社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい) SDGS rd05
SDGS rd05

2022.06.15

HIV感染症(エイズ)

HIV infection/AIDS

解説:伊東 剛 (宇都宮病院 総合内科主任診療科長)

HIV感染症(エイズ)はこんな病気

HIVとはウイルスの名前で、「Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)」の頭文字をとった略称です。
HIVに感染した人が、エイズ診断のための指標疾患(23疾患)のいずれかを発症した状態のことを、後天性免疫不全症候群(エイズ/AIDS=Acquired Immunodeficiency Syndrome)と呼びます。HIVに感染していても、この23疾患のいずれかを発症しなければエイズとはいいません。

エイズ診断のための指標疾患(23疾患)

HIVは、白血球の一種で免疫を担当する「CD4陽性リンパ球」に感染し、徐々に破壊していくことによって、免疫の働きを弱らせてしまいます。
CD4陽性リンパ球の数は、健康な人では800〜1300/μL程度ですが、HIV感染によって200/μLを下回るとニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、食道カンジダ症といった日和見感染症(ひよりみかんせんしょう=健康な人では感染しないような弱い感染症)にかかりやすくなります。

HIV感染症(エイズ)の患者数と感染経路

2020年の国内における新規報告数は、HIV感染者750人、エイズ患者345人、合計1,095人でした。性別では男性が95%を占めます。感染経路別では同性間の性的接触が66.9%、異性間の性的接触が14.0%で、国籍別では日本国籍男性が80.4%、外国国籍男性が14.6%でした。同年末までの累計報告数はHIV感染者22,489人、エイズ患者9,991人、合計32,480人となります。

HIV感染症(エイズ)の治療法

◆治療薬の進歩で平均寿命まで生きられる
現在の医学ではHIVを体内から完全に排除し、完治させることはできません。しかし、適切な治療や、規則正しい内服を継続できれば、長期にわたり血中HIV量を検出限界以下まで抑えることが可能です。

世界で最も権威ある医学雑誌の一つである「New England Journal of Medicine(2021年6月3日号)」に掲載された総説によれば、抗HIV薬の内服を生涯継続して、HIV-RNA(HIVのウイルス量)を200/mm3以下に維持できれば、他人に感染させることもなく、平均寿命を全うできるとされています。
そのため「抗HIV治療ガイドライン」ではCD4の数にかかわらず、すべてのHIV感染者に早期から抗HIV治療の開始を推奨しています。治療薬は日々進化しており、副作用なども非常に少なくなり、外来でスムーズな治療ができます。
今後は、患者さんの高齢化に伴うがん、脳卒中、心疾患などの合併、そして介護の問題へと、治療の軸足が移っていくことになるでしょう。

エイズ診療拠点病院では、プライバシーに配慮した医療、メンタルケア、服薬アドヒアランス(患者さんが自分の病気と治療に納得し、医師の治療方針に積極的に協力して治療薬を服用すること)の向上など、一定水準の医療を受けることができるので、安心して受診してください。

新型コロナ治療にも応用された抗HIV薬

HIVの研究はウイルス学の最先端であり、他のウイルス性疾患の治療にも応用されています。
例えば、「パキロビッドパック」の商品名で知られる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬は、一般名が「ニルマトレルビル/リトナビル」となっています。これは新型コロナウイルス感染症の治療薬「ニルマトレルビル」と、その効果を持続させる働きがある抗HIV薬「リトナビル」を組み合わせたもので、厚生労働省から特例承認を得ました。

◆HIVスクリーニング検査と受けるタイミング
HIVに感染しているかどうかは、血液検査で「HIV-1/2抗原抗体同時スクリーニング検査」をすると分かります。
この検査は、感染の不安があれば病院・診療所などで受けることができ、保健所では匿名かつ無料で検査を受けることもできます。

HIVに感染しても長期間無症状の人が多く、感染に気づかず数カ月~数年が経過してしまうと、かなり免疫力が低下する上、知らない間にパートナー等に感染させてしまう恐れもあります。
リスクのある行為があってから3カ月以上経っていればHIVの抗体ができ、感染の有無を確実に判定することができるので、なるべく早く検査を受けて、早期治療・発症予防につなげてください。

◆周囲の人への告知について
感染が判明した場合、性行為がHIV感染の原因となった可能性も考えられるため、パートナーなど性行為を行なう相手にはすぐに伝えるようにしましょう。それ以外の人に対しては、気が動転した状態で打ち明ける必要はありません。家族や職場に打ち明けにくい状況も想定されます。主治医やカウンセラーとよく相談し、気持ちと知識の整理がついてからの方がよいでしょう。

◆血液・体液での感染に注意
HIV感染の経路は、
①性行為(精液、腟分泌液、血液との接触を伴うもの)
②注射器の共用
③母子感染
の三つが挙げられます。

HIV感染の多くが性行為によるものなので、同性間、異性間にかかわらず性行為の最初から終わりまでコンドームを正しく装着し、出血を伴うような性行為は避けてください。
食器やトイレ、風呂、洗濯機の共用、握手、くしゃみなどでうつることはありません。ただし歯ブラシやカミソリの共用は控えましょう。

曝露前予防内服(プレップ)への期待

曝露前予防内服とは、性行為の前に抗HIV薬を服用することで、HIV感染のリスクを減らす予防法です。英語では「Pre-Exposure Prophylaxis」といい、頭文字をとって「PrEP(プレップ)」と呼ばれます。

曝露前予防内服では、HIV感染の機会があっても感染を予防できるため、新規HIV感染者の抑制につながる薬剤が注目されています。日本エイズ学会では、「エムトリシタビン・テノホビルジソプロキシルフマル酸塩配合錠(ツルバダ)」を曝露前予防内服薬として薬事承認・適応拡大することを要望しているところです。

解説:伊東 剛

解説:伊東 剛
宇都宮病院
総合内科主任診療科長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE