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2017.09.13
視神経は、眼球の後ろから頭蓋内脳につながり、眼内に入った映像の情報を脳に伝える役目をもつ脳神経の一つです。眼球がビデオカメラで脳がモニターだとすると、両者をつなぐケーブルに例えることができます。視神経が障害されると、重篤な視機能障害が起きることが多く、脳と同様に強いダメージがあると回復しない場合があります。視神経の疾患は炎症性のもの(視神経炎)と非炎症性のもの(視神経症)に区別されますが、両者の区別がはっきりできないものもあります。
視神経周囲の構造
非炎症性(視神経症)
1 虚血性: 視神経に栄養を与える血管が閉塞することで起こる。高齢者に多く、側頭動脈炎を伴うこともある
2 圧迫性: 腫瘍、副鼻腔のう腫、甲状腺眼症に伴う外眼筋(眼球の外側にある目を動かす筋肉)肥大など
3 外傷性: 視神経管(視神経が入っている骨の管)骨折など
4 中毒性: 薬剤(抗結核薬など)、シンナー類、農薬などによって視神経が障害される
5 遺伝性: レーベル病、優性遺伝性視神経萎縮など
症状は視野の中心部を含む視野障害で、発症・進行すると極端な視力低下をきたします。原因によって急性発症するもの、徐々に進行するものがあります。視神経炎、虚血性・外傷性視神経症は急性発症し、圧迫性・中毒性・遺伝性のものは、徐々に視野・視力障害が進行します。診断には視力視野検査のほか、中心フリッカー試験※1や視覚誘発電位※2、色覚検査などが行われ、原因検索のためMRIによる画像診断、血液・髄液検査等が行われます。
※1中心フリッカー試験: 光を高速で点滅させたとき、光のちらつきが目で判別できるか、できないかの境目の周波数を測る検査
※2視覚誘発電位: 視覚刺激を与えることで大脳皮質視覚野に生じる電位を計測し、視神経から脳までの回路のはたらきを調べる検査
急性発症するものは視力・視野が突然障害されるため、自覚症状に気づかないことはまれで、視神経炎の場合には痛みを伴う場合もあります。しかし、徐々に進行するものは初期には気づかないことがあります。特に片眼性のものは気づきにくく、ときどき左右の見え方に違いがないか自分で確認することが大切です。
多発性硬化症による視神経炎は再発性、両眼性のことが多いですが、初回の発作では診断がついていない場合もあるため、一度、視神経炎と診断されたら再発のことも気にする必要があります。視神経障害を起こしやすい薬剤(抗結核薬のエタンブトールなど)を服用している場合には、薬剤の中止が必要なものもあるので、特に用心しましょう。薬剤によっては、発症前から定期的に医療機関に通院し、副作用の早期発見をすることが必要なものもあります。外傷によるものは落下、交通事故等で、眼部骨折以外に脳挫傷やそのほか外傷を伴っていることもあります。また受傷初期には意識障害を伴う場合もあるため、視力障害に気づくことが遅れる可能性があり、注意が必要です。
視神経障害で最も特徴的な症状は、対光反応(光を目に当てると瞳孔が縮瞳する)の異常です。これは対光反射検査(swinging-flashlight test)を行なうことで、両眼同時発症のもの、症状の軽いものを除けば、異常を検出できる可能性が非常に高い所見です。健側眼(病気のない正常な方の目)に光を数秒当てた後に、患側眼(病気を伴っている方の目)に光を当てると、わずかに収縮した後に逆に散瞳(瞳孔が拡大すること)が起きます。特に外傷後や、小児で本人の自覚症状がはっきりしない場合には有効で簡便な診断方法です。
視神経疾患は一度障害されると回復しない場合が多いため、可能な限り早期に原因除去、治療が必要です。
視神経炎の場合には通常、ステロイドという薬剤を大量に短期間点滴投与をする治療(ステロイドパルス療法)を行ないます。特発性のものは比較的予後はよく、治療によく反応する場合が多いのが特徴です。多発性硬化症は、いったん回復はするものの再発傾向があり、視神経脊髄炎、抗MOG抗体陽性視神経炎はステロイド治療の反応が悪く、他の免疫抑制剤を併用する場合や、血漿交換などの治療を行なうことがあります。
虚血性のものは発症すると回復は困難で、水平半盲(上ないしは下半分の視野障害)等は残存しますが、それ以上に進行することはありません。
圧迫性、中毒性のものは早期に原因除去が必要で、症状が進行すると回復は困難となります。
外傷性のものは外傷時の高エネルギー損傷のため、回復は難しいものが多いです。受傷直後には外傷による視神経の浮腫(むくみ)を軽減するためにステロイドパルス療法を行なうことがあります。また、視神経管解放術という外科的治療が選択される場合もあります。
遺伝性の場合は、遺伝子治療も含めて有効な治療法が現状ではなく、かつ進行性のため、最終的には失明に近い状態になることもあります。
解説:加畑 隆通
水戸済生会総合病院
眼科主任部長・副院長
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