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2017.10.18
神経筋接合部という神経と筋肉のつなぎ目で、神経からの指令が筋肉にうまく伝わらないことにより、身体に十分な力を入れることができなくなる病気です。重症度やタイプに応じて、まぶたが下がる、手足に力が入らない、食べ物が飲み込みにくい、呼吸が十分にできないなどの症状が出現します。呼吸症状など命にかかわりうる症状が出てくること、昔は治療法があまりなかったことから「重症」筋無力症という病名になっており、病名を告げられると驚く方も多いかと思いますが、近年では治療法が発達し、「重症」でない方も多くなってきています。
病気の原因は、身体を防御する免疫系の異常です。通常、神経からはアセチルコリンという筋肉に指令を伝える物質が放出され、筋肉の受け手(受容体)にくっついて筋肉が収縮することで身体を動かしています。しかし、重症筋無力症の場合、本来はウイルスや細菌と戦うために作られる抗体という物質が間違って作られ、筋肉の受容体にくっついてしまうことで、神経からの指令がうまく伝わらなくなってしまいます。このような免疫機能の異常によって、自分の身体が攻撃されてしまう病気は自己免疫疾患と呼ばれており、関節リウマチなど多くの病気が該当します。
免疫機能の異常によって起こる病気であるため、基本的には免疫を抑える薬剤を用います。
通常、最もよく用いられる薬はステロイドです。ステロイドは、使い始めの時期に症状が悪くなることがあるため、少量からゆっくりと増量して用いることが一般的です。
また、ステロイドは大量に長期使用すると、骨粗鬆症や糖尿病、肥満などの副作用が問題となることが多く、このような場合には免疫抑制剤といわれる薬剤を併用することもあります。
抗体の生成には胸腺という臓器が関係しています。重症筋無力症の患者さんは、胸腺に腫瘍が合併していたり、胸腺が通常より大きいなどの異常によって、間違った抗体が作られていることがあります。このような場合には、胸腺を手術で取り除くこともあります。
重症筋無力症は、アセチルコリンという物質がうまく筋肉の受容体にくっつくことができないために症状が出現します。そのため、このアセチルコリンという物質を分解する酵素を阻害する薬(コリンエステラーゼ阻害剤)を用いると、筋力が改善します。この薬剤は即効性があり、症状が無くなることもありますが、症状を取り除いているだけの治療(対症療法)です。基本的には、ステロイドなどの根本原因に対する治療を並行して行なう必要があります。
病気が急激に悪くなった状態では、呼吸不全などを起こす可能性がありますので、血漿交換療法※1や免疫グロブリン大量静注療法※2などを行なって一時的に免疫状態を改善させることもあります。
※1血漿交換療法: 血漿中に存在する病気の原因物質を、血液から血漿成分だけを分離させて除去し、代わりに血漿成分を浄化した血液に置き換える療法
※2免疫グロブリン大量静注療法: 自己免疫反応を抑制するために、さまざまな抗体が含まれている血液製剤である免疫グロブリンを点滴で注入する療法
全身の筋力が低下する病気ですが、特に眼の周りや上半身に症状が出やすいことで知られています。まぶたが下がってくる(眼瞼下垂)、物がダブって見える(複視)、寝ているときに首が上げにくいといった症状が出現した場合には要注意です。また、喉周りの筋力も落ちやすいことがあり、しゃべりにくい、飲み込みにくいといった症状の場合にも重症筋無力症の可能性があります。
この病気の特徴は、筋肉が疲労しやすいことです。夜にゆっくり休んで、朝起きた後には調子がいいのに、日中活動して疲れてくると、まぶたが下がってきたり、首が重くだるくなったりと、一日の中で症状が変動(日内変動)しやすいといわれています。この日内変動がある場合には重症筋無力症を強く疑います。
日常での簡便な検査法としては、アイスパック試験というものがあります。アセチルコリンは冷えると神経からたくさん放出されることが知られており、重症筋無力症の症状の一つである眼瞼下垂は冷やすと一時的に症状がよくなります。普通の保冷剤などをガーゼなどで包み、3分間程度まぶたに押し当てて症状が改善すれば、重症筋無力症の疑いがあります。
疑わしい症状があるときは、早めに神経内科を受診してください。早期に治療を開始することで、症状の悪化を防ぐことができる場合があります。
重症筋無力症は免疫の異常により発症することが知られていますが、その原因については不明な点が多く、予防法はまだ確立されていません。
ただ、免疫の活性化が悪化につながりますので、感染症にかかると病状が悪化する危険性があります。発症した方は、手洗いやうがいをしっかりと行ない、人ごみに外出するときなどにはマスクを着用するなどして、感染症を予防することが重要です。
また、一部の抗生物質などで重症筋無力症を悪化させることが知られている薬剤もありますので、風邪を引いたときなどにもきちんと病名を伝え、薬を処方してもらうようにしましょう。
解説:矢部 勇人
済生会松山病院
神経内科医長
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