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2015.06.30
縦隔(じゅうかく)とは特定の臓器の名称ではなく、胸膜によって左右の肺の間に隔てられた部分を指し、心臓、食道、気管、気管支、大動脈や大静脈、胸腺、神経などが含まれます。この縦隔に発生した腫瘍のことを総称して縦隔腫瘍といいます。ただし、食道、気管、気管支、心臓、大血管から発生した腫瘍は除外されます。
縦隔腫瘍は発生する部位によってできやすい腫瘍が異なっています。上縦隔には甲状腺腫、前縦隔には胸腺腫、胸腺がん、奇形腫、胚細胞腫瘍、中縦隔には気管支原性のう胞、食道のう胞、リンパ腫、後縦隔には神経原性腫瘍ができやすいとされています。
人体側面から見る縦隔腫瘍の発生部位とできやすい腫瘍
縦隔腫瘍は通常無症状のものが多いですが、進行して大きくなってくると、炎症を起こしたり、周囲の臓器を圧迫したり、浸潤したりすることによって、胸の痛みや発熱、顔の腫れ、上肢のしびれ、せき、血痰、嚥下(えんげ/食物を飲み下すこと)困難などさまざまな症状が現れます。
診断には、まず胸部X線、CT、MRIによる画像検査を行ないます。また、血液検査での腫瘍マーカーの測定が診断に役立つこともあります。縦隔は体の中でも、診断をつけることが難しい場所です。胸腔鏡、縦隔鏡やCTなどを用いた腫瘍細胞の性質を調べる検査(組織学的検査)が必要な場合もありますが、良性腫瘍か悪性腫瘍かの判断を含めて、手術で切除するまでは、はっきりとした診断が得られないことがほとんどです。
治療は腫瘍の種類と病気の広がりによって決まりますが、良性、悪性にかかわらず手術が可能であれば切除するのが基本的です。
縦隔腫瘍の手術件数は増加傾向にあり、これは胸部CT検査の機会が増え、その精度が向上していることも関係していると考えられています。手術の方法も、発生する臓器、場所、広がりに応じて異なり、胸骨正中切開や後側方切開が行なわれます。また、腫瘍が早期で小さい場合は内視鏡手術を行なう場合もあります。切除できない場合は、放射線治療や抗がん剤治療を合わせた集学的治療が行なわれます。抗がん剤や放射線治療の効果は腫瘍によって異なり、胚細胞腫瘍の中の精上皮腫は抗がん剤や放射線治療が非常に効果があります。
縦隔腫瘍は一般に比較的まれな腫瘍であり、20~50歳代の人に多く、加齢とともに減少します。サイズが小さいと無症状のことが多く、健康診断による胸部X線検査で偶然発見される場合もあります。また、胸部X線画像では心臓や大血管に重なって分かりにくいため、CT検査を受けて偶然見つかることも多い腫瘍です。そのため、早期発見のためには、定期的に健康診断や胸部のX線、CT検査を受けることが大切です。
初期は無症状のものが多い縦隔腫瘍ですが、進行して大きくなってくると、炎症や周囲臓器への圧迫・浸潤が起き、それによってさまざまな症状が現れます。なかでも、縦隔臓器の圧迫による症状はほとんどの場合、悪性腫瘍に伴う症状です。腫瘍が気道への圧迫・浸潤を起こしてせきや血痰、呼吸困難を、食道への圧迫・浸潤により嚥下(えんげ/食物を飲み下すこと)障害を、胸壁や神経への浸潤により胸痛や神経痛を引き起こします。時には、反回神経麻痺よる嗄声(させい/声がれ)や、交感神経麻痺によるホルネル症候群、上大静脈への圧迫や浸潤による上大静脈症候群を起こすこともあります。
また、胸線腫では腫瘍随伴症状として、重症筋無力症や、赤芽球癆(せきがきゅうろう/赤血球の産生低下による貧血症状)が高率にみられるのが特徴です。疲れやすさや筋肉に力が入らない、まぶたが垂れ下がるという症状に気づいたら、胸腺腫による重症筋無力症の可能性があるので、早めの医療機関の受診をおすすめします。
縦隔腫瘍は、肺がんにおける喫煙のように、明らかな原因となるものはわかっていません。また、気管支のう腫や心膜のう腫のように、先天性の腫瘍もあります。
縦隔腫瘍のうち、最も多い腫瘍は、胸腺腫です。その次に、先天性のう胞、神経原性腫瘍、縦隔原発胚細胞性腫瘍、リンパ性腫瘍が続きます。腫瘍の種類やできる部位によって、その症状が異なり、予防する方法がないため、できるだけ早期発見に努めることが大切です。初期は無症状のことが多く、健康診断での胸部X線検査やCT検査で偶然発見される場合が多い縦隔腫瘍ですが、胸部に違和感があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
解説:宮原 栄治
広島病院
外科医長
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