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2021.10.14
胚細胞腫瘍とは、原始生殖細胞という胎児(赤ちゃん)のもととなる未熟な細胞が成熟する過程で発生する腫瘍の総称です。腫瘍の中にさまざまな身体の成分(何の組織かわからない未熟な細胞の塊や、骨や歯、脳や髪など成熟した組織)が含まれているのが特徴です。性腺(精巣や卵巣)にできるものと、性腺以外の部位に紛れ込んだ原始生殖細胞からできるものに分けられます。性腺以外の部位では身体の正中(中心を通る線上)に多く、頭蓋内(頭の中)や身体の仙尾部(お尻の近く)、後腹膜(身体の腸より背中側で背骨より前の部分)、前縦隔(胸部の心臓の前方)などに発生します。
良性のものと悪性のものに分けられますが、良性のものも時に再発したり、播種といって周囲に広がったりします。最も多いのは奇形腫と呼ばれる良性腫瘍です。悪性の腫瘍には、卵黄のう腫瘍、胎児性がん、未分化胚細胞腫、絨毛がんなどがあります。
腫瘍ができる部位によって、現れる症状はさまざまです。精巣にできるものは、ほとんどの場合2歳未満で発症し、良性・悪性いずれの場合も痛みのない陰のう内の腫瘤(しゅりゅう=こぶ)がみられます。卵巣にできるものは良性が多く、乳児期から成人期まで幅広い年齢に発症し、お腹の張りやしこりで見つかるほか、腫瘍の捻転(ねんてん=ねじれ)による急激な腹痛でも発見されます。
新生児期の仙尾部に生じるものはとても大きな腫瘤となり、出生前診断されることもありますが、ほぼ良性です。一方、生後半年以降に仙尾部に生じるものは悪性の可能性が高くなります。
胚細胞腫瘍に含まれる身体の成分によって、上昇する特徴的な腫瘍マーカー(がんの診断の補助や治療効果をみるときの指標となる物質)が異なります。小児の悪性胚細胞腫瘍の多くは卵黄のう成分をもつため、α-フェトプロテイン(AFP)が上昇します。また、絨毛がんではβヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCGβ)が上昇します。その一方、腫瘍マーカーが上昇しない腫瘍もあります。
超音波検査・MRI・CTなどの画像検査で、腫瘍の状態や広がりを確認します。診断の確定には、生検(病変の一部を患部から取り出すこと)や切除した腫瘍の病理検査を行なうことが必要です。
腫瘍の範囲、他の臓器やリンパ節まで広がっているかどうかなどによって分類される腫瘍の病期(ステージ)に応じて治療が行なわれます。
良性の腫瘍は、手術によって完全に切除すれば治療は完了です。悪性の腫瘍は、外科的切除と抗がん剤治療を組み合わせて行ないます。悪性の胚細胞腫瘍には抗がん剤が非常によく効きますが、一方で放射線治療は効きにくいです。
胚細胞腫瘍に限らず小児の腫瘍は、痛みや発熱など苦痛を感じる症状が全く出ないことも珍しくありません。その上、発生頻度が低かったり進行が早かったりするので、成人のように検診で見つかるというのも非現実的です。そのため、気になる症状が出現しすぐに改善しないときには、まずはかかりつけ医を受診することが、早期発見につながります。
また、年齢や症状から腫瘍のタイプをある程度予測することが、早期発見のヒントになります。ここでは「医学解説」で触れられなかったものを中心に解説します。
新生児期:
仙骨の先端から生じる仙尾部奇形腫がほとんどで、良性の成熟奇形腫か未熟奇形腫です。病理学的には良性ですが巨大化し、臀部(お尻)から外側に突出するもの、骨盤側に張り出すものがあります。母親のお腹にいるときから超音波やMRI検査などで腫瘍の大きさや場所などを確認し、腫瘍が破裂しないように分娩する方法を考えます。奇形腫へ血液が多く流れ、赤ちゃんがむくんでしまう胎児水腫や心不全になり、緊急帝王切開が必要となることもあります。
乳幼児期:
精巣にできるものは2歳未満に発生することがほとんどで、良性の奇形腫と悪性の卵黄のう腫瘍が多いです。痛みのない陰のう内の腫瘤と認識され、陰のう水腫を合併することもあるため、見逃されることもあります。鑑別には超音波検査が有用です。
学童期以降:
前縦隔の腫瘍は胸腺にできることが多く、胸部X線写真で偶然発見されることもあれば、気管を圧迫して呼吸困難で発症することもあります。このようなときは、緊急に外科的手術で腫瘍を切除して圧迫をとります。
思春期から成人期:
卵巣にできるものは、乳児期から成人期まで幅広い年齢に発症し、特に10~20代に多いです。腹部膨満や腹部腫瘤がきっかけで見つかるほか、腫瘍の捻転によって急性腹症(迅速な対応が必要な腹部の症状)を発症し緊急手術が必要になることもあります。年長女児の急性腹症では、この腫瘍が必ず鑑別に挙げられます。
頭蓋内:
他の脳腫瘍と同様、脳の中のどの場所に腫瘍ができるかで症状が異なります。松果体にできるときは脳脊髄液の通り道をふさいで起こる水頭症による症状、すなわち頭痛や嘔吐、目の動きがおかしいなどの症状が出現します。下垂体周辺にできるときには尿崩症(多量に尿が出る)や視力障害、視野障害などが出現し、腫瘍発見の手掛かりになります。
胚細胞腫瘍発生の原因となりうる遺伝的要素は、明らかになっていません。がんを発症しやすい体質の人に多いタイプの腫瘍でもありません。しかし、性腺の発育の異常や、クラインフェルター症候群(性染色体の数の異常)などを持つ人に発症しやすい可能性があるともいわれています。
明確な予防法はありませんが、いずれにせよ、痛みなどの苦痛を伴わなくても、何らかの気になる症状がみられた際にはかかりつけ医を受診することが大切です。
解説:田中 文子
横浜市南部病院
小児科・新生児内科 主任部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。