社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2023.02.15

パスツレラ症

pasteurellosis

解説:岩﨑 教子 (福岡総合病院 感染症内科 主任部長)

パスツレラ症はこんな病気

パスツレラ症は犬や猫などのペットと人間に共通の病気である「人獣共通感染症」です。パスツレラ菌(パスツレラ属菌)による感染症で、代表的なパスツレラ・ムルトシダのほか、パスツレラ・カニス、パスツレラ・ストマティス、パスツレラ・ダグマティスが起炎菌(感染症の原因となる細菌)です。これらの細菌は犬・猫の口腔内に高い確率で常在しており、近年のペットブームにより人間に感染する機会が増加しています。

パスツレラ・ムルトシダが犬や猫から人に感染する起炎菌として90%以上を占めています。パスツレラ・ムルトシダは猫の口腔内には100%近く、犬の口腔内には約75%、猫の爪にも約25%常在していると報告されています。

感染経路として、
・犬や猫にかまれたり引っかかれたりすることによる傷口からの感染(創傷感染)
・細菌の吸入による気道からの感染
・動物との接触が不明な感染
の3つが挙げられます。

パスツレラ症の症状

① 皮膚症状
犬や猫にかまれたり引っかかれたりした後、早ければ数時間で傷口に発赤や腫脹が現れます。さらに皮下組織に炎症が広がったり(蜂窩織炎)、膿がたまったり(膿瘍)するほか、関節や骨まで達する傷であれば関節炎や骨髄炎を発症することもあります。
免疫不全を起こす基礎疾患がある場合、高齢者の場合、治療が遅れた場合には重症化し、菌血症や敗血症に至ることがあります。

② 呼吸器感染症
感染しても誰もが発症するわけではありませんが、高齢者で呼吸器系の基礎疾患がある患者さんに発症しやすいといわれています。特に気管支拡張症が多く、慢性気管支炎や肺線維症の報告もあります。
副鼻腔炎や気管支炎、肺炎肺化膿症、膿胸(のうきょう=胸に膿がたまる病気)などが生じることもあります。

③ その他の感染症
まれに髄膜炎や敗血症、菌血症、腹膜炎などの発症が報告されています。糖尿病肝硬変HIV感染症、悪性腫瘍などの免疫不全を起こす基礎疾患がある場合は、重症化する傾向があります。

パスツレラ症の検査・診断

動物との接触歴がある、かまれたり引っかかれたりした痕がある、受傷して早期(数時間~48時間)で症状が現れている、などの場合にはパスツレラ症を疑います。
傷口や血液などの検体を培養し、パスツレラ菌が検出されれば診断が確定します。
患者さんは受診時に動物との接触歴があることを医師に伝えることが、早期診断のために重要です。

パスツレラ症の治療法

まずは傷口をよく洗浄し病院を受診しましょう。
治療としてはペニシリン系、セフェム系抗菌薬の投与を行ないます。猫にかまれた場合には重症化することがあるので、症状が軽くても抗菌薬の投与を検討します。

特に動物が身近にいる場合は、パスツレラ症を含めた人獣共通感染症に対する知識を持ち、理解しておくことが大切です。
傷を負って症状が現れたら、様子をみるのではなく早めに病院を受診し、医師に動物との接触があったことを伝えるようにしましょう。
一人暮らしの高齢者で犬や猫を飼っている場合は、周囲の人も人獣共通感染症の知識を持ってパスツレラ症に注意しておく必要があります。

動物と過度な接触をしないことが大切です。

特にペットの場合は、
・餌を口移しで与えない
・寝室に入れない
・ペットの口腔内や爪を常に清潔に保っておく
・ペットの周囲の環境を清潔に保つ
などを心がけるとよいでしょう。

また、かまれないようにペットを温厚に育てることも大切です。そして動物と接触した後には必ず手洗いやうがいをしましょう。

解説:岩﨑 教子

解説:岩﨑 教子
福岡総合病院
感染症内科 主任部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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