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2023.06.07
妊娠すると子宮内に胎盤が作られますが、胎盤の一部を構成して酸素や栄養素の交換などの働きをするのが絨毛です。絨毛がんは、絨毛の細胞から発生するまれながんです。
絨毛がんは「妊娠性」と「非妊娠性」に分類され、大部分が妊娠に引き続いて発症する妊娠性です。非妊娠性の絨毛がんは卵巣や精巣などから発生するため、男性も発症する可能性はありますが非常にまれです。
妊娠性の絨毛がんは早期から転移しやすく予後不良(治療後の経過が良くないこと)のように思えますが、化学療法(薬物療法)が奏功し、ほとんどが治り、治癒後に正常妊娠して出産する患者さんもいます。
正常妊娠で出産後に数年かけて発症することもありますが、絨毛がんの約半数は「胞状奇胎(ほうじょうきたい)」という異常妊娠によって発症します。胞状奇胎とは、受精卵の異常などにより赤ちゃんが育たずに絨毛細胞がむくんでぶどうの房状になる病気で、日本では約0.2%の発症率とされており、そのうち約1%が絨毛がんを発症するとされています。
子宮に病巣がある場合は不正性器出血が多く、腹痛を伴わない突発性の出血がみられることがありますが、無症状のこともあります。
また、早期から全身に転移を起こし、肺転移では咳、喀血、胸痛、血痰、肝転移では腹痛、脳転移では頭痛、麻痺、意識障害、けいれん、腎転移では血尿など、転移先の臓器特有の症状が現れます。そのため他科からの問い合わせで絨毛がんが発見されることもあります。
本来妊娠中にしかみられない、胎盤から分泌されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが上昇するので、診断や治療効果を確認するために測定します。
子宮に病変がある場合は超音波検査や造影MRI検査で血流豊富な腫瘤を確認できます。
また、絨毛がんの3分の2の症例が肺に転移するため、胸部X線を撮影します。その他の臓器への転移は上下腹部および頭部のCT検査が有用です。
なお、絨毛がんとの鑑別が必要な病気として、胞状奇胎の細胞が子宮の筋層内や血管内に侵入して腫瘍を形成する「侵入胞状奇胎」が挙げられます。
確定診断には顕微鏡検査(病理組織診)が必要ですが、侵入胞状奇胎や絨毛がんは子宮の筋層内で発育することが多く、診断のためには子宮を摘出しなければいけません。
しかし、妊娠を望む患者さんが多く、治療では化学療法が奏功することなどを踏まえて、絨毛がん診断スコアを用いて侵入胞状奇胎か絨毛がんかを鑑別診断します。
絨毛がんの場合は、治療で使う抗がん剤の投与期間も侵入胞状奇胎と比べて長期になるため、副作用の観点からも治療前の鑑別診断は重要です。
<侵入胞状奇胎とは?>
胞状奇胎は、経腟的に吸引や掻爬(そうは=組織をかき出すこと)を行なう子宮内容除去術で治癒しますが、術後だいたい3カ月以内、遅くても6カ月以内に10~20%の発症率で、胞状奇胎の組織が子宮の筋層内や血管内に侵入して侵入胞状奇胎となります。侵入胞状奇胎はがんではありませんが、他の臓器へ転移することや抗がん剤で治療することから、がんに準じた取り扱いとなります。
抗がん剤がよく効きます。侵入胞状奇胎であれば抗がん剤1種類もしくは2種類併用でほぼ100%治癒し、絨毛がんであれば最初から3種類の抗がん剤を投与します。
薬が効かない場合は子宮摘出を含めた病巣切除や放射線療法が必要となります。
絨毛がんの80%以上は化学療法が奏功し、5年生存率は約90%と報告されています。治癒確認後は1年間の避妊期間を経て妊娠が可能になるので、絨毛がんと診断されても絶望することなく、前向きに治療を受けましょう。
月経以外の出血(不正性器出血)、特に出産後の長引く出血などがあれば、婦人科を受診してください。
また、血痰、血尿などで他科を受診した際、胞状奇胎や、病理組織検査をしていない流産(人工妊娠中絶を含む)の既往があれば、担当医に申し出てください。
残念ながら、絨毛がんに対して直接的な予防法はありません。
ただ、原因の一つに胞状奇胎が挙げられます。40歳以上の妊娠で胞状奇胎のリスクが20~30倍に上昇するとされています。
解説:武曽(むそう) 博
千里病院
婦人科部長
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