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2017.03.30
心臓は、厚さ3mm以下の心膜という組織に包まれています。急性心膜炎はこの心膜に急性の炎症が発症した疾患です。軽症の症例も多いため、医療機関を受診しても見過ごされることがあり、正確な発症頻度はわかっておりません。しかし、胸痛のため救急外来を受診された患者さんのうち、虚血性心疾患を除いた症例の約5%が急性心膜炎であったとの報告があります。
急性心膜炎のほとんどはウイルス感染症と考えられています。すべてのウイルス感染症が急性心膜炎を発症する可能性がありますが、急性心膜炎患者でウイルス感染を証明することは困難であり、ほとんどが「特発性」(すなわち、原因を特定できない)急性心膜炎という診断になります。
それ以外、つまり原因を特定できる急性心膜炎の病因としては、以下のような原疾患が挙げられます。
急性心膜炎の原疾患
・種々の感染症(感染が証明できるウイルス性、結核性、細菌性、真菌性など)
・膠原病・自己免疫性
・癌性
・心筋梗塞後
・尿毒症性
なお、これらよりやや頻度が低いですが、薬剤性、放射線性、外傷性・開心術(心臓を切開し、人工心肺装置を用いて行なう手術)なども原疾患として挙げられます。
診断には心電図が非常に有用で、約90%の症例に心電図異常が認められます。心電図異常を認める疾患としては、急性心筋梗塞が特に知られていますが、心電図の特徴、胸痛の性状などにより、急性心膜炎との区別は可能です。
また、急性心膜炎の際、心膜と心臓の間に液体(心のう液)が貯留することがあるため、心臓超音波検査で確認します。
多くはウイルス感染によるものと考えられているため、特別な治療法はなく、NSAIDs(エヌセイズ/抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称)の内服により、痛み、あるいは炎症のコントロールを行ないます。再発性、難治性の場合には、コルヒチンという薬を併用する時もあります。なお、ウイルス感染ではなく原疾患がある場合は、その治療が行なわれます。
ウイルス感染による急性心膜炎の多くは軽症ですが、心臓そのものにも炎症がある場合(心筋炎の併存が急性心膜炎の約15%に認められるといわれています)、あるいは前述した心のう液が貯留し、心臓の動きが妨げられた場合(心タンポナーデの合併)には、重症となることがあるため、入院経過観察・治療が必要になります。特発性急性心膜炎で多量の心のう液が貯留することはまれです。しかし、特にがん性心膜炎では、心のう液貯留により心タンポナーデを合併することがあり、その際には、心臓と心膜の間にチューブを挿入し、心のう液を体外へ排出させる(心のうドレナージ)ことがあります。
発症した場合、ほとんどの症例で胸痛が生じます。胸痛は、深呼吸、咳、体動、嚥下によって症状が悪化します。また体位では仰臥位(仰向け)、左側臥位(左側を下にして横になる)で痛みが増し、前屈の坐位で軽くなるのが特徴といわれています。このような症状が出現した場合には、近くの医療機関を受診し、心電図のチェックなどを受けるのがよいでしょう。
また、胸痛に加え、全身のむくみ、倦怠感、呼吸苦、易疲労感などが認められた場合には、速やかに心臓専門医による診察を受けてください。前述いたしましたが、急性心膜炎の多くは軽症であるものの、心筋炎が併存した場合、あるいは心タンポナーデを合併した際には、重篤な状態となりますので、注意が必要です。
急性心膜炎の多くはウイルス感染症と考えられているため、一般的な感染予防(うがい、手洗いなど)を行なってください。
ウイルス性以外の原因としては、膠原病・自己免疫性、癌性などが多いのですが、そのような持病がある場合には、適宜主治医に相談してください。
また、特発性急性心膜炎の約15~30%は再発するといわれているので、急性心膜炎の治療後しばらくは、胸部症状の再発に注意していてもよいかもしれません。ただ、再発した場合にも、最終的には寛解していくことがほとんどですので、それほど心配する必要はないでしょう。
解説:八木 崇
栃木県済生会宇都宮病院
循環器内科主任診療科長
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