に大腸がん検診で大腸内視鏡検査などが行なわれた際に偶然発見されることが多いと思われます。
検診の機会を利用して、自分の大腸の様子を知っておくのもよいでしょう。
憩室の発生そのものに対する確実な予防手段はないとされます。
憩室炎については、喫煙が合併症の悪化に関わる可能性が高いとされており、肥満もその可能性が疑われます。
出血のリスクが高くなるのは肥満のほか、抗炎症薬や抗血栓薬の内服といわれます。近年、治療のために継続的にこれらの薬を内服する人が多くなったためか、出血の治療に関わる機会が増えた印象があります。
なかなか明確な予防策はありませんが、できた憩室に無理をかけないためには、便通を整えることは大切と思われます。
解説:木村 雅美
小樽病院
外科・消化器外科 副診療部長
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