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2024.02.07
E型肝炎は古くからある病気で、主にE型肝炎ウイルス(HEV)の経口感染(感染者が排泄した便に含まれたウイルスで汚染された水や食物を摂取することで感染)によって起こる感染症です。
従来、E型肝炎は衛生環境が整っていない熱帯、亜熱帯地方の流行性疾患(風土病)として位置づけられていました。しかし、近年になって日欧米などの先進国でも土着のHEVの感染によりE型肝炎が散発的に発生していることが明らかになりました。また、飼育豚や野生のイノシシなどの動物からもHEVが検出され、人獣共通感染症であることが認知されるようになりました。
症状は他の急性ウイルス性肝炎(A型、B型、C型)と類似しています。HEVは通常一過性感染で自然軽快しますが、臓器移植や、血液疾患で化学療法を受けているなど、免疫機能が抑制された状態では慢性化することがあります。
HEVに感染しても大部分は無症状(不顕性感染)で経過しますが、肝炎発症例では、感染から2~9週(平均6週)の潜伏期を経て倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸(皮膚が黄色くなる)などの症状が現れます。発症の前後数週間は、糞便中にHEVを排泄しています。
肝炎を発症した場合の重症化率は1割強と高く、国内でも劇症化(肝細胞が激しく障害されて重篤な状態に陥ること)による死亡例が報告されています。
妊婦(特に妊娠後期)が感染すると重症化しやすく、致死率は10~25%にも及ぶといわれています。また、高齢、肝基礎疾患の存在、特定の遺伝子型の場合も、重症化しやすいとされています。
他の急性ウイルス性肝炎(A型、B型、C型)と症状から鑑別することは難しく、IgA-HEV抗体(血液)やHEV-RNA(血液、便)を検出することによって診断します。
特別な治療法はなく、対症療法が中心となります。免疫機能が正常な場合、HEV感染は一般に一過性で終息し、慢性化せずに完治します。しかし、臓器移植患者、骨髄移植患者、HIV感染者では慢性化し、急速に慢性肝炎から肝硬変に進行した例の報告もあります。慢性化した例では、インターフェロン治療やリバビリン単独治療が有効とされています。
従来、E型肝炎は熱帯、亜熱帯地方の風土病、あるいはまれな輸入感染症と考えられてきましたが、近年の調査で日本をはじめとする先進国においてもみられる病気であることが分かってきました。
2004年の厚生労働省の研究班が行なった調査では、日本のE型肝炎症例の約65%が感染経路不明でした。動物からの感染は25%、輸入感染は8%、輸血による感染が2%でした。このため、肉食歴、海外渡航歴、輸血歴がない症例であっても、非ABC肝炎であるなら、積極的にE型肝炎を疑い検査をすることが早期診断につながります。
近年、日本でも野生の鳥獣を食べる「ジビエ料理」の流行に伴い、感染者が増加しています。野生動物や豚の生肉、生臓器(レバー、ホルモン)が感染原因となるため、これらの肉については、生で食べず中心部まで十分に加熱することが必要です。
また、衛生環境が整備されていないE型肝炎の流行地域(東南アジア、インド、アフリカ、中央アメリカなど)に旅行する際は、生水、氷、生野菜、カットフルーツなどは食べないようにしましょう。
なお、E型肝炎ワクチンは、2011年に中国では承認されていますが、日本ではまだ実用化されていません。
解説:長野 具雄
神栖済生会病院
顧問 肝臓内科
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