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2024.06.26
ヘモクロマトーシスは、鉄の過剰摂取によって鉄が肝細胞に沈着・蓄積し、多臓器障害(2つ以上の臓器が障害されて機能しない状態)を引き起こす病気です。遺伝子変異によって食事から鉄が過剰に吸収される「一次性(遺伝性)ヘモクロマトーシス」と、頻回な輸血など鉄の過剰投与による「二次性ヘモクロマトーシス」の2種類に分けられます。
人間の身体に含まれる鉄の総量は3〜4gで、そのうち70%が赤血球に含まれる「ヘモグロビン鉄」として、全身の細胞へ酸素の運搬を担っています。このように生命の維持に欠かせない鉄ですが、過剰に摂取してしまうと肝細胞に蓄積し、肝障害や耐糖能障害(2型糖尿病や耐糖能異常)などの多臓器障害を引き起こします。発症年齢は30〜50代に多いとされていますが、骨髄異形成症候群(MDS)など、併存する病気により、それ以降の年代にもみられます。
肝細胞に鉄が沈着することにより、フリーラジカル(不対電子を1つ以上持つ原子・分子)が産生され、細胞内のタンパク質・脂肪・核酸と反応し、細胞を破壊します。その結果、肝細胞の繊維化(損傷や炎症を治すために組織が異常に多く造られること)や発がんに至ります。
さらに、膵臓にも沈着すると糖尿病を引き起こすほか、皮膚障害・心筋症・関節痛などの原因にもなります。
輸血歴の有無のほか、肝腫大(全体もしくは部分的に肝臓が腫れている状態)、耐糖能障害、皮膚色素沈着の合併があるかを確認した後、血液検査で血清鉄180μg/dL以上の上昇・血清フェリチンの数値が1000ng/dL以上・トランスフェリン飽和度(血清鉄/総鉄結合能)80%以上であるときに、各数値を目安にして診断します。さらにCT・MRI検査で臓器の鉄沈着の有無、確定診断として肝生検で鉄染色による鉄の沈着を確認します。
基本的には、血液を採取する瀉血(しゃけつ)と鉄制限食を行ないます。瀉血は血清フェリチン値を目安に行ないます。
心不全など重篤な合併症を伴う症例では、体内で鉄などの金属と結合して尿や便として体外に放出する鉄キレート剤を投与します。鉄キレート剤には筋肉注射と内服があり、注射の方が鉄を排除する能力が優れているとされますが、保険適用となるのは輸血によって発症した二次性ヘモクロマトーシスのみとなっています。
鉄制限食では、摂取する鉄の量を1日6〜7mg(標準の食事は1日9〜10mg)にします。頻回の輸血を受ける人では、管理栄養士と連携した食事指導が効果的です。食事指導では、数日間の食事内容を記録して、鉄を含む食事に偏っていないかチェックします。特に、レバー、ひじき、あさり・しじみなどの貝類は鉄を多く含むため、できるだけ避けましょう。また、健康食品やサプリメントを摂取する際も、鉄やビタミンCを含むものは服用を控えてください。
早期に診断された場合は予後良好ですが、肝細胞の繊維化が進行した場合は、ほかの臓器の障害も元の状態に戻ることができなくなるため、肝細胞がんを合併することもあり、注意が必要です。
鉄の代謝酵素の異常による一次性(遺伝性)ヘモクロマトーシスの場合、新生児に対する検査が限られているため、医師でも診断することが困難です。
輸血歴がない人の場合、多くは食事による二次性ヘモクロマトーシスを疑います。その際は、日頃の食事について詳しく確認することが重要です。加えて、肝臓の腫大、皮膚の黒ずんだ色の色素沈着、糖尿病の進行がみられた場合や、骨髄異形成症候群などの血液疾患や慢性的な出血で輸血を繰り返し行なわなければならない人で、肝障害や耐糖能異常が起こったときも二次性ヘモクロマトーシスである可能性が考えられます。
鉄の過剰による二次性ヘモクロマトーシスが疑われる人は、日々の生活を過ごす上で鉄制限食を意識しましょう。鉄を含む食事に偏っていないかを確認する際に、調理済みで食品名や分量がわかりにくい場合は、スマートフォンのカメラ機能を使って撮影された食品を分析するアプリケーションなどを利用するのもよいでしょう。
解説:松本 隆之
泉尾病院
消化器内科 主任部長
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