済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
2023.02.15
パスツレラ症は犬や猫などのペットと人間に共通の病気である「人獣共通感染症」です。パスツレラ菌(パスツレラ属菌)による感染症で、代表的なパスツレラ・ムルトシダのほか、パスツレラ・カニス、パスツレラ・ストマティス、パスツレラ・ダグマティスが起炎菌(感染症の原因となる細菌)です。これらの細菌は犬・猫の口腔内に高い確率で常在しており、近年のペットブームにより人間に感染する機会が増加しています。
パスツレラ・ムルトシダが犬や猫から人に感染する起炎菌として90%以上を占めています。パスツレラ・ムルトシダは猫の口腔内には100%近く、犬の口腔内には約75%、猫の爪にも約25%常在していると報告されています。
感染経路として、
・犬や猫にかまれたり引っかかれたりすることによる傷口からの感染(創傷感染)
・細菌の吸入による気道からの感染
・動物との接触が不明な感染
の3つが挙げられます。
① 皮膚症状
犬や猫にかまれたり引っかかれたりした後、早ければ数時間で傷口に発赤や腫脹が現れます。さらに皮下組織に炎症が広がったり(蜂窩織炎)、膿がたまったり(膿瘍)するほか、関節や骨まで達する傷であれば関節炎や骨髄炎を発症することもあります。
免疫不全を起こす基礎疾患がある場合、高齢者の場合、治療が遅れた場合には重症化し、菌血症や敗血症に至ることがあります。
② 呼吸器感染症
感染しても誰もが発症するわけではありませんが、高齢者で呼吸器系の基礎疾患がある患者さんに発症しやすいといわれています。特に気管支拡張症が多く、慢性気管支炎や肺線維症の報告もあります。
副鼻腔炎や気管支炎、肺炎、肺化膿症、膿胸(のうきょう=胸に膿がたまる病気)などが生じることもあります。
③ その他の感染症
まれに髄膜炎や敗血症、菌血症、腹膜炎などの発症が報告されています。糖尿病、肝硬変、HIV感染症、悪性腫瘍などの免疫不全を起こす基礎疾患がある場合は、重症化する傾向があります。
動物との接触歴がある、かまれたり引っかかれたりした痕がある、受傷して早期(数時間~48時間)で症状が現れている、などの場合にはパスツレラ症を疑います。
傷口や血液などの検体を培養し、パスツレラ菌が検出されれば診断が確定します。
患者さんは受診時に動物との接触歴があることを医師に伝えることが、早期診断のために重要です。
まずは傷口をよく洗浄し病院を受診しましょう。
治療としてはペニシリン系、セフェム系抗菌薬の投与を行ないます。猫にかまれた場合には重症化することがあるので、症状が軽くても抗菌薬の投与を検討します。
特に動物が身近にいる場合は、パスツレラ症を含めた人獣共通感染症に対する知識を持ち、理解しておくことが大切です。
傷を負って症状が現れたら、様子をみるのではなく早めに病院を受診し、医師に動物との接触があったことを伝えるようにしましょう。
一人暮らしの高齢者で犬や猫を飼っている場合は、周囲の人も人獣共通感染症の知識を持ってパスツレラ症に注意しておく必要があります。
動物と過度な接触をしないことが大切です。
特にペットの場合は、
・餌を口移しで与えない
・寝室に入れない
・ペットの口腔内や爪を常に清潔に保っておく
・ペットの周囲の環境を清潔に保つ
などを心がけるとよいでしょう。
また、かまれないようにペットを温厚に育てることも大切です。そして動物と接触した後には必ず手洗いやうがいをしましょう。
解説:岩﨑 教子
福岡総合病院
感染症内科 主任部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。